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2ビョークがVRを再発明する

BjörkをアプデしたらVR対応になった。いま注目すべき妖艶な映像クリエイターたち

DIGITAL CULTURE
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エディターヨコヤマコム
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新たなクリエイターが、Björkの世界に新たな色を塗っていく。

世界的なディーヴァとして知られるBjörk。もう少し付け足すなら、よりアーティスティックで、時代とともに変幻自在に姿を変えていくユニークなディーヴァ、それがBjörkというアーティストといえるでしょう。あ、それと、とってもカワイイ! これも重要ですね。

6月29日(水)から7月18日(月・祝)まで日本科学未来館で開催された「Björk Digital ―音楽のVR・18日間の実験」。展示を前にBjörk本人にインタビューをしました。彼女が、歌手・音楽家でありながらヴィジュアル表現としてVRにとても関心を持ち、自らも能動的にVR制作に取り組んでいることがわかり、さらには現在制作中であるという新作も「VRから大きくインスパイアされたものになる」と彼女は語りました。

これまでも、他を圧倒するような楽曲やヴィジュアル、アートワーク、パフォーマンスを次々と生み出してきたBjörkのクリエイティビティーは変わらず見逃せないものである、ということを感じます。新作がどのようなものになるかはまだ待たなければなりませんが、とはいえBjörkは今まさに現在進行形でクリエイティビティーを爆発させているのです。

そのひとつが今回の「Björk Digital ―音楽のVR・18日間の実験」。昨年リリースされたアルバム『ヴァルニキュラ』から、『Black Lake』『Stonemilker』『Mouth Mantra』『Notget』の4曲のミュージック・ビデオをVRで体験することができます。彼女のインタビューにもあった通り、現在のBjörkは新たな技術や才能を持ったクリエイターやエンジニア、プログラマーなどとツアーを回っているそうで、こうした流れも次なるフェーズへの移行を示唆しています。

2016年現在のアクチュアルなBjörkと、そのクリエイションの実現を手助けしているクリエイターたちに焦点を当てながらみていきたいと思います。

Andrew Thomas Huang

160629bjork_vr_andrew.jpgAndrew Thomas Huang photo by MVOD

『Black Lake』のビデオはロサンゼルス在住のクリエイター、Andrew Thomas Huangがディレクションしました。遡ること1年前、2015年3月から6月までニューヨーク近代美術館(MoMA)でBjörkの回顧展が開催されました。『Black Lake』のミュージックビデオはその回顧展のビデオインスタレーションとして制作された、という背景を持ちます。

『Mutual Core』 / director: Andrew Thomas Huang

Huangは「Black Lake」以前にも、前作『バイオフィリア』の楽曲『Mutual Core』のミュージックビデオを制作しています。『Mutual Core』のビデオは、ミニチュアの美術装置と高解像のグラフィックスを巧みにコラージュしたもので、ライブアクションやクラフトを動かしたアニメーション、そしてそれらをCGと組み合わせた表現を得意とするHuangの持ち味が存分に溢れている作品です。

『Black Lake』 / director: Andrew Thomas Huang

「Black Lake」のミュージックビデオは一見すると10分という長尺のロケーション撮影によるミュージックビデオのように見え、トーンの暗い長回しの映像に感じます。しかし、ビデオインタレーション用にループ構造をとりいれていて、Björk自身の動きも含め独特な展開をしていきます。

アイスランドの山岳地域や、洞窟、平原などで撮られたこのビデオは、ドローン撮影や、3Dモデリングによる背景マッピング、そしてCGコラージュが随所にあしらわれ、制作されました。

