「渋谷ではたらく社長のアメブロ」という象徴的なタイトルのブログ。そして、1998年の創業からずっと渋谷近辺に拠点を置き、現在は関連会社を含めると10箇所以上の点在するオフィスに、三千人以上の社員が渋谷へ通勤している“サイバーエージェント”というインターネット業界を代表する企業体。そのトップである藤田晋社長は渋谷という地に対してどんな想いとこだわりを抱き、どのような未来を見据えているのか? さらに氏が一貫してサポートし続けてきたヒップホップとの関連性は? 奇しくも13年以上渋谷に住み、サイバーエージェントの社員だった時代もある筆者が、ずっと抱き続けてきた疑問を率直にぶつける念願がかなったインタビューを、長谷部区長に続くFUZE渋谷特集・第二弾としてお届けする。
たまにクラブにいっても
当時のワクワクする感覚はない
――実は私も渋谷に住んでいたことがあって、渋谷マークシティが建つ前の時代からでした。その頃にサイバーエージェントが渋谷で立ち上がり、マークシティに入り、藤田さんがブログ「渋谷で働く社長のブログ(当時)」を始められた歴史がありますが、なぜ「渋谷で働く」という言葉をブログタイトルに選ばれたのでしょうか?
藤田:それはもう偶然でした。最初は「東京で働く社長」ブログで始まったんです。でも、いくらブログで仄めかしても、なかなか自分だって気付いてもらえないから、渋谷に限定したんですよ。そしたら「社長」と「渋谷」のミスマッチが意外とハマって広まり、それが自分も気に入ってそのまま使い続けたんですね。
――今でしたら「渋谷の社長」は大勢いらっしゃると思いますが。
藤田:いや、もともと大勢いましたね。我々の業界は多かった。渋谷の社長は若いというイメージがあり、それが世の中的にも新しかった。ただ、渋谷で長崎飯店に入ると「どこで働いているんだろう?」って思うほど多くのサラリーマンに出会うように、渋谷で働く人って実は多いんですよ。
――学生時代から渋谷に対する思い入れはありましたか?
藤田:大学が青山学院大学でしたので、遊び場は基本的には渋谷でしたね。当時は丁度マークシティが建設されている最中で、学生時代にはあそこに会社を構えるとは夢にも思っていませんでした。よくセンター街をウロウロはしていました。飲みに行くことが多かったですね。
――チーマーだったとか(笑)?
藤田:違う違う(笑)。
――渋谷を起業の場に選ばれた理由はどういうところだったのでしょう?
藤田:若い優秀な人を採用しようと思ったので、一番は採用目的が大きいですね。自分が就職した会社は青山にありましたが、やっぱり若者を採用するには渋谷が良いだろうと思うようになり、渋谷を選んだということもあります。ですので物件も渋谷を中心に探していましたね。他の選択肢は全く考えてなかったですね。
その後「ビットバレー」とか渋谷が呼ばれるようになって、誰か申し合わせたわけでもなく、渋谷にIT系企業が集まりはじめて、若い人も活躍できる新しい産業が自然と集まるようになっていっただけだと思うんです。新宿、六本木よりも若いイメージはありましたね。若者に対する吸引力というか、分かりやすさというか。
――少し渋谷とヒップホップの話をさせてください。2000年前後は宇田川町のレコード文化やヒップホップのクラブやイベントも盛んな時期で、渋谷がヒップホップのメッカ的な位置付けにあったと思います。その頃、藤田社長もヒップホップにのめり込まれていったことに、関連性は感じられましたか?
藤田:まず「CAVE」というクラブが渋谷にあって、そこによく行ってました。そこで、たまに日本のラッパーが来てパフォーマンスをしたり、DJのプレイでMCやったりしていたんですね。それに凄いハマっていって見に行っていたことはあります。学生時代は、服も「STILL DIGGIN’」(※)に買い物に行ったりしましたね。音楽が好きだったので、ファッションもその影響が大きかったんです
――起業後もクラブにいかれたりしましたか?
藤田:起業後やその後はそれどころじゃなくなって、行けなくなりましたね。やがて余裕が出てきて、また遊びに行くようになった頃には、昔とは違う遊び方になってましたね。
――その頃の渋谷と今の渋谷とで、変化は感じていますか?
藤田:たまにクラブに行くと今でも若い子は多い印象ですね。ビックリするくらい平均年齢も低くて。そこにちょっとダサい子も混ざっていたり。以前のようなカオス感はあるんじゃないですかね。自分の見方が大分変わったということは大きいですけれど。当時のワクワクする感覚と同じ感覚は今は無いですね。

猥雑さから生まれるコンテンツや
クリエイティビティーを信じている
――関連会社も含めると3,000人以上の社員がいるサイバーエージェントは、何かしら渋谷の文化に影響を与えてきたと僕は思うのですが、いかがでしょうか?
