MAIL MAGAZINE

下記からメールアドレスを登録すると、FUZEが配信する最新情報が載ったメールマガジンを受け取ることができます。


4 落合陽一:デジタルネイチャーの時代へ

落合陽一さんインタビュー3:インターネットに墓石は置けるか?

ARTS & SCIENCE
エディターMakoto Saito
  • はてなブックマーク

< Prev 「落合陽一さんインタビュー前編:人間は「重すぎる身体」をもてあます

インターネットには「山河」がない

―― 前回は「すべてはソフトウェア化していく」というお話を伺いました。そうやって現実と呼ばれていたものが溶けていく世界の中で、そこにソリッドな物質(ハードウェア)が存在することの価値ってどうなっていくんでしょうか?

落合陽一さん(以下、落合): デジタルネイチャーにいた過程で一番困るのは、亡くなったおじいちゃんのデータどうしようってことだと思うんだよね。例えば昔の写真のネガとかはアナログデータだったから誰でも閲覧できたんだけど、デジタルデータになってるとその人しか閲覧できないデータがいっぱいある。オフラインで保存したデータはしばらくすると機器が古くなって揮発したりするし、再生しにくくなるから、インターネット上のデータのほうが寿命が長いかもしれない。でも個人のアカウントの中ってアクセスしにくいですよね。そうすると、それってグーグルが持っているべきなのか、フェイスブックが持っているべきなのか? ほんとうは国が保持して個人が所有しておくべきなんだろうけど、そういうのを保存しておけるようなものってのがまだなんにも考案されてない。

クラウド上に残すとか方法はいっぱいあるんですけど...なんかね、アナログなものと違って物理空間との関係が希薄なんですよ。しかもどこかの商用サービスに依ってるんです。それってすごい変なことなんですよ。だって俺たちってインターネット以前はあらゆるものを所有できたはずじゃないですか。だけどいま所有できてるものってほとんどないですよね。もう私企業から間借りしてるものばかりになってるんですよ。

物質はサービスとして存在しているわけじゃないですよね、その存在は宇宙によって規定されている。ソニーがもしつぶれてもソニーで買ったハードウェアは残るけど、ソニーのクラウドは残らないかもしれないし、突然アクセスできなくなるかもしれないですよね。ほんとうにパブリックなクラウドって誰が提供するの?っていうことを次に考えなければいけないと思います。

例えばブロックチェーン(ビットコインなどで使われる分散型台帳技術)とかと組みあわせて、誰のデータがどういう信頼性で誰に紐付くのか、その方式で写真や個人のライフログデータの移動歴を信頼性のある形で保存し続けるためにはどうしたらいいかなどをしっかり考えないといけないフェーズになってきたと思うんです。つまり、誰かが一元化することなく、全員のデータに全員の信頼を付けて保っていく仕組みに変えていかないといけない。通貨が先で、次に「人生」だと思うんです。

160303ochyai_3_02.jpg

落合: だから、「」はキーワードになると思っています。墓石は個人の所有物なんですよね。霊園の土地自体は使用権を借りているだけなので、個人の所有ではないですが、石という実体を個人が所有して、置いている石のなかに(情報が)詰め込まれてることに意味がある。墓石データベースはいいですよ、グーグルを通さなくても物理的に存在するし、かなり長持ちしますから。そういうものにデータ性のあるものをどうやって保存していくのかは、次のキーワードだと思います。

物理空間ってのは本質的にパブリックです、インターネットの仕組み自体はパブリックでもそのデータの置き場所はパブリックじゃない。でも、土地は誰かの持ちものだけど、つまるところその土地の所有権はソフトウェアなんで、土地や物質自体は残るわけです。「国破れて山河あり」の概念が、インターネットにはまだないんですよ。

自動運転は人類に「史上初」をもたらす

落合: あと21世紀の人間感や社会性のことを考えると、意外と自動運転の話がキーになるはずです。スマホメーカーが新しいプラットフォームやOSの携帯電話出したみたいなノリで自動運転のことをとらえると、それはぜんぜん自動運転の本質をついていないです。我々って、誰も人が介在しない環境で身体を移動したことがないんですよ。有史以来、馬の指示を聞いて走ったことないでしょう。自転車だってそうですけど、俺たち今、車を運転させられてるわけですよ。車の奴隷です。公共交通機関は個人の意思を反映しないし、運転手付きの生活を全員ができるわけじゃない。

でもそれが完全にオートメーションになって動き回るとなると、議論が変わると思うんですよね。土地の区画や地価の分布が変わるとか、定住の感覚が変わるとか。インターネットを手にする前後で人のコミュニケーション方法が変わったことによって、恋愛や待ち合わせの形、ビジネスマナーが変わったじゃないですか。最低でもそれぐらいの変化があるはずなんですよね。もっと変わるとするなら、脱身体の流れがもっと加速して「貧者のVR」や「清貧なVR」に行く契機になるかもしれない。

―― 住むことと移動することが同じになるようなことでしょうか?

