もし私たちがアフリカ象を自宅で飼いたいと思っても、日本をふくむワシントン条約の加盟国に国籍を置く以上は叶わないだろう。さらに、該当する3万種類以上の動物やその身体の一部を取引することもできない。
野生生物の売買を規制するワシントン条約(正式名称は、絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約)は、1973年にワシントンで採択され、2年に1度開催される締約国会議で運用が見直されている。
背景には、乱獲による野生生物の絶滅や激減の問題がある。たとえば宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』で「らっこの上着」のことが言及されていたように、ラッコは毛皮目的に乱獲され、20世紀初頭の時点では絶滅危惧種になっていた。1998年以降は、動物園での観賞用としての輸入も規制によってできなくなっている(via 日経新聞)。
だが、規制によってさらに希少価値が上がり、裏社会でより高値で取引されるようにもなったという側面もある。シベリアではアムールトラが、アフリカではアフリカゾウやサイといった保護対象の動物の密猟が今もなお続いている。トラやヒョウなどの毛皮はもちろん、サイやイッカクの角、トラの骨などは漢方薬の原料として東アジアを中心に高値で取引されている。また、日本や中国では印鑑が象牙によって作られる伝統があり製品の需要があるため、違法売買の主要な市場となっている(捕鯨問題と同様に、伝統か生態系の保全かの議論は平行線のままだ)。
そして、ジャンルにかかわらず違法取引の多くはオンラインで行なわれ、近年はSNSが野生生物を違法に売買するブラックマーケットとして利用されていることが指摘されている。
野生動物司法委員会(WJC)の調査官は、ベトナムのハノイ市内に拠点を置く野生動物の密売組織への1年以上に渡る潜入捜査を行なった。その結果、FacebookやWeChatといったSNSのクローズドのコミュニティやメッセージアプリが、違法売買の温床になっていることが明らかになった。その地域で活動する51のディーラーが2015年に出した利益の合計だけでも、日本円に換算して61億円以上にのぼる。
WJCの調査報告の詳細を報じたThe Guardianの記事によれば、潜入した組織ではFacebookのクローズドコミュニティを象牙製品マーケットとしており、金銭のやりとりはWeChatのWallet機能を通じて行なっている。この件に関するWJCからの問い合わせに対し、Facebookの広報担当者は「絶滅危惧種の売買のような犯罪行為には企業として荷担できない。それに関わる投稿は削除する」とコメントしている。また、当局やNGOが行なう違法行為の捜査への協力もしていると主張しているが、そのアプローチはケースバイケースだという。
Facebookだけではない。eBayやAmazonなどのECサービスも違法売買のプラットフォームとして利用されている。最近では、Instagramを通じたペット用のチーターの取引について、各国の当局による取り締まりが必要であると、ワシントン条約の締約国会議で提案されている(via Motherboard)。
野生生物の違法取引の問題は、絶滅危惧種および生態系の保全の話だけに留まらず、安全保障の問題にもなっている。NHK「おはよう日本」の特集放送では、密漁がテロ組織や反社会勢力の資金源になっていることが指摘されているのだ。そのため2015年以降のケニアやアメリカでは、「テロとの戦い」の一環として象牙の国内取引も禁止し、需要そのものを無くすことを目指している。
確かに需要がある限り、密漁や違法売買を無くすことは難しい。だが日本政府は、現在国内で流通している象牙は取引が禁じられる以前のものと主張し、違法な輸入はないとして、国内での取引を禁止しない立場を取っている。
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