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4 #ロック復権

追悼アンディ・ルーク、ザ・スミスの屋台骨を支えた10の伝説的ベースプレイ

ARTS & SCIENCE
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元ザ・スミスのベーシスト、アンディ・ルークには一度だけインタビューをしたことがある。場所はニュー・オーダーとそのレーベル、ファクトリーが経営するドライ・バーだった。

マンチェスターでビーガンフードを出しても誰も食わないと言われていたような90年頃、ハッピー・マンデーズのショーン・ライダーがシャンペンをオーダーして、一杯だけ飲んで、ボトルをカウンターに投げつけ、そのボトルが壁につき去った後(本当か!? 観たような気もするし、なかったような気もする)だったか確かではない。なぜショーン・ライダーがそんなことをしたかというと「俺に金をよこさないで、こんなクソみたいなビーガンバーを経営しやがって」ということだった。

そういう気が狂ったような場所だからか(雰囲気は寂れたオシャレなデザインバーでしたが)、あまりいいインタビューは出来なかったような気がした。

本当はもっと色んなことを訊いとけばよかったなと思う。アンディがハッピー・マンデーズのキーボード、ダン・ブロードとバンドをすることになって、同バンドのヴォーカル、ショーン・ライダーに「あいつはいい奴(ミュージシャン)か?」って訊いたら、ショーン・ライダーが「ああ大丈夫だよ」と答えたので、バンドを組んだら、一切キーボードを弾けなかったので、「あいつ全然キーボード弾けないじゃん」とショーンに文句いいにいったら、「そうだよ、お前、あいつが演奏しているの聴いてて、キーボード弾けると思ったのか、あいつサンプリングのスイッチ押してるだけじゃん」と言われた話は本当か! アンディはちょっと天然な所もあるのです。アンディの返答は「お前とこ二人もミュージシャンじゃない奴がいたのか? すごいバンドだな」だったはずだ。でもアンデイはストーン・ローゼズのマニと元、ジョイ・ディヴィジョン、元ニュー・オーダーのピーター・フックというマンチェスターの偉大なバンドのベーシスト3人が集まるバンド、フリーベースをやるという話は楽しくしてくれた。「えっ、スリーベース!?」と思わず訊いてしまった。そんな気が狂った話があるのかと思ったフリーベースだが、ちゃんとシングル、アルバムをリリースした。マンチェスターには伝説があり過ぎる

アンディ・ルークにはモリッシーのソロ、キリング・ジョークなどスミス以外の名演もたくさんあるが、今回はアンディのザ・スミス時代の名演を10個選んだ。ジョニー・マー以上にザ・スミスの音を生んでいたのが、アンディのベースだったということがよく分かるだろう。

やっぱりこれ! アフリカン、リンガラなギターなのに、ベースはバキバキ。ジョニー・マーはアフリカンぽくするためにギターを一音上げチューニングにした。それに合わせて、ベースの弦を上げたのか、どうなのか、今度、ジョニーに会った時、ちゃんと訊いてみたい。一音上げのキラキラしたベースがアンディの特徴の一つだというのは間違いない。

ジョニーはどうもこの一音上げチューニングのことをナッシュビルチューニングと言っているような気がする。普通ナッシュビルチューニングと言うのは12弦ギターの低音部分の弦を張らずに高音の部分だけを貼って弾く方法なのだが。ザ・スミスにも本当にこのナッシュビルチューニングで演奏された曲があるのか、どうなのか、ジョニーに確認したい。

アンディは「F#にキーを上げている方がモリッシーのキーに合うから」と答えている。

僕にとって、アンディのベースと言えばこの曲。初期のスミスでは最後に演奏され、みんなが儀式のようにステージに上がって、バンドと一緒に踊った。アンディは「モリッシーはフュージョンのようなスラップベースが嫌いだと思うが、僕はレベル42のスラップが大好きでレコードも買って、ライブも観に行ってた」と答えていた。アンディが一音上げチューニングしたのはスラップな音を出したかったからだろうか。低音を担当するベースを普通1音上げしないよな。でもピーター・フックのベースも高音部分で弾きまくるが、彼の場合は、音痴だったので、低い音は音がよくとれず、音のとりやすい高音部分ばかり弾いていたら、彼のスタイルが確立したわけだが、本当にマンチェスターのベーシストは変わっている。

