ブロックチェーンは、安心をももたらしてくれるのか?
人は、金融、医療、音楽、ファッションなどさまざまな分野で、中央集権的社会構造と共存し、時には対立し続けてきた。そこに登場した仮想通貨・ビットコインと、そのコア技術であるブロックチェーンによって、これまであった規制が変えられ始めている。そういった可能性を持つブロックチェーンによって変わろうとしているのが、銃問題だ。アメリカ社会の根深い問題である銃規制に関しても、「匿名で利用でき、かつ信頼性が高い」というブロックチェーンの特性が活かせる可能性がある。
なぜ銃規制にブロックチェーンが使えるのか、その前提を振り返っておく。アメリカでは銃を所持する権利が憲法で保障されており、また銃メーカーや全米ライフル協会(NRA)などによる長年のロビー活動が銃規制に対抗する強力な世論を作ってきた。したがって、個人の銃所有そのものを禁止することは非現実的であると同時に、銃所持の条件を厳格化することも難しい。そこで、所有者本人でなければ発射できない承認機能を搭載した銃「スマートガン」を普及させようとする動きが現在進められている。
今年1月には(14人が死亡したサンバーナーディーノ銃乱射事件の約1カ月後)、バラク・オバマ大統領がスマートガンを推進する大統領令を発令し、11月には司法省がスマートガン製造のガイドラインを発表した。
現存のスマートガンを発砲するには、Armatixのように特殊なウェアラブルデバイスの着用や、指紋認証などが必要だ。これによって幼児が誤って親の銃を発砲して自分自身や周囲の人間を傷つけたり、家に侵入した強盗が被害者の銃を奪って射殺したりといった事態を防ぐことができる。
ただしスマートガンは、NRAなどの銃規制反対派が強く反発している。ReadWriteによれば、1999年にスマートガンの開発を宣言し政府から助成金を受け取った銃メーカー大手のスミス&ウェッソンは、NRA中心の不買運動により倒産の危機にまで追い込まれた。
銃規制反対派が掲げるスマートガンに対する懸念材料のひとつは、銃利用に認証機能を要することでつながりかねない、政府の監視の目だ。というのは、一般的に認証機能があれば、中央集権的な認証システムに個人情報を入力することになるからだ。
「Blocksafe Foundation」のケビン・バーンズ(Kevin Barnes)は、銃の安全問題をブロックチェーンで解決しようとしている人物の一人だ。バーンズは、元アメリカ陸軍兵士で、除隊後にブロックチェーン開発者となった経歴を持つ。
Blocksafeとは何か? それは、既存の銃メーカーによるスマートガンデバイスのインフラとして動く、ピア・トゥ・ピアネットワークだ。「lisk」「BitTorrent」「Telehash」の組み合わせで実現している。スマートガンの登録にはBlocksafeアプリを介して、オーナーと権限を与えられた者が登録され、銃のトリガーにはロックがかけられる。Blocksafeを使えば、銃の持ち主自身は銃の有効化や無効化、発砲記録、所在などが分散台帳に記録されトラッキングが可能となる。同時に、それらの情報は匿名を維持できるため、政府や第三者に監視されるという懸念を払拭される。つまり銃規制反対派にとっても受け入れやすいスマートガンを実現できるのだ。
バーンズはBlocksafeのメリットについてこう語っている。
匿名かつ安全で非中央集権的なインフラは、ギャング活動を減らし、盗まれた銃の所在を特定し、銃が所有者に対し使われるのを防止するために必要だと考えています。こうした先進的機能は我々の命を守るとともに、自己防衛の権利をも保護することでしょう。via Readwrite
ただしスマートガンに対する抵抗は根強く、全米ライフル協会は「スマートガン自体には反対しないが、スマートガンでない銃の購入・所持を禁止することには反対である」と強くけん制している。彼らのロビー活動が安全を求める世論の勢いを上回り続ける限り、市場には非スマートな銃が存在し続けることだろう。また銃規制に消極的なドナルド・トランプが大統領に選出されたことで、オバマ大統領が進めたスマートガン推進政策も今後は後退していく可能性がある。
とはいえ、現状のまま時間が経てば経つほど、銃によって失われる命は増える一方だ。ニューヨークタイムズによれば、アメリカでは2014年、18歳未満の子どもが親の銃で自殺する事件が532件、誤射による死亡事故が74件あった。彼らの死は、銃がスマートガンであれば未然に防ぐげたかもしれない。ブロックチェーンによってスマートガン導入のハードルが下がり、このような事件事故が少しでも減ることを期待したい。
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