落合: そうそう。キャンピングカーって、人間が運転してたから矛盾なんですよ。運転してたら生活が半分になってしまうじゃないですか。自動運転してくれるキャンピングカーがあったら、それは移動してる家なんですよ。移動し続けてたら「家賃」っていくらなんだろうっていう感じですよね。

あと、車が空を飛ばない理由や飛ぶ方向に舵を切らない理由はなぜかって言うと、ほとんどがソフトウェアの問題ということもできますからね、ハードウェアじゃなくて。飛行機みたいなものなら飛ばせるし、ヘリでよければ今でも飛べる。でも全員が欲しいというほど制御利便性や都市の運用利便性が高くない。それはソフトウェア思考の話です。

第一、人間では3次元空間でぶつからないように自由に交差できないし、ヘリみたいなものを自由に操縦できないからです。だけどドラえもんの街の中では車がうまくよけて航行できるでしょ。あれは自動運転が成立した後だからですよ。それまでは車は空を飛ばないんですよ。バック・トゥ・ザ・フューチャーもそうです。ドクは運転してるけど、あれは臨場感のためです(笑)。運転が人から解放されたら、じゃぁ、どっちみち一緒だし、飛んでもよくね?っていう方向に舵がきられると思うんですよね。

メーカーズムーブメントの本質はDIYではない

落合: まずは、自動運転を今までのモビリティっていう概念から切り離したいですね。自動運転するってことは逆に言うと、自動運転車のメーカーが携帯電話を作ってもいいんだよっていうことなんです。

―― 運転しないことが主流になって生活が変わるのであれば、もう車だけの問題ではないということですよね。

落合: 俺が今いちばんやってほしいのは「トヨタフォン」です。フォードがモビリティカンパニーに移行するってニュースもありましたが、自動車の問題は自動車の問題だけじゃなくて、インターネットの問題でもあるわけです。電気自動車が張り巡らされたら、通信網はアンテナを建てる意味がないんですよ。ひとつひとつが電信する物体がそこら中を走り回ってるので、電波基地はすべて車になるはずです。そうなってきたら最大の通信事業者は電気自動車を作ってるメーカーと同一になるでしょう。車メーカーはいまのうちに通信事業者としてのスタートアップ買ったほうがいい。

メーカーズムーブメントの本質は、どの企業でもハードウェアビジネスモデルに参入できるっていうことなんですよ。小ロットで、自分たちの顧客のために、単価が安くないものでも作れるんです。しかもデータをユーザーが使えて作れるような生態系の整備が重要です。それは、買う側と作る側という構図が主体だったのが、プラットフォーム側に主体が移行したっていうことだと思います。

ソフトバンクのPepperとかすごくおもしろい例です。いままでロボットを作るのは違う業者がやってたけど、社内からロボット売るくらいならすぐできるじゃん、じゃあハードウェアビジネスモデルを会社買って、もしくはベンチャーと連携してやっちゃおうよみたいな。いままでだったら彼らの業種モデルの横展開って広告やデータ事業くらいだったんです。でも、メディアの枠を用意して誰かに売る代わりに、そこでハードウェア作っちゃってもいいし、業態自体をソフトウェア的に移行しちゃってもよくなったのがいまのメーカーズムーブメント。

3Dプリンターが主体だとメディアが喧伝していたあれは気のせいなんです、勘違いしている人はなんだかんだでまだ多いですけど(笑)。あれは象徴的機械だっただけで、社内でプロトタイピングからアウトソースまで、もう誰でもできるようになったってことが本質なんですよ。今までは電機メーカーは電機メーカー、車メーカーは車メーカーでやってたけど、「ソニーカー」があってもいいし「トヨタフォン」があってもいいんですよ。ほんとうに何やってもいい時代になっているんです。

だからアップルの自動運転ニュースっていうのは突飛な話じゃないし、結局は生態系の「ネイチャー」視点な議論になるんですよ。今、テクノロジーの発明は、インターネットの新陳代謝、地球の気候変動みたいなもので、その中でさまざまな生態系や生態系ニッチが生まれていく。その速度がどんどん加速しているから、我々のフォーカスはちょっと広めの視座を持っていかないといけない。技術と芸術のハイブリットからネイチャーを見ていかないといけないんです。そういう次世代を育てていきたいんだよなぁ。

「インターネットのはじっこって未来につながってそうだよね」

インタビュー終了間際、ふと、落合さんがひとつの想像を語ってくれました。

「インターネットのどこかにはホールが開いてて、なんかそれって2050年くらいに繋がってそうな気がしない? インターネットに一部分だけすごく遅いところがある。重力波みたいに。後から見たら、実はインターネットが思考していたみたいなことはすごいあり得るよね...だれも気づいていなかったけど、脳の形をしているとか(笑)」

今回のコンテンツジャックでは、「僕らは2016年のことをどんな風に思い出すだろうか?」と題された落合さんの寄稿を皮切りに、VRや人工知能、バイオテクノロジーなど、時代を大きく加速するテーマについて特集してきました。

いつかわたしたちが未来からいまを振り返ったとき、2016年の残響はどんな風に聞こえるんでしょうか?

photo: Yohei Kogami

落合陽一:デジタルネイチャーの時代へ