「Barbarism Begins at Home」とこの曲を聴けば、ザ・スミスがポストパンクバンドだったというのがよく分かる。そんなバンドで大事なのはファンキーなベースなのだ。モリッシーがなぜファルセットで歌うのか、それはポストパンクバンドだったからかという気がする。モリッシーと共にノーズブリードというバンドにいたカルトのビリー・ダフィーがバンドをやめて、入ったバンドが次のPILと言われていたシアター・オブ・ヘイトだったことからもよく分かる。当時はPILとXTCが最強のニューウェイヴバンドと考えられていた。ジョニー・マーとビリー・ダフィーは親友同士です。ビリーが抜けてどうしようもなくなったノーズブリードに失望していたモリッシーにジョニー・マーと会うことを勧めたのがビリー・ダフィーです。

そんなスミスですが、デビューシングルはビートルズだった。ハーモニカも入っているし、ジョニー・マー的にはストーンズだったのかもしれないが、ニルヴァーナもそうですけど、とにかくレコード会社はビートルズ的なものを欲しがるのです。ここでのアンディ・ルークはビル・ワイマンのような60年代ぽい太くこもったベースを弾いている。こんなベースもアンディなのです。

ジョニー・マーのトレモロギターばかり話題になりますが、それを支えるのはアンディのヘヴィなベースです。この曲ではアンディはドロップD(4弦のみを一音下げる)を使っている。ジョニー・マーの音楽性の変化に柔軟に応えるアンディは優れたミュージシャンだと心から思う。

そして、ジョニーがMC5のようなパンクをやりたければ、パンクなベースも弾く、こんな関係がいつまでも続くと思っていたザ・スミスなのに、あっけなくバンドって終わってしまう。だからバンドは、ソロアーティストより魅力的なのかもしれない。

今の日本みたいに将来が見えなかった80年代のイギリスで、どれだけ蔑まれようと生きていくんだと宣言したモリッシーの独特な世界観を支えていたのが、ジョニー・マーだけじゃなく、アンディのヘヴィだけど軽快なベースでもあったことがよく分かる。

最後のアルバム『ストレンジウェイズ、ヒア・ウイ・カム』の頃には、テレビドラマのワンシーンが芸術作品に感じるくらい完成していた。自分のせいで、昏睡状態になってしまった彼女に病院に会いに行くという、下手な歌ですが、映画一本観たくらいの感動が押し寄せてくる。こんな奇跡を生んでいたのが、アンディのラテン風のベースでもあったのだ。

モリッシーの鋭いメッセージを影で支えていたのが、アンディのサイケなベースなのです。この曲は映画『小さな恋のメロディ』で最後に爆弾を爆発させて、教師をびっくりさせたあのシーンのようです。『小さな恋のメロディ』はイギリスではヒットせず、たぶんモリッシーはクソ映画っていうだろうけど、ロック少年、少女は観ないといけない映画、世界を変えることをいつまでも夢見る少年、少女のテーマソングなのだ。この曲でもアンディはドロップDを使っています。

ジェイムス・ジョイスが『ダブリナーズ』で、例えダブリンが亡くなってもこの小説があればダブリンは永遠に残ると言ったように、モリッシーとジョニーは全てのイギリスの音楽の歴史を抱え込もうとしていた。この曲はグラムだった。この頃はジャケットを含め彼らが出すシングルが全て楽しみだった。僕にとって、レコード発売日にレコード屋に行く最後のバンドが彼らだった。

またあの4人がいつか同じステージに立つという夢は、アンディが亡くなって、もう完全に終わってしまった。

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Photo : getty images

またザ・スミスのようなバンド出てこないかな。

ジェイムス・ジョイスがダブリンを「半身付随もしくは中風」の都市と呼んだように、ザ・スミスもイギリス、世界をそう見立てて、お前が悪いのじゃない、世界が終わっているのだと、僕らを勇気付けてくれた。

ザ・スミスが解散して、何十年も経つが、世界は同じままだ。またザ・スミスみたいなバンドが出てくるのは当たり前のはずなんだけどな。出て来てくれ。

#ロック復権