大砲あり、テスラコイルあり。ロシアのメイカーフェアは発想の宝庫だった
NEW INDUSTRY今年の7月9〜10日にロシアで初開催されたメイカーフェア、「モスクワ・ミニ・メイカーフェア」に参加する機会を得た。そこでは、集まる人々が楽しみながら伸び伸びと作品を製作している様子を見ることができた。
BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)諸国のメイカーの現場は、ますます熱くなりつつある。その中でも日本人にとってアクセスしづらい国のひとつロシアで見た「ものづくり最新事情」をレポートする。
主催者に案内してもらったFabLabモスクワ

開催日前日の7月8日に、モスクワ・ミニ・メイカーフェアの会場となるMISiS(The National University of Science and Technology:ロシア語表記МИСиС)を訪ねた。開催の前日に訪問したのは、モスクワ・ミニ・メイカーフェアの主催者でありFabLabモスクワのディレクターでもあるウラジミールさんに会うためだ。ウラジミールさんは、早速MISiS内にあるFabLabモスクワの中を案内してくれた。

電子工作室内には3Dプリンターやレーザーカッターといった基本的な機材のほかに、巨大なCNC工作機械(素材に彫刻などを施せるコンピューター数値制御の掘削機)がある。
特に目をひいたのは巨大な木工マシーンだ。「ここでモスクワ・ミニ・メイカーフェアで使うすべての家具や装飾品を製作したんだ」とウラジミールさん。通常のイベント会場で使う調度品は外注することが多いが、ここではすべての装飾品を自分たちの手でつくっている。

外に出ると、MISiSでモスクワ・ミニ・メイカーフェアの準備が進められていた。大きな看板には、MISiSとFabLab77 Moscowの表記に加え、オリジナルのキャラクターが描かれていた。
個性的な人たちが集う、モスクワ・ミニ・メイカーフェア
7月9、10日と2日間行われたモスクワ・ミニ・メイカーフェア当日は、英語ができる学生さんたちに会場内を案内してもらった。

最初に会った彼女は、FabLabモスクワ会場のデザインを担当しているヤロスラワさん。前の日にウラジーミルさんが話していたように、今回のメイカーフェアの会場内や展示スペースの装飾品はすべて手づくり。そのデザインを手がけたのが彼女なのだ。

レーザーカッターで装飾をほどこした看板と、そこから切り出して組み立てたイスが会場内に設置されている。

ヤロスラワさんがデザインしたテーブル。天板はゲームのできる電子ボードで、全体的に曲線的な形になっている。

「これ、私が3Dプリンターでつくったの!」と言ってヤロスラワさんが見せてくれたバッグとオブジェ。幾何学的なデザインが素敵だ。バッグをよく見ると、積層したフィラメントの下に網目があるのがわかる。網の上に積層3Dプリントすることで動きのあるチェーンバッグをつくるのは、3Dプリンターを使ったものづくりとして、とても独創的なアイデアだ。

会場を歩いていると、何かに乗った人が横をスッと通り抜けていった。セグウェイがあるのかと思ったが、よく見ると黒くて重そうな鉄製の電動二輪車だった。「君! とにかく乗ってごらんよ!」と話しかけてくれたのは製作者のドミール・ザイヌラインさん。モスクワ市内にあるUniversitet Mashinostoenii(機械製作大学)に所属するロボット工学者である。乗ってみると、意外にもとてもバランスが取りやすい。
すると、ドミールさんが「v1とv2に等しく力が掛かるためには、どうしたら良いと思う?」とたずねてきた。つまり、力学的にどうやったら等しく力が分散できるか?という意味なのだが、いきなり物理の計算式を書いて聞いてくるメイカーには初めて出会った。
さらに「ここから30分くらいのところに我々のロボット研究所があるから、遊びに来なよ。ここには持って来られなかった、すごく大きなロボットや機械がたくさんあるんだ! いいな!」とたたみかける。その勢いに、もはや圧倒され、「うん行くよ」と答えてしまった。
ロシアの人たちはとても強引で、「見て見て!」と、こちらを圧倒してくる。少し面食らうこともあるが、だからこそ彼らのものづくりに対する情熱が伝わるのであった。

子ども向けエリアの中に一際目立っていたものがあった。表示板にはЦМИТ Академия(CMITアカデミー)と書いてある。ここの展示は衝撃的だった。大砲!? 銃!? イミテーションらしいが、さすがロシアというか、つくるものがぶっ飛んでいる。
「どうして大砲をつくっているの?」と聞くと「これは子どもたちの遊ぶおもちゃ。彼らと一緒につくったものだよ」とのこと。ここでは他にも子どもたちがつくった作品を展示していた。「私たちの運営するCMITアカデミーの中を見せてあげるよ! 月曜の夕方5時に来てね」と誘ってくれた。こんな作品をつくる子ども向けの施設とは一体...?と疑問に思いながらも、彼らのもとへ見学に行く約束を交わした。
ここのスタッフたちはとても気さくで、ロシア人にしては英語が話せる人たちだ。新しい出会いと、見学先で見られるであろうロシアならではの「ぶっとんだもの」への期待にドキドキした。
レーザーカッタードローンにロシア版VRも!

