FUZE再始動。そのカムバック特集のテーマは「ロック復権」だという。これには率直に「非常に2023年的な主題ではないか」と感じさせられた。
2010年代前半から「ロック失墜」が叫ばれ続けながら、「いよいよロックが復活か?」なんて期待の声が上がるタイミングは数知れず。しかし、結局は鳴かず飛ばずだったのが、この約10年間だったと言えるだろう。実際それはセールスにも現れており、2017年にはアメリカにおける音楽セールスで、R&B/ヒップホップのセールスがロックを上回ったというニュースが印象に残っている方も少なくないはずだ。
そして、イギリスでもそれは同様で、英国レコード産業によるとイギリスで2番目に人気のあるジャンルはダンスミュージックなのだという。
ちなみに1位はポップス、3位はヒップホップだ。つまり、少なくともアメリカとイギリスでは、ロックはすでにポップ・ミュージックの最前線から後退したジャンルと言っていいかもしれない。
しかし、問題はセールスではないだろう。「あのかき鳴らされるギターが、胸の高鳴りのようなドラムが、いま一度アクチュアリティーを持って鳴り響く瞬間を体験したい」とあなたは思っているはずだ。
さまざまな角度から見直されるロックサウンド
実は、その願いはすでに叶えられている。この2〜3年ほど、ハリー・スタイルズやオリヴィア・ロドリゴのようなポップフィールドのミュージシャンがロックサウンドを採用しているほか、マシンガン・ケリーやリル・ヨッティ、スロウタイなど米英のラッパーが「ロックアルバム」とも呼べる作品を作るなど、さまざまな角度からロックサウンドは見直されているのだから。
時代は変わった。
もし、あなたが「違う!そうじゃない!白人男性を中心に4〜5人のメンバーが集まって、自分たちで作詞作曲しているバンドがシーンを盛り上げてほしいんだ!」なんて大声で言おうものなら、白い目で見られるばかりか、静かに距離を置かれることだろう。この原稿の筆者も、間違いなくそうする。それは決してポリティカル・コレクトネスだけの話ではない。
固定メンバーを抱えることでの収益性悪化を含むビジネスリスク、共同作曲やコラボレーションによる時代への適応など、現代のポップ・ミュージックに対する知識不足、あるいは無理解がそこに滲んで見えるからだ。
ロックアーカイブの再評価・再発見
だが、その一方でストリーミングサービスが当たり前のものとなった今、新しい音楽/過去の音楽という区別は曖昧なものとなりつつある。1950年代から約70年に及ぶ膨大なロックソングやアルバムのアーカイブが再発見されやすくなっているばかりか、さらにそこから国境という垣根もほぼ取り払われたのだ。フリートウッド・マックを筆頭に、数々のベテランやレジェンド勢の再評価・再発見はこれからもさらに進んでいくことだろう。
変化する現代のミュージシャン/プレイヤー像と、モード/サンプリングソースとしてその豊かさが世界中で再発見されはじめているロックアーカイブ。その両者がダイナミックにうねりを作り始めているのがここ数年であり、海外アーティストの来日ラッシュや、フジロック、サマーソニックを通して、ここ日本ではっきりと可視化されるのがこの2023年となるはずだ。
この特集に含まれる一連の記事からは、本稿が提示した上記の文脈以外にも、ロック復権に関する複数の視点や論拠を見つけられるだろう。「2023年のロック」を取り巻くさまざまなパースペクティブに触れながら、いくつものカメラ位置を見つけてみてほしい。
Photo: 照沼健太
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