MAIL MAGAZINE

下記からメールアドレスを登録すると、FUZEが配信する最新情報が載ったメールマガジンを受け取ることができます。


4インターネットの深淵

製品は届かないまま、個人情報が横流しされている? クラウドファンディング「iBackPack」の闇

DIGITAL CULTURE
ライターabcxyz
  • はてなブックマーク

クラウドファンディングには危険がつきものだ。どこの馬の骨とも知らない人々が行なうプロジェクトに資金を提供し、たとえそれが真っ当なプロジェクトであっても成功するとは限らない。そんなリスクを承知の上で出資する支援者たちは、まるで信頼という名の薄い氷が張った湖の上でスケートする人々のようだ。

しかし支援者たちの個人情報は、薄い信頼を一枚挟んだ水面下で個人情報取引の対象となっているかもしれない。

FUZE編集部は、匿名の情報提供者から連絡を受けた。自身の運営するウェブサイトにメールを受け取ったという彼は、以前Indiegogoにてクラウドファンディングプロジェクトを行なった人物。そこへ送られてきたメールは、KickstarterやIndiegogoでプロジェクトを支援をした人の個人情報が載ったリスト50万人分を、彼の持つ支援者リストと交換したいと持ちかける内容だった。

支援者の情報は、名前、メールアドレス、出資内容(金額)、その他過去の支援内容の関連情報とのことで、メールの送り主はDayBreak社の「CEOであるDoug Monahanの代理者」を名乗る人物であった。50万人分もの情報を持つのは、この支援者リスト交換のプロセスを「過去18カ月」に渡り繰り返してきたからだという。金銭をその代償にするわけでもなく、ただ交換したい、というのだ。

その後さらに情報提供者の元には、今度はCEOのDoug Monahan自身から、サンプルと称して4万人分の個人情報が一方的に送りつけられてきたのだという。その中には複数のクラウドファンディングプロジェクトから得たと思われる支援者たちの情報が含まれていた。

Doug Monahanと「iBackPack」

160104ibackpack01.jpg
screenshot via Doug Monahan - LinkedIn

Doug Monahanとは一体誰だろうか?この人物のLinkedInページを見ると、MonahanはDayBreak社の創設者でありCEOであるとされている。そしてDayBreak社は「デザイン、マーケティング、データベース」を提供する企業だと同社ウェブサイト(追記, 1/6 13:00 : 現在ウェブサイトは閲覧できない状態になっている。アーカイブには書かれている。「我々のデータベースには400の業界から1億人の情報がある」とのとおり(via DayBreak - LinkedIn)、彼の会社はマーケティングソリューションとして個人情報を扱っており、会社紹介動画では同社のクラウドファンディングプロジェクト「iBackPack」の成功も紹介されているほか、DayBreak社と提携すれば、ローンチ前のクラウドファンディングプロジェクトのサポートも行なうともしている。

170106daybreak_1300.png
(1/6 13:00)現在DayBreak社ウェブサイトアーカイブ)は閲覧できない状態になっている。同様に「iBackPack」の製品紹介サイトアーカイブ)もDayBreak社の紹介サイトにすり替えられた(ただしトップページしか機能しない)

彼らは「Monahanの過去の詐欺取引の証拠」を集めており、中には「顧客情報を悪用し、存在しない製品を売ろうとして責任を問われた例」もあったという

iBackPackによる製品紹介動画

この「iBackPack」とは、一体どんなプロジェクトで、どのように成功をしているのだろうか? DayBreak社のCEO、Doug Monahanのもう一つの肩書は、iBackPack Inc.の創設者兼CEOだ。そのiBackPack社のプロジェクト「iBackPack」はWiFiやバッテリーなどを内蔵したバックパックのプロジェクトで、Indiegogoで目標金額に対し900%近い資金を、そしてKickstarterでも5万ドルの目標金額に対し7万ドル以上を集めている。資金調達後も支援者に向けたコミュニケーションをとっているようだし、一見して良いクラウドファンディングプロジェクトの鑑のように見える。

しかしこのiBackPackプロジェクト、2016年3月に製品を支援者に送る予定だったのだが、一向に完成の目処は立たなかった(ここまでは多くのプロジェクトに起こりうる、何の変哲もないことではあるのだが)。

支援者たちは製品が一向にできないにも関わらず、追加の機能やら出資特典やらが増えたりして、プロジェクトが資金だけを飲み込んでいく形相などから怪しさを感じ、プロジェクト元を問いただす。そして2016年10月を境に出資者とのコミュニケーションが薄くなり、最後の公式アップデートでは使用するリチウムイオン電池から発火するなどの問題を理由に2016年12月に先延ばしにした、などとされている。

しかし支援者たちの信頼は取り戻すことはできず、Facebook上ではiBackPack支援者らによる「被害者の会」(iBackpack Buyers)が立ち上げられる事態に至っている。この被害者グループはクローズドグループなので筆者は覗き見ることができないが、このグループの管理者であるAaron MathewsonがIndiegogoのコメント欄へ12月24日に行なった投稿によれば、彼らは「Monahanの過去の詐欺取引の証拠」を集めており、中には「顧客情報を悪用し、存在しない製品を売ろうとして責任を問われた例」もあったという。

情報提供者によれば、被害者グループは集団訴訟の相談も始めているそうだ。

個人情報はなぜ取引されるのか

160104ibackpack02.jpg
scrennshot via iBackPack - Indiegogo

クラウドファンディングプロジェクトを行なうには大きな労力が伴う。見ず知らずの人々に出資させるだけの説得力があるプロトタイプなりプロモーション動画なりを作らなければいけないし、もちろんそれらを行なうために自らも出資しなければならない(プロモ動画制作会社がまだ支払いを受けていないとプロジェクト元を訴えたプロジェクトも過去に存在した)。その出資を無駄にしないためにも、プロジェクト元はクラウドファンディングを成功させたい

