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6 レポート:ブロックチェーンとは何か?

ブロックチェーンは、難民を「経済的アイデンティティ」で救っている

NEW INDUSTRY
ライター福田ミホ
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国連難民高等弁務官事務所の2015年の報告によると、世界の中で強制的に移住させられた人の数は史上最多の6530万人に達した。彼らが異国の地で自立した生活をしようとしても、身分を証明するものや銀行口座といった経済活動の基盤がない、または持つのが難しいのが現状である。また世界銀行によれば、難民化していなくても、銀行口座を持てずにいる人は2014年時点で20億人存在している。

銀行取引のような基本的なサービスが受けられなければクレジットカードも持てず、物やサービスの売り買いも現金や物々交換でしかやり取りできず、経済活動は必然的にローカルに閉じてしまう。治安の悪い地域で多額の現金を持つことは危険でもある。また発展途上国ではひとりの人が複数の団体から何らかの支援を受けることも珍しくないが、それらの団体を横断するアイデンティティが存在しないことで、支援を受ける人の置かれた状況の把握が困難であった。

そこで、銀行口座を開くときなどに必要な本人証明手段を持たない人に「経済的アイデンティティ」を提供すべく創設されたのがBanQuである。BanQuはブロックチェーン技術を使い、従来の身分証明に代わる情報を管理・共有する仕組みである。ブロックチェーンを使うことで改ざんが困難になり、また中央集権的な処理に比べて効率良い管理が可能になっている。ユーザー側は携帯電話などでBanQuアプリから情報にアクセスするため、アフリカで普及している古いタイプの携帯電話でも利用可能なよう配慮されている。

BanQuの管理する情報には、大きく分けて「Who」「Trust」「Record」がある。「Who」とは彼らがアイデンティティを付与する人物がどのような人物であるかということ、「Trust」とはその人物の信用に関する情報、「Record」とは経済活動の記録である。詳細について、Quartzにはこう説明されている。

技術的には、ネットワークのメンバーがある人物のセルフィー写真と身体的特徴、バイオメトリクスをまとめたデータを作り、それを安全な台帳にアイデンティティとしてアップロードする。そこには、身分証明対象の人物と過去に取引したことを証明する人物が作った関係ベースの信用プロフィールも添付される。こうして事実情報の共有が従来の証明書類の代替となり、他のBanQuユーザーはそこに信用情報を付加したり、その情報を参照して契約を交わしたりといったことが可能になる。

インターネットは世界の貧困における人間の基本的ニーズの問題を解決できなかった

Quartzによれば、BanQuはすでにケニアのダダーブ難民キャンプの難民に経済的アイデンティティを付与してきた実績がある。またBanQuは難民だけでなく、極度の貧困状況にある人を自立に導くことを目指して活動している。

BanQuの創業者兼CEOのAshis Gadnisは、Devexで次のように語っている。

SDG(持続可能な開発目標)は、単発のソリューションが実践されても達成できないだろう。単発のソリューションは、世帯をばらばらにしてしまうからだ。SDGが達成できるチャンスがあるとすれば、それが共通の損益損益計算書とバランスシートを持ち、ひとつのユーザーアイデンティティを有するひとつのプラットフォームとして扱われるときだ。世界のあらゆる成功したビジネスと同じように。(略)

ブロックチェーンはすべての問題を解決するわけでも、魔法のようにSDG(持続可能な開発目標)をもたらすものでもない。だがそれによって、今までとは違う考え方や行動が可能になる。インターネットは世界の貧困に関しては、人間の基本的ニーズの問題を解決できなかった。ブロックチェーンは、それを解決するための現実的な策になることを信じている。

上の動画では、アメリカに渡った青年がアフリカに住む兄弟にBanQuを介してバイクの購入資金を送り、兄弟はそれを元にバイクタクシーを営むというストーリーが紹介されている。難民支援というと居住場所や物資の提供が想定されがちだが、BanQuは難民が自らの手で生活をコントロールし、将来を切り開くための基礎を提供しようとしている。そのアプローチ、そしてブロックチェーンの技術と脱中央集権的な発想が世界を変えていくことができるのか、期待をもって見守りたい。

レポート:ブロックチェーンとは何か?