ガイアナの奥地で、YouTube動画を真似してまで、ドローンが作られる理由
IDEAS LAB南米北部のガイアナで生活を営む先住民ワピチャンは、現在ガイアナ南部からブラジル北部にかけて生活基盤を築き、ガイアナ国内に9,000人ほどいる先住民のひとつである(ガイアナの人口は世界165位の736,000人だ)。ワピチャンは伝統的な作物やキャッサバなどを栽培しながら森で狩りをし、先祖代々の生活スタイルや文化を守りながら暮らしてきた。
それは、ワピチャンたちの精神性も変わらない。彼らは、人間をふくめ生命あるものすべての先祖の霊は現世とつながっていると信じ、森の動物たちは人間の魂の先祖であり、食料として自分自身を差し出すことで、現世の人間ともつながっていると考えている。食べられることで、再び彼岸へと還るのだ。食物連鎖をはじめとするエコシステムは、物質の循環だけではなく魂の循環のシステムでもある。現世と彼岸、人間界と自然界は分断されておらず、相補的でシームレスに円環する関係にある。これこそが、ワピチャンの世界観だ。
そのため、熱帯雨林はワピチャンにとって現世と彼岸を包括した世界そのものであり、コミュニティを支えるアイデンティティそのものである。そして、自然資源を適切に活用するエコシステムマネジメントが、彼らが培ってきた伝統的な生活スタイルとしての生き方につながっている。
だが、世界各地の先住民が辿ってきた歴史と同様に、ワピチャンもまたヨーロッパからの入植者たちによって生活や文化が脅かされ続けてきた。土地を追われ、それまで存在しなかった病原菌を持ち込まれ、時には虐殺され奴隷にされてしまうこともあった。
この話は、植民地時代とともに終わった話ではない。今なお続いている問題だ。そして現在も、企業や政府主導の鉱山開発や森林開発、さらには統括当局に蔓延る不正によって、ワピチャンは、しばしば望まない移住を余儀なくされている。
あるいは、開発にともなう環境汚染によって、深刻な健康被害を受けることもある。問題はそれだけではない。違法な採掘業者や伐採者たちの侵入が、彼らの安全や健康を阻害するケースも多い。
ガイアナがイギリスから独立した1950年代から現在に至るまで、時にはアクティビストやNGOの協力を得ながら、ワピチャンは自らの権利を守るために抗議活動やロビー活動を続けてきた。1977年に、ようやく先住民の居住地が認められたが、その範囲は狭く元の15%足らずしか与えられず、自治権も認められなかった。正当な権利を求める闘いは今も続いている。ワピチャンの人権活動にイノベーションを与えたのがドローンである。
違法な採掘や伐採を政府に訴えるためには証拠が必要だ。彼らはドローンで証拠を押さえる方法を考えた。そして、辿り着いた答えが、YouTubeでDIY動画を見ながらドローンを自作することだった。
彼らが「ラボ」と呼ぶワークスペースは、平原の真ん中にある、ドアも窓も付いていない小屋だ。ラボに置かれた長テーブルには、工具やパーツが無数に散らばっている。YouTubeの動画を真似して製作を始めた自作ドローンは、パーツが弓の弦で縛られたままだった。
アドバイザーには、「リサーチャー:アクティビスト」として、インドネシアでドローンを活用した空撮マッピングで、先住民が政府から森林地帯の権利を獲得する手助けをしたイレンドラ・ラジャワリ(Irendra Radjawali)が、手を差し伸ばした。カリフォルニアに拠点を置き、テクノロジーで市民団体を支援するNPO、Digital Democracyは資材面で彼らをサポートし、ドローン・クリエイターのコミュニティに協力を仰ぎながら、数日間の作業の後、彼らの固定翼ドローンは、50Kmの距離を飛んた。

さらにGoProから寄付されたカメラをドローンに搭載し、2秒ごとシャッターを切るインターバル撮影ができるようにプログラムした。この方法で、彼らは空撮写真を素に多次元インタラクティブマップを作成するプロジェクトを始めたのだった。
プロジェクトを主導する、南ルプヌニ地方のシュリナブ村のリーダー、ニコラス・フレデリックスは、長年地元の代表として活躍してきた人物だ。Quartzの取材に対して彼は、ドローンによる空撮映像が熱帯雨林の違法伐採や水質汚染を実証したと語った。彼らはそれをもとにリビングマップを作り、何世紀にもわたって保護してきた環境が、外部からの侵入者に破壊されていることを示す客観的なデータを政府に提出する予定だ。
実はフレデリックたちの活動は、国連開発計画(UNDP)から「Equator Prize」を受賞するなど、国際的に高い評価を得てきた。だが、往々にして環境保全に関わる問題に対し、当事者であるガイアナ国内の企業・政府関係者は、及び腰である。利権に関わるしがらみ、さらに、時には権力者の不正行為への制裁の必要があるため、個人や組織にリスクが及ぶ場合が多い。ガイアナ政府も例外ではない。
フレデリックは、ワピチャンは森林の保護者であると主張し、要人との会談やロビー活動、講演を続けている。「私たち先住民の伝統的な生活スタイルによって森林の持続可能性が保たれるでしょう。政府はこのことを認識する必要があります」。
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