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半年で130人の子どもが自殺。ロシアのSNSで行なわれた死のゲーム

DIGITAL CULTURE
ライター高橋ミレイ
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インターネット経由で洗脳されたティーンエイジャーたちが次々と自殺し、2015年11月から2016年4月の半年足らずの間に130人が犠牲になっている

そのうち少なくとも80人はSNS上の死のグループによる自殺ゲーム「Blue Whale(シロナガスクジラ)」に参加していた。一体どこのサイバースリラー小説かと思うような話だが、これは現実に起きていることであり、ロシアでは法改正につながる程の社会問題となっている。

2015年11月23日、シベリアで16歳の少女が自殺をした。彼女の名はリナ・パレンコワ(Rina Palenkova)。線路脇で撮影したセルフィーをロシアで人気のSNS「VK」に投稿した直後、列車に飛び込んだ。彼女のセルフィーと首が切断された轢死体の写真は、その直後に始まった自殺ゲーム「Blue Whale」の参加者たちのグループでシンボルとして共有され、「リナのようになるまで追い込む」というスローガンが彼らの合い言葉となった。

邪悪なゲーミフィケーション

ロシアのオンラインコミュニティでは、自殺願望者を集めた1,500以上の死のグループがあると言われている。「F57」や「静かなる家」「海のクジラ」という名称のグループもある。ゲーム名だけではなくグループ名にもクジラという単語が頻繁に使われるのは、シロナガスクジラが自らを岸に打ち上げて集団自殺するという逸話に由来している(参考:座礁鯨 - Wikipedia)。死のグループの中で、死にゆくクジラの美しいイラストが共有されるなど、クジラは美化された死の象徴となっている。

170329russia-buluewhale.jpgNovaya Gazetaは『死のグループ』 と題された6万字を超えるレポートを掲載した

このような死のグループの存在について最初に調査報道をしたのはロシアのメディアNovaya Gazetaだ。グループの運営者たちは心理学に精通しており、女の子に対しては容姿に対するコンプレックスを刺激し、男の子に対しては彼らが負け犬であると思い込ませる。そして、現世が虚無に満ちたものであり、特別なプロセスを踏襲した死を通過して別の世界に行くことで救われると洗脳していく。美化された死と自己肯定感の剥奪、選民意識を巧みに刺激したメッセージによって、多くの子どもたちがゲームに参加した。

ゲームに参加した子どもたちには、決められたミッションが与えられる。たとえばナイフを使ってグループのシンボルであるクジラの絵を腕に彫る(リンク先閲覧注意)。飛び降りに適した場所を見つける、早朝4時20分に目覚ましをかける(親の目が届かず、現実と夢の境が曖昧になる時間帯だ)、特定の音楽のみを聴く、ホラー映画を1日中見続けるというものもある。それらのミッションを実行したという証拠写真を投稿すること、そしてゲームを始めた50日目に命を絶つのが決まりだ。

Redditに投稿された自殺ゲームのルール。信憑性は疑わしいが50日分のタスクが書かれている

これはカルト集団などで用いられるマインドコントロールの手法のひとつだ。外界と隔絶された特殊な価値観を持つ環境の中で、通常ではしないような具体的な行動に参加させ、その結果を閉鎖的なコミュニティの中でシェアすることで、より強固に信念を植え付けて死へと向かわせる。物理的なコミットメントによって物語の中へ引き込むゲーミフィケーションやARGの手法を最悪の形で活用したケースだとも言えるだろう。

結局のところ金儲けのため?

170329russia-bluewhale2.jpgLENETA.RUが掲載した取材記事。『"クジラの海"の独白:"死のグループ"と"Novaya Gazeta"の記者からの脅迫について』

ロシアのオンラインメディアLENETA.RUは、死のグループのひとつ「Sea of the Whales(クジラの海)」の創設者、ハンドルネーム"クジラの海"(本名不明)へのインタビューを行なった。クジラの海によれば、そのコミュニティは自殺を阻止するために自殺願望のある若者を集めたのだと言う。彼らがコミュニティでしていることは、彼らの抱える苦しみの共有のサポートとカウンセリングであると。だが、インタビューを読み進めていくと、それは詭弁に思える。

