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アートとジャーナリズムを「比較するAI」を展示する英テート・ブリテンの試み

ARTS & SCIENCE
ライター渡邊徹則
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人生を豊かにするアートと、事実を淡々と伝えるジャーナリズム。まるで両極にある2つの世界に共通点はあるのか。決して交わりそうにない世界を結びつけたのは、英国美術館が選んだ人工知能(AI)だった。

イギリスの国立美術館、テート・ブリテンでは、アートギャラリーの体験をデジタルテクノロジーで拡張させるプロジェクトを表彰するアワード「IK Prize」を毎年開催している。今年、最優秀賞を受賞したのは、チームFabricaの「Recognition」というプロジェクトだった。イタリアを代表する企業ベネトンのコミュニケーションリサーチセンターであるFabricaメンバーのアンジェロ・セメラロ(Angelo Semeraro)、コラリー・グーグション(Coralie Gourguechon)、モニカ・ラナーロ(Monica Lanaro)で結成されたチームは、イギリスが世界に誇る伝統芸術と、現代のフォトジャーナリズムに共通点を見出そうとするソフトウェア・プロジェクトを発足させた。

テート・ブリテンrecognition

Fabricaは15,000英ポンドの賞金と90,000英ポンドの制作予算を手にした。AI開発専門企業JoliBrain、さらにマイクロソフトが提供するAI技術を基盤に、ロイターの報道写真とテート・ブリテンのコレクションを並べて、現代メディアと古典アートの類似点を見つける人工知能のアルゴリズムを作り、巨大なバーチャルギャラリーをウェブ上で展開しよう目論んでいる。

物体の配置、人物の表情、構図、それにコンテクストによって類似点が判別される絵画と写真。この二つを比較という行動で、さらなるアートの表現方法と印象の議論を誘発させる。「Recognition」の展示は、アメリカ大統領候補ドナルド・トランプの遊説風景と、1828年にイギリスの歴史画家ベンジャミン・ハイドンの「Chairing the Member」という絵画といった対象的な素材を、AIの「物体認識」や「顔認識」、「組成分析」、「文脈解析」技術を用いて比較する中で、バーチャル空間上でイメージに注釈を書き込み、アートの価値や文脈を再解釈しようとする試みだ。「Recognition」のウェブサイトでは、AIの解析が全てアーカイブされている。

テート・ブリテンfabrica
セメラロ、グーグション、ラナーロ

チームメンバーはこのプロジェクトを次のように語っている。

私たちはデジタルテクノロジーによって日常的な時間と世界に対する認識がどのように変化するのかに関心があります。テート・ブリテンのコレクションを現代のフォトジャーナリズムと比較する人工知能の一種を育て、私たちの世界を探求するユニークな機会に恵まれました。テート・ブリテン、マイクロソフト、そして才能に溢れたAIスペシャリストのチームと共に、この有機的で視覚機能を持ったアルゴリズムを開発できることを楽しみにしています

Recognition」の展示は11月27日まで開催される。奇しくも、「Recognition」の基礎には人間の脳を模して作られた仕組みであるニューラルネットが用いられているという。我々はいつか、芸術の味わい方や奥深さといったことまでAIに教わるようになるのかもしれない。