藤田:道玄坂でサイバーエージェントの社員とすれ違うと、何となく分かるんですよ、今は。起業した当時は会社の信頼性が大事なので、どうしても円山町界隈だけは避けたかったんです。その後しばらくして会社の社会的な認知度も広がったので、どうでもいいやと(笑)。社員も違和感を感じていない。シリコンバレーのお客さまがこの会社に来たら、周囲の状況をみて「ここはどうなっているんだ」と(笑)。でもむしろ、そういった猥雑さから生まれるこの会社のコンテンツやクリエイティブは信じているところでもあるんです。
本当のことをいうと、サイバーエージェントの社員も大人になってきたので、表参道か代官山の並木道を歩くような雰囲気になってきている。だから「表参道に引っ越したいね」と社員に言うと、みんな「いいですね」と喜ぶんです。特に女性社員が。でも、一方で道玄坂の「雑多感」も捨てられないんですね(笑)。
実はまだ正式に発表していないんだけど、オフィス移転を予定しています。それで、引っ越し先を検討している内に、朝みんなが同じ方向に向いて歩いて行くようなことになると、サイバーエージェントが持っているクリエイティビティーのようなものが失われていくように感じて。渋谷の良さが失われるような。会社に行って帰るだけの生活ではね。だから、いろんな方向から通勤してくるような場所が良いなと思いました。
ちなみに、いま、オフィスをバラバラに点在させているのですが、あえて雑多感をだそうというところもあるんです。アメーバのように増えていくイメージで、そのことが社員に大企業感を感じさせないのかもしれません。社員が一同に集まる年2回の社員総会の場で、初めて「こんなに社員がいるのか!」と僕ですら驚くくらいです(笑)。
ショップは大型化しても
猥雑な文化は残って欲しい
――80年代、90年代の渋谷カルチャーの発展に西武や東急など大企業の商業施設が貢献したことを考えると、2010年代の渋谷カルチャーを作るのはサイバーエージェントという風に捉えることはできますか?
藤田:だといいんですけれど。AbemaTVもスタジオ施設が神宮前にあるので、どこかで渋谷発のメッセージに変えていきたいなと思っています。放送局は、お台場から発信していますとか、汐留から発信していますとか、場所が分かりやすければいいと思うので。渋谷から発信した方がいいですよね。
――渋谷で放送局というとNHKですので、構造的にAbemaTVはカウンターメディア的な存在ですね。
藤田:確かにそうですね(笑)。
――渋谷の街から洋服屋やレコード屋が消えていった背景には、インターネットによってコンテンツ消費したり買い物する若者が増えていったという行動変化が大きいと思いますが。
藤田:間違いないでしょうね。それまでは週末渋谷に買い物に出かけてた時代があったわけですから。一方で、イベントなどは、インターネットのおかげで広く告知ができるようになっている。街並みは変わらざるを得ない状況にはありますね。

――インターネット企業であるサイバーエージェントとして、オンライン/オフラインという側面から渋谷に対して働きかけることは会社のビジョンとしてお持ちですか?
藤田:情報発信という側面は持っているので、やるとしたらイベントスペースの運営などは考えたりしたいですね。テレビ局の『お台場みんなの夢大陸』みたいなイメージで、渋谷全体と一緒に取り組むことも可能なんじゃないかなと思ったりします。渋谷の長谷部区長は、区長に当選される前から応援していたこともあって。もっと区と一緒にやってもいいかもしれないですね。
――なぜ渋谷が若者文化の象徴になっていったと思いますか?
藤田:原宿に行くと、集まっている人が全然違いますよね。ちょっと尖っているというか。新宿になれば大人が多い。僕なんかも大手町とかにある大企業に行く時はスーツを来ていきますけれど、渋谷の会社から来た人がスーツを来ていくと完全にアウェイ感ありますよね(笑)。それってやっぱり若者の街だからじゃないですか? 新入社員が「金髪ですけど大丈夫でしょうか?」と聞いてきたことがあったのですが、社内には金髪の社員が何人もいるし、かえって目立たなかったりするし(笑)。
――たしかに(笑)。最後に、渋谷で共に成長してきた企業として、将来の渋谷がこうなって欲しいなと言うビジョンはありますか?
藤田:ショップは大型化しても、猥雑な文化は残って欲しいですね。大型のビルが増えて街が成長しているじゃないですか。それに比べると百軒店とかカオスだからね(笑)。でも、そういう落差こそが渋谷なんじゃないかと思っています。
※世界的なレコードコレクター/DJであり、日本のHIP HOP黎明期を支えたMC/プロデューサーであるMURO氏のショップ&ブランド。
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