会場内には各出展者による自作のドローンが自由気ままに飛んでいた。Clever Droneという企業のブースでは、なぜ彼らがレーザーカッターからドローンを製作するのかを話してくれた。「レーザーカッターでつくることによって、高性能なドローンのデータをオープンソースにできる。しかも、そのデータを加工することで、いつでも好きな形に変えられる。このブースでは、僕たちがつくったドローンを組み立てキットにして販売しているよ。値段は大体3〜4万ルーブル(約4〜5万円)かな?」。今後はコンパクトにたためるドローンをつくる予定らしい。

ドローンだけでなく、屋外で飛ばせる小型飛行機を販売しているブースもあった。すべて手作業でつくったらしい。屋外では子どもたち向けに、レーザーカッターとArduinoからつくられたドローンの展示と実演をしていた。
実は以前のロシアはドローンが法律で規制されていたが、結局守る人がいなかったのでその規制は撤廃されたという経緯がある。この国の人々は法律や規制ができても、それにうまく対処しながら自分たちのやりたいことができるように工夫をする傾向がある。そのたくましさがなければ、ソ連の崩壊やルーブル安といった不安定で苦労の絶えない国の中で、これほどの前向きさを持ち続けることはできないだろう。

ロシア版のVRヘッドマウントディスプレイの販売ブースもあった。一見ハコスコやカードボードに似て見えるが、凸型レンズを使用し、可視性に優れたつくりになっていた。

こちらの展示は古代のVRという設定。ヘッドマウントディスプレイのアンティークな色づかいや木製の古い箱の雰囲気がよい。

こちらは、お月さまが観られるというVRヘッドマウントディスプレイ。
恐竜の着ぐるみが立ち、人工カミナリが鳴り響く
Nerdy Derbyという団体のミニカーコンテストが開催されていた。彼らは世界各地のメイカーフェアを巡回して動力を使わないミニカーのレースを行っているが、ここでは3Dプリンターやレーザーカッターでつくったネジやタイヤといったパーツを組み立てて、オリジナルのミニカーをつくっていた。一生懸命キットを組み上げたミニカーで子どもたちが競っている様子は、日本でいうミニ四駆文化に似ていた。

日本から来て2足歩行ロボットPLENを出展していたプレンプロジェクトのブース。ヨーロッパを巡回中でこの日はオランダから移動してきたばかりだった。

リアルな恐竜着ぐるみの展示もあった。なんと中に人が入れるのだ。
テスラコイルが鳴り響くと、その音しか聞こえなくなるほどの音量になり、それを囲むように人々が群がる。会場内で爆音を流しても雷をぶっ放しても「おーすげー!なんかやっているー!」というノリがロシア。これをつくった人たちは物理学者で、研究合間の「お遊び」の一環としてつくったそうだ。

顔をスキャンして自分のフィギュアがつくれるスキャナー。出力は3Dプリンターだ。
工業っぽさがロシア的? シリンダーに水を送るゲームに鋳造体験まで
「よーい、スタート!!」スーパーマリオのBGMとともに威勢のよい声が屋外に響いた。このゲームは足でダンダンダンダンダン!と床を踏みつけると、水が相手のシリンダーに送られ、先に一定水位まで相手側に水を送り込んだ方が勝ちというルールだ。
筆者もチャレンジしたが、相手が子どもだったからか、なぜか長期戦となった(体重の違いもある?)。結果は負けてしまったが、体を動かす展示は楽しい。こちらのАмперка(アムネーカ)というグループは、このバタバタマシンの他に、ArduinoやRaspberry Piを使って楽しみながら電子工作ができるキットを売っていた。
鋳造体験ワークショップ。一生懸命取り組んでいる子どもたちの様子に、大人たちも見入っていた。

真空管でつくったランプも展示してあった。

このギターはCNC工作機械で加工してある。設計段階から自分たちの手でつくることで、オリジナルの音色を生み出せるとのこと。
会場で思わぬ再会も。面白い人たちは世界中にいる

取材の合間に素敵な出会いや再会もあった。会場の中で一際行列のできていたブースがあったので中をのぞいてみると、頭の振動に反応してメガネのサイド部分にある網と棒が動く帽子型のウェアラブルデバイスがあった。製作者はセルゲイさんだ。
筆者も日本のライトニングチーム・Qxxyでつくった「Happy Hat」という帽子を日本から持ってきたが、これもランダムに光ったり首を振ることで光を調整できる。お互いに一目見たとたんに「ブラザー!!」と叫んでしまうほどに近い発想から生まれたウェアラブルデバイスが巡り会えたことに驚いた。

その後さらに会場の中を歩いていると、巨大なデルタ型3Dプリンターを見つけた。フィラメント部分がダクトとつながっていて、そこから土が出力されていた。どこかで見たと思っていたところ...
「ショウコ、君のことを覚えているぞ! 昨年深センで会ったサムライガールだろう」と話しかけてくる人物がいた。彼はホセさん。「土の3Dプリンター」をつくった天才だ。彼は土で3D造形したモノを乾燥させてから焼くことで、手軽に陶器製品をつくっている。
ホセさんと筆者は昨年メイカーフェア深センが開催された時に会っていた。彼はアルゼンチンから来ていたFabLabブエノスアイレスのスタッフで、メイン会場の外で行われていた世界中のFabLab関係者の集まりに来ていたのだ。
チョコレートやグミが3Dプリンターから出てくるのは見たことがあるが、土を素材にするという発想には驚きを隠せない。さらにこのように大きな機械をわざわざブエノスアイレスからモスクワまで空輸したというのだから二度驚きだ。

後日談となるが、今回取材した筆者の様子が、ロシアの第1チャンネルというTVに取り上げられていた。
モスクワ・ミニ・メイカーフェアの取材を通してロシアの人たちから感じられたのは、失敗に対する寛容さとそこから前向きに学ぶ姿勢が、彼らの旺盛なチャレンジ精神を支える土台にもなっていることだ。それは後日取材をしたCMITアカデミーの方針にも表れていた。
source: Mini Maker Faire Moscow
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