『Making of Black Lake』 / by Autodesk

こちらの『Black Lake』のメイキング動画は、「AutoCAD」や「Maya」といった製品で知られる3D技術によるデザインや設計、エンジニアリングのソフトウェア会社のAutodeskによるもの。本編のビデオの制作でも3Dモデリングなどでコラボレーションしています。HuangはAutodeskのギャラリーを訪れ、彼らが研究開発している3D技術によるスカルプチャーやプロダクトを見て、そしてエンジニアたちと触れ合うことで「テクノロジーの可能性」を感じ、実際にBjörkにそうしたことを話した、と語っています。

Björkのストーリーボード、ラフスケッチ、Huangのグラフィックス、Autodeskのエンジニアやクリエイターたちの3Dモデル、それぞれ違う分野から違うアプローチでひとつの世界を作り上げていくこのフローこそ、今のBjörkを象徴しているかのような、テクノロジーとクリエイションの融合なのかもしれません。

『Stonemilker』 / director: Andrew Thomas Huang

Björkの作品で今現在、唯一ウェブ上にアップロードされ、視聴可能なVR対応の映像作品が『Stonemilker』です。こちらも同じくAndrew Thomas Huangがディレクターを務めました。Björkもクリエイティブ・ディレクターに名を連ねており、360度デジタルカメラを使用して即興的に作られたものだそうです。

目の前に現れるBjörk、そのBjörkが曲が進むに連れてどんどんと増えていき、それぞれが違ったパフォーマンスを見せていくのがこのビデオの特徴。VRビデオというともっとグラフィカルな表現を想像します。「Stonemilker」はそれと比べ、発想としてとてもシンプルですが、Björkの身体を目の前で感じられるこのビデオはいかにもBjörkのVR作品らしいともいえます。

Jesse Kanda

160629bjork_vr_jesse.jpgJesse Kanda photo by Dazed

VR展示がされる『Mouth Mantra』のミュージックビデオはロンドンのクリエイターのJesse Kandaによって作られました。閲覧注意!という感じのグロテスクで圧倒的なイメージを視聴者に与えるこのビデオは、Andrew Thomas Huangが作ったビデオとは全く別の印象。歌を歌うBjörkの口内に入り込むというモチーフ自体が悪趣味で、それでいてとてもコンセプトが強く独特の美学が感じられます。

このビデオでは、アニマトロニクスのエフェクトが使われており、Björkの口内がリズムに合わせて歪んでいくのもひとつの特徴。アニマトロニクスの構築には専門のクリエイターのJohn Nolanが参加しています。

『Mouth Mantra』 / director: Jesse Kanda

Jesse Kandaはミュージックビデオのディレクターだけでなく、アーティストとしての側面を持っています。Jesseは、『ヴァルニキュラ』のサウンドプロデューサーを務めたトラックメイカーのArcaとタッグを組んでいることでも知られています。Arcaのミュージックビデオを作り、ヴィジュアルワークやアートワークも担当しており、Arcaのツアーにも常に同行しVJやアートディレクションを行なっています。また、FKA twigsのアートワークやミュージックビデオ制作もしており、マルチクリエイターとしてさまざまなクリエイションを作り出します。

『Trauma』 / director: Jesse Kanda

また、Jesse Kandaは前述のようなArcaとのコラボレーションの一環で、MoMAでオーディオ・ヴィジュアルの企画としてビデオインスタレーションとパフォーマンスを行ないました。このようにヴィジュアルクリエイターがひとりの音楽家に対してヴィジュアルに関するクリエイションやその音楽家の世界観づくりに大きく貢献し、一種のチームを作り上げるという構図はオーディオ・ヴィジュアルの新たな流れとも思えますね。また、ArcaやFKA twigsのような若手の世界観構築に貢献している、という点も注目できます。

すでに『Mouth Mantra』でコラボレーションが実現しているBjörkとJesse Kanda。ふたりのクリエイションはVRコンテンツまで拡張しました。すでに制作が始められている新作に関しても、Jesseとのコラボレーションを期待したい...(願わくばBjörkのアートワークも担当してほしい...)と個人的に思っています。

