見知らぬ土地で聞く未知の言葉は迷宮のようなものだ。まして、自分が今まで使ったことのない文字(それも日本語のように文字の種類自体が複数ある!)を使い、文法も慣れ親しんだものと、まったく異なるとなれば、その混乱具合は想像に難くないだろう。
少なくとも、フランスから日本に移住したゲームデザイナーJulien Ribassinにとって、日本語は未知の世界の構成物であり、その「わからなさ」こそが『illumine』を生み出すインスピレーションとなった。
『illumine』の世界では、物に当たる光の角度の変化によって影が形を変えていくように、プレイヤーの動きに合わせてダンジョンの形自体が変化していく。
ダンジョン内には、さまざまな文字が生息しており、文字によってはプレイヤーを見つけたとたんに襲いかかってくる。だが、プレイしていくうちに、どうやら特定の条件下でなら危険なく共存できることがわかる。プレイヤーの動きによって変化するダンジョンの壁を利用した足止めも可能だ。
『illumine』の世界観は、主観を持つ個人の言動と環境とのインタラクションによって事物が立ち現れ、刻々と姿を変え続ける現実世界の比喩にも見える。ゲームをプレイししていると、ごく幼い頃に手探りで言葉を獲得しながら環境に適応していったときの感覚を思い出すのだ。
『illumine』の制作意図や背景についてのインタビューに対し、Julien Ribassinは次のように答えてくれた。
『illumine』は、私自身の個人的な体験にインスパイアされてできたゲームです。私は3年前にフランスから札幌に移住しましたが、私にとって周囲に日本語が飛び交う環境は1980年に作られたゲーム『Rogue』で迷宮探索をするようなものでした。何を聞いてもどの文字を見ても、まったく訳が分からなかったんです。
『Rogue』のゲームとしての仕組みは、ゲームの中での法則を発見して解明することで成り立っています。ですから、それと似たユーザー体験をデザインしようと思いました。たとえば『illumine』のダンジョンの中では、Aの文字が襲いかかって接触すると死んでしまいますが、文字のとがった方にプレイヤーが立つと何もしてきません。
始めたばかりのユーザーは、きっとこの世界の法則がわからずに面食らうでしょう。ですが、慣れていくにしたがって、単純にスコアを上げることよりも、このゲームの世界にいる住人たちと共存する方法を見いだしていく経験に意味があると気がつくはずです。
Ribassinは、北海道にあるDejimaという個人スタジオでゲームを制作し、ゲームAIのプログラムコードも彼自身が書いた。プログラミングは、パリ第7大学で天体物理学の博士課程にいる間に、独学で学んだとのことだ。
しかし彼にとっては、ゲームAIのプログラミング以上に大きな挑戦が、音楽とのインタラクションをデザインすることだったという。日本に移住した時の体験に加え、サイエンスを学びながら15年間続けていたバンド活動の経験が、彼のゲームの作風に大きな影響を与えているとRibassinは言う。
『illumine』のもうひとつの特徴は、ダンジョン探索とサウンドスケープのようなBGM、効果音とのインタラクションの心地よさだ。実は音から得られる情報もゲーム攻略の重要なヒントになっているとのこと。
現在『illumine』は、SteamのGreenlightでの投票の結果、審査を通過してリリースの準備を進めている。プラットフォームはWindows PC、Linux。この不思議な世界をふたたび探索できる日が楽しみでならない。
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