そのために必要なのは宣伝だ。SNSで情報発信したり、広告を出したり、クラウドファンディングプロジェクト紹介サイトなどに取り上げてもらったり。しかしすでにプロジェクトにPRチームがいるのではない限り、マーケティングを自ら行なうのは大変だ。そんなプロジェクトのために、クラウドファンディング専門のマーケティングサービスもゴマンと存在する。プロジェクト元はサービスにお金を支払い、宣伝してもらう。しかしそういったサービスにいくらお金を払っても支援者が増えるとは限らないし、目標金額に達するとも限らない。もちろん詐欺まがいのものもあれば、偽のフォロワーにプロジェクトをシェアするような詐欺も横行している。

それが理由だろうか。最近ではプロジェクト元同士が互いに協力している姿を多く見かける。支援者向けのメール中にお互いのプロジェクトを紹介し合うなどして、少しでも互いのプロジェクトの露出を増やそうとしているのだ。彼らは必死であり、成功のために互いに協力し合う。

取引には金銭のやり取りはなく、ただ互いの持つ出資者リストを交換するだけ。名前、これまで出資したプロジェクト内容、メールアドレス。プロジェクトを行なった者同士が、支援者に黙ってその情報が載ったリストを交換したい理由は明確だ。すでにプロジェクトに出資した人物は、自分の支払ったお金が無駄になるリスクを負ってまでクラウドファンディングプロジェクトに出資する人物。つまり今後も出資する可能性がある人物といえるのだ。そこを狙って宣伝すれば、不特定多数に広告を打つよりも効果的だろう。

170104ibackpack03.jpg
KickstarterのTerms of Useには、クラウドファンディングプロジェクト主催者に対して「プロジェクトで得た支援者の個人情報を他の目的に使用してはならない」と明記されている

クラウドファンディングプロジェクトに出資したことのある人物の名前やメールアドレスを手に入れたとして、それをどう活用すれば自分のプロジェクトを成功に導けるのだろうか?

この件との関係は明確ではないが、数カ月前より筆者のもとにクラウドファンディングプロジェクト関連の怪しげなメールが届くようになった。どんなメールなのかというと、単純にクラウドファンディングプロジェクトの内容を紹介しているだけのメールだ。なぜ怪しいのかというと、そのプロジェクト元を支援した覚えも、メーリングリストに登録した覚えもないからだ。

メールの送り主はクラウドファンディングプラットフォームではなく、そのプロジェクトを行なっている会社のドメインのようであり、メール内のリンクをクリックしても(フィッシング詐欺などの可能性もあるので安易に怪しげなメール中のリンクは開かないほうがいいだろうが)、開かれるのはKickstarterなどのクラウドファンディングページ。つまりこれは、プロジェクトを宣伝するための広告メールなのだ。そして、ただのスパムメールと違い、私がクラウドファンディングに使用している一部のメールアドレスのみにこのようなメールが届いていることからは、これがプロジェクトに出資したことのある人物をターゲットを狙って送られたであろうことがわかる。

「iBackPack」とその他のプロジェクトの出資者をあわせても5,000人に満たない。もしDayBreak社が50万人分の個人情報を持っているとすれば、相当な回数の個人情報の交換を行なってきたはずだ

支援者の信頼なしにクラウドファンディングプロジェクトは成り立たない。信頼に足るかどうか判断する材料といえば、プロジェクトページの文面と、プロジェクト元のプロフィールからわかることくらい。それだけの薄い信頼のうえにこれまで成立してきたプロジェクトが、もし裏で支援者の個人情報を取引していたとしたら...。

「iBackPack」へのIndiegogoとKickstarter両サイトでの出資者と、Doug Monahanの他のIndiegogoプロジェクトの出資者をあわせても5,000人に満たない。もしDayBreak社が50万人分の個人情報を持っているとすれば、相当な回数の個人情報の交換を行なってきたはずだ。私はiBackPackや関連プロジェクトに出資していないが、私のもとに届いている怪しげなプロジェクト紹介メールからすれば、私が以前支援したプロジェクトの中にも同様の個人情報取引に関わったものが存在する可能性が考えられる(もちろんIndiegogoやKickstarterなど、大手クラウドファンディングサイトそのものから個人情報が流出している可能性もあるが)。

挙げられている個人情報の数からすれば、この件の根は広く深く絡み合っており、我々が今回知ることになったのはただの葉先の部分にすぎないだろう。プロジェクトに賛同した人々が支援する、という草の根的なクラウドファンディングの概念を根底から揺るがしかねないこの脅威は、これからのクラウドファンディングの形にどう影響を与えていくのだろうか。


(追記 1/6 13:00): DayBreak社とiBackPackのウェブサイトが閲覧できない状態になっている旨を本文中に追記しました。

なお、この件に関して情報提供者がIndiegogoとKickstarterに問い合わせたところ、Indiegogoは「詳細は言えないが法務部がアクションを取ることになった」とのこと、Kickstarterからは返信を受け取ったものの明確な回答がない。

クラウドファンディングと個人情報取引に関して、ご存知の情報があれば編集部へお寄せください(fuze-pitch@mediagene.co.jp)

インターネットの深淵

      今、音楽が教えてくれること

      #音楽の敵、音楽の味方

      2010年代を体現する音楽カルチャーの最前線