REWIND

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いまだウェブなどでの公開はされていない『Notget』のミュージックビデオ。今回の「Björk Digital」より前に6月に行なわれたオーストラリアの大規模なフェスティバル「Vivid Sydney」でVR展示として公開されました。

このビデオのディレクターはファッション業界でのクリエイションの多いWarren DupreezとNick Thornton Jonesのコンビ。Björkとは、以前にコンセプト・ポートレイトを作るなどでコラボレーションをしています。

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『Notget』のミュージックビデオのスチールショット by REWIND

ミュージックビデオのVR環境構築には、『Stonemilker』でも制作に関わったVRテクノロジー開発企業のREWINDが担当しています。REWINDはBjörkのミュージックビデオを作り上げるために、ハイレゾ3Dスキャンによるキャプチャーや、多機能の撮影スタジオ、マルチアングルのカメラによるリアルタイム制御などの技術を使ったそうです。

このような革新的な技術をBjörk本人のパフォーマンスに埋め込んでいくように作り上げました。小さな粒のようなデジタライズの断片が少しずつ進化して変化して、Björkのパフォーマンスを構築していく。私たちが作り上げた"Notget"のVR体験は、より身近な個人的な体験として鑑賞者にBjörk自身を感じられるものになっています。

REWINDのチームは『Notget』の制作過程をこのように語っています。スチールショット1枚だけみても、3DスキャンしたBjörkをデジタライズによって再構築していくような印象を受けます。今回展示されるミュージックビデオの中では、いちばんデジタルな表現のグラフィックスになっていますね。そして、他のビデオと共通するように、Björkという存在を身近に感じられるような作品になっているようです。

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また、REWINDは自らVRX(virtual reality experience)という言葉を使い、VRコンテンツやVR制作を推進していこうという立場をとっています。多様なVRコンテンツの制作から、VRプラットフォームの拡張、新たなコンテンツユースの模索などVR推進派としてあらゆる活動を行なっており、そこにはクリエイター、エンジニア、プログラマーやプロデューサーまでいろいろな職種のひとたちが集まっています。

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たとえば、現在制作中というBjörkの新作において、Andrew Thomas Huangがミュージックビデオやコンセプトアートを作り、エキシビジョンなどのアートディレクションをやり、Jesse Kandaがアートワークやパフォーマンスにおいてのヴィジュアルワークを担当したり、REWIND(やその他のプロダクション)がVR制作、ライブアクトにおけるVRの導入などをやったり...となれば、どんなものになるかも想像できないですし、それが非常にワクワクさせます。

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かつて、Björkはミュージックビデオ文化におけるシンボルともいえる存在でした。スパイク・ジョーンズによる『It's Oh So Quiet』、ミシェル・ゴンドリーによる『Hyperballad』、そしてクリス・カニンガムによる『All Is Full Of Love』など、傑作とよべる作品がたくさんあります。これらの作品はいまも色あせず、Björkにとってだけでなくミュージックビデオという文化の中でも代表的なものとしてあげられるもの。個人的にも、『Directors Label』という彼ら3人のビデオが収録されたDVDを何度も見るほど好きですし、MTVのインターバル映像に『All Is Full Of Love』がワンカット出るだけでも興奮しました。

とはいえ、ひとついえるのは、いまのBjörkはもうミュージックビデオのディーヴァではないということです。なぜなら、Björkは進化しつづけているから。あるいは、スパイク・ジョーンズやミシェル・ゴンドリー、クリス・カニンガムらのクリエイターたちがその後「大御所」とよばれるほどに成長したように、いまBjörkとともに制作をしているクリエイターたちがそのように大きく、そして有名になっていくかもしれません。

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VR(やテクノロジー)の可能性をみんなで探っていく」と語るBjörk。Andrew Thomas HuangやJesse Kanda、REWINDといったプロダクションたちとBjörkが今後どのようなクリエイションを生み出していくのか、彼らの動向にも注目するときっと面白いですよ。