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3デジタル時代のゲームチェンジャー

90年代の郷愁に満ちたゲーム業界を描くフィンランド人クリエイターたちが語る、時代の再発見と楽しみ方

DIGITAL CULTURE
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ライターabcxyz
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90年代にビデオゲームで遊び育った人たちにとって、ゲームクリエイターはヒーローだった。当時最先端のデジタルテクノロジーを駆使してポップカルチャーを生み出した彼らの日常はどんな様子だっただろうか? 彼らたちの内幕を描いたフィンランドのTVドラマの監督と、ドラマの元となった原作コミックの作者をインタビューして見えてきたのは、古今東西共通の寝食を犠牲に創作魂を燃やすクリエイターたちの姿だった。

「Bitwisards - nuoret gurut kyberavaruudesta」(仮訳:ビットウィザーズ - サイバースペースの若きカリスマたち)は90年代のフィンランドを舞台に、カリスマゲームデザイナー率いる架空の小さなゲーム会社「Bitwisards」でゲーム開発をする人々を描いたTVドラマだ。これには原作となるコミック「Matkailua Pelialalla」(ゲーム業界への旅)が存在する。コミックは90年代から00年代後半までのゲーム業界の内情、裏話、業界の変遷をコミカルながらもドギツイ描写を交え、モキュメンタリー風で描いたミハ・リンネ(Miha Rinne)が作家だ。クラウドファンディングサイトで資金を集め2013年にコミックが出版されて3年たった今年、フィンランド国営放送でヤルノ・エロネン(Jarno Elonen)監督により実写TVドラマ化された。

Yle Areenaより、「Bitwisards - nuoret gurut kyberavaruudesta」予告編

コミックから実写ドラマへ

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ミハ・リンネ(右)、ヤルノ・エロネン

TVドラマは原作コミックの第1章を実写化したもので、AmigaからPCへとゲーム開発が移り行く1994年を舞台に、給料ももらわずに職場で寝起きしながらゲームを作り上げていく過酷な世界が独特のユーモアと、アニメーションを交えた映像で描かれている。

フィンランド国営放送「YLE」に企画を持ち込んだところ、YLEは企画に非常に興味を持ったという。その背景には、フィンランドのゲーム会社スーパーセルがソフトバンクに買収され、その後テンセントによってより巨額な買収が行われたニュースや、「フィンランドではゲーム業界だけが右肩上がり」と言われる昨今の経済事情もあり、ゲーム開発に注目が集まっているためだ。こうした社会背景が伴って、コミック「Matkailua Pelialalla」は「Bitwisards」としてTVドラマ化されることになった。

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今回インタビューに応じてくれたのは、コミック作者のミハ・リンネ(Miha Rinne)と、TVドラマ版の監督ヤルノ・エロネン(Jarno Elonen)。1996年から共にゲーム制作の現場で共に働く仲だった二人。リンネがコミックの製作/出版に奮闘するのと同時期、2009年からエロネンは映画製作を学び、その卒業作品として出版以前からよく知っていたリンネのコミックの映像化をすることにした。これまでにも多くの作品でビジュアルエフェクトを担当してきたエロネンにとって、実写とアニメーションを融合させた作品を作ることは自然な成り行きだったようだ。

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実写化に向けた監督のビジョン

これは自分にとって親しんだ世界の話だし、当時18歳だった自分のキャリアの駆け出し時期でもある。だからとてもパーソナルな作品とも言えるね(エロネン)

主にプログラマーとして18の時からゲーム業界で働いてきた監督のエロネン。プログラミングの他にもプロジェクトマネジメント、サウンドデザイン、などの職を経験してきた彼は、映画に携わるようになってからはVFXを担当。「Bitwisards」でも監督業のみならず作中のVFXも担当している。コミックでは、これまで2Dだったゲームが、時代と共に3Dに代わり行く過程や、その難しさについても描かれているが、コミックから実写ドラマへと作品の形を作り変えることに難しさは感じただろうか。

その一番難しい問題は、ある意味避けたんだ。ミハ(・リンネ)の絵を最大限に活用するスタイルを作り上げることでね。背景やシーンの間のアニメーション部分を使い、実写でありながらも常にコミックの作風の中にいるようなスタイルにした。原作の作風を使わなかったとしたら、コミックの持ち味を実写で伝えることはもっと難しかっただろうね(エロネン)

作中に登場する窓の外の景色や雑誌、瓶のボトルまでリンネの絵で表現されたセットは原作の世界そのもの。そこにフィルターエフェクトなどを組み合わせることで、ただ絵を画面中に置くだけではなしえない画を作り上げている。しかし、人間の俳優たちを違和感なくそこに混ざりこませるには様々なテクニックが活用されている。

私もアニメはいくらか見ているし、アニメの実写版も見たことがあるけど、一番気に入っているのは「のだめカンタービレ」かな。この作品は私が見てきたものの中では、原作を実写化することに一番成功した作品と言える。好き嫌いはあるだろうけど、たいていの場合は実写化作品は原作からの絵は使用していない。私の選んだスタイルは、例えば実写版「のだめ~」のような作品のリズム的な要素を使用したものだ。まるでアニメーションから切りとってきたかのような、高速化やカットインなどで実写の俳優たちがアニメーションかのように見せる手法だ。これらのコンビネーションがこの作品の作風を形成しているんだ(エロネン)

実写化への原作者のかかわり

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原作モノが実写化されるときにファンが一番心配になるのは、原作の雰囲気をどれだけ保てるかだろう。「Bitwisards」では原作者のリンネがグラフィックデザイナー兼アニメーターとして制作に参加、コミックそのままの雰囲