"クジラの海"は、「F57」の管理人フィリップ・リス(Filipp Lis)がVK内で運営する死のグループのアクセス数を稼ぎたがっていたと語っている。VKではアクセス数の多いグループの運営者にはお金が支払われるシステムになっている。そのために、ゲーミフィケーションの知識を応用したという彼らに、自殺するほどの悩みを持つ子どもたちを助けたいというボランティア精神があったとは考えにくいだろう。死を美化する演出には多くのクリエイターも参加していた。イラストや死体の写真、彼岸へ後押しするような音楽や動画も制作されてグループ内で共有された。彼らは言う。「自殺したリナ・パレンコワのストーリーを使い、僕たちなりの神話を作って若い子たちを引きつけようとしたんだ。死んじゃった子は、マジになりすぎたというか、悪ふざけが行き過ぎただけだと思う」。

ただの悪ふざけにしては、あまりにも度が過ぎているだろう。犠牲者の数を見ればその危険性は明らかだ。Novaya Gazetaの記事によれば、2015年11月から2016年4月の間に130人の未成年が死のグループの影響によって自殺している。若ければ12歳、いずれも未成年の青少年がビルから飛び降りたり、線路に飛び込んだりしてその短い生涯に自ら幕を下ろした(自殺の様子をSNSで実況する子どもも多くいたという)。

オルタナティブなゲームで子どもたちを救え

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2015年から2016年にかけてロシアの未成年者の自殺者数は57%上昇した。その主な原因がBlue WhaleのようなSNS上の死のグループにあるとされている。2017年2月、プーチン大統領は未成年者の自殺防止に向けた措置を求める委任状をロシア政府に提出した。3月9日にはロシア下院にSNS上での未成年者に対する自殺教唆を厳罰化する法案が提出されている(via Sputnik日本 1, 2)。

また、The Siberian Timesによれば死のグループの運営者の一人、フィリップ・ブデイキン(Phillip Budeikin)が身柄を拘束されてからは自殺者の数は減少しているという。だが、SNSで死のグループのキーワードになるハッシュタグを検索すればいまだに参加希望者(一部は悪ふざけかもしれないが)が見られる。そのためロシア当局は未成年者のインターネット利用を制限することを検討している。

しかし、子どもたちがインターネットを使うことを規制するのは、根本的な解決にならないどころか、問題の本質を見誤る原因になると指摘する声もある。ただでさえ大人や権威に対する懐疑心を持つ年頃のティーンエイジャーであれば、規制されればされるほど、なおさら関心が死のグループに向くだろう。自殺願望がなくとも、興味本位で関わった結果マインドコントロールされる危険性もある。一部の学校では校内に設置されたパソコンからのSNS閲覧の制限が始まっているが、子どもたちの多くはスマホからSNSにアクセスする。それを取り締まったところで、抜け道が瞬く間に彼らの間に共有されることは目に見えているだろう。

心理学の専門家をふくむグループはBlue Whaleに対抗した「シロクマ」というオンラインコミュニティを作り、ゲーミフィケーションでこの課題を解決しようと試みている。そこでは、家族との愛情のある関係を構築するための50のクエストを出題し、オフラインでの人のつながりへと子どもたちを導こうとしている。登録者はローンチ後6週間で12,000人を越えている。

VK内でも「SUICIDE AGAINST」をスローガンに、いくつものオープンな自助グループが立ち上がっている。そこでは参加者同士が気軽に悩みを打ち明け合ったり、明るい気分になれる音楽を共有している様子が見られる。

死のグループによる未成年者の自殺がここまで深刻化した背景には、心理学的な知見やゲーミフィケーションをオンラインで悪用した運営者の存在だけではなく、不安定な社会や貧困、家庭環境の問題など、実社会が抱えている問題があるはずだ。一方で、そのような課題を解決する糸口となるのもまた、オンラインコミュニティやゲーミフィケーション、心理学の知見なのである。そのような意味で、この事件は、物事の持つ正の側面と負の側面両方の可能性を照らす出来事だと言えるのではないだろうか。

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