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視覚的なMIDIの凄み。ネットに流れる「MIDI Art Drawing」というアプローチ

DIGITAL CULTURE
フリーライター武者良太
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音楽は耳で楽しむもの。そんな先入観に囚われていないかい? 目で見える音楽があってもいいんじゃないのか?

空調装置のノイズからドラムパターンを構築したり、タイヤやホイールを叩いた音でリズムを作ったり、調理をしている時のノイズで曲を構成してきたカナダ・トロントのYouTuber、アンドリュー・ホアン(Andrew Huang)。彼が公開した『GLORIOUS MIDI UNICORN』からは、そんなメッセージが伝わってくる。

彼がやっていることは端的だ。ユニコーンの画像を撮影、レタッチして輪郭を抽出してエッジとなった部分をDAWに打ち込んでいく。そのまま入力したときの音は聴けたものではない。そこで音を聞き込みながら調律して、バロックミュージックに仕上げている。音を楽しむと書いて音楽。もっと自由に、楽しく、思うがままに演奏してもいいと提唱している彼の世界に共感する人は多く、このMIDI Art Drawingの動画のアクセス数も多い。

ところで絵を元にMIDIを鳴らすというテクニックは、メディアアートのカテゴリにおいて以前から研究されてきた。音をオシロスコープに通すとその波形が可視化される。ということは、波形=図柄を音に変換することもできるのでは、という観点から、数多の作品が生まれてきた。

また現代音楽家ヤニス・クセナキス(Iannis Xenakis)は、1954年に数学的なグラフ図形の譜面を元にした『メタスタシス』という曲を生み出す。

ル・コルビュジエの弟子で建築家としても活動していたクセナキスは、後に線形を音へと変換する「UPIC」というシーケンサ・シンセサイザーも作り出す。コンピューターミュージックの第一人者であるカーティス・ロード(Curtis Roads)、日本人ピアニスト高橋悠治といった先鋭的なアーティストたちがUPICを用いて作曲を行った。さらに電子音楽の鬼才、Aphex Twinは『Equation』という曲のスペクトログラムに自らの顔を埋め込むという手法をとっている。

MIDI Art Drawingの話に戻ろう。UPICは縦軸を音の周波数帯域、横軸を時間として、描かれた図形を音に変換した。DAWの入力画面も同様で、縦軸に楽器音や音階、横軸が時間となっている。この構成を使えば、MIDIで図形と音楽の融合を果たせる。そう考えた人々が作り出したムーブメントがMIDI Art DrawingMIDI Animationとも呼ぶ)だ。このグラフィカルシーケンスには様々な作品があるが、まずはこの曲から聞いていただきたい。

そう、スーパーマリオワールドのBGMだ。Virus Key@Virus_Key)が描いたこの作品は、ニコニコ動画内で流行していたMIDIアニメタグ作品でも上位の人気を誇る。

RoyishGoodLooksは、前述のアンドリュー・ホアンに触発されたニューヨークのサウンド・エンジニアだ。彼も、MIDI Artでスターウォーズのヨーダの顔を音楽へと昇華させたアーティストの一人だ。

ホアンが影響を受けたアーティストSavantことノルウェー・オスロ出身のプロデューサー、アレクサンダー・ヴィンター(Aleksander Vinter)は、バッハに影響されたバロック調のMIDIで鳥を描いている。

どんなキャラクターがどんな音楽世界を作り出すのか、YouTubeで「MIDI Art Drawing」または「MIDI ART」と検索すると、さまざまな作例が見られる。

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image via AID-DCC

MIDI Art Drawingとは異なるが、クリエイティブエージェンシーAID-DCCkatamariが2010年に製作した年賀サイト「2010 New Year Sonata」も、ビジュアルを音楽に変換することを目的としている。赤色を含む画像をアップロードすると、赤色成分をフレーズに変換。その場で再生できる。赤一色のペンで描いた画像を元とするならば、その線形・塗り面積を自分でコントロールできる仕掛けだった。

調律されきっていないMIDI Art Drawingは耳障りな作品が多い。しかし「2010 New Year Sonata」は伴奏とのハーモニーを意識した変換を行っている。これはビジュアル&ミュージックの新しい可能性を広く知らしめるものとなるのか、個性をスポイルさせるものとなるのか。個人的には期待したいが、果たしてアートの技術として普及するのかどうか。今後の展開を見てみたい。