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9Ars Electronica Festival 2016

ビットコインでダークウェブの闇商品を淡々と買うボット「Random Darknet Shopper」

DIGITAL CULTURE
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ライター福田ミホ
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私たちが普段使っているインターネットの裏側には、一般的なブラウザからは閲覧できない「ダークウェブ」と呼ばれる世界がある。そこにアクセスするにはTorなどのアクセス元がたどられにくいツールが必要だ。行き先を網羅的に検索できるGoogleのような検索ツールもない。サービス利用やオンライン販売などで金銭授受が発生する場合には通貨としてビットコインが使われ、クレジットカードなどから身元が割れる可能性を排除している。その匿名性の高さから、ダークウェブには犯罪者や過激な政治・思想活動家、ハッカーなどが多くアクセスしていると言われる。

そのダークウェブを、そこにアクセスしない者の目の前に物理的な形で提示するアート作品がある。「Random Darknet Shopper」(以下RDS)と題したその作品は、コンピュータ上のプログラムがダークウェブ上で商品を無作為に購入し、配送されてくる商品を淡々と展示していくものだ。ただし予算には毎週100ドル(約1万円)相当のビットコインという上限がある。2014年2月にスロベニアで公開されて以来、スイスやロンドン、2016年のオーストリアでのArs Electronicaでも展示されている。

ネット上の闇市ともいうべきダークウェブでランダムに買い物をしてくれば、手に入るものが必ずしも合法的なものばかりではないことは容易に想像できる。実際RDSはスイスでの展示中に不法薬物MDMAを購入し、ギャラリーはそれを展示した。それを知った警察はギャラリーを家宅捜索し、MDMAとRDSのプログラムを押収していった(ただし警察はRDSというボットを逮捕しようとしたわけではなく、アートとしてMDMAを展示するのは許容できると判断した)。

が、RDSが購入した商品が違法なものばかりというわけではない。たしかにこれまでの購入品の中には、車のカギのピッキングツールセットボイスチェンジャー機能付きの携帯電話など、犯罪に利用されうるものがある。ただ一方で、ラコステのポロシャツ(本物かどうかはわからないが)、電子書籍化されたフランス料理のレシピ本なども購入されている。

Random Darknet Shopperを作り出したのはスイスのアーティストカップル、Carmen WeisskopfとDomagoj Smoljoによる!MEDIENGRUPPE BITNIKだ。彼らはこの作品の動機をThe Guardianで次のように語っている。

私たちは本当に、このようなマーケットで取引されている商品について考える場を提供したいのです。それらがなぜ取引されているのか? 私たちは社会として、このような場とどう向き合うのか? 現状では圧力だけは大きくかかっているが、これらの問題についてあまり考えられてはおらず、即時的な反応ばかりです。

また彼らは、ダークウェブで取引される商品の多くが「非常にナード的」で、スニーカーやジーンズ、ガジェットなど「18歳から30歳の人たちが興味を持つようなもの」だと指摘している。そしてそれらの出どころは「合法なものも、違法なものもありうる」と語る。

ドラッグもブランドのコピー商品も古着のジーンズも並列に売られているダークウェブでは、何を基準に購入先を選ぶのだろうか。この作品のもうひとつの目的は、匿名で違法な物品をやり取りする中で、売り手と買い手がいかに信頼を確立できるかを明らかにすることでもあった。そこでWeisskopfらが発見したのは、ダークウェブのマーケットがAmazonやEbayといった一般的なサイトの評価の仕組みをうまく取り入れていることだった。そのためか2014年12月時点では、購入した商品が届かなかった例はひとつもなかったという。WeisskopfはThe Telegraphでこうコメントしている。

ダークウェブで取引される商品は、匿名ネットワークでもしっかりと信頼が築ける方法を示しています。ダークウェブは参加者の匿名性の上に立脚していますが、評価システムと匿名掲示板が一定レベルの信頼を保証しています。

販売者を評価できることで、ドラッグなどの統制品を購入する方法が劇的に変化しつつあります。それらをオンラインで買えるということは、匿名性を保ち、自宅にいながらでも、信頼できる評価システムにアクセスできるということです。

!Mediengruppe Bitnikは過去の作品でも、一般社会から隔絶された存在をシンプルなテクノロジーで顕在化させていた。彼らは2013年、Wikileaksのジュリアン・アサンジが身を寄せるエクアドル大使館にライブカメラを埋め込んだ小包を送り、その途上をライブ配信したのだ。RDSともに、既存の枠組みではアクセスが難しい存在を、身近な配送システムによってリアルに引き寄せたと言えるのではないだろうか。

闇市は、たとえば第二次世界大戦後の物価統制下の日本で栄えたように、制約のあるところに必然的に発生していく。当局がネットへの監視を強めている現在の社会では、ダークウェブに流出する取引が増加すると考えられる。また評価システムや掲示板の情報を元に信頼が確立されるのであれば、参加者が増えるほどにネットワークの信頼性が高まっていき、さらに利用者が増えるという循環が生まれるだろう。そのとき私たちはダークウェブという存在をどう考え、利用する(またはしない)のが適切なのか。単に危険ないかがわしい存在として遠ざけているだけではわからないことに、RDSは気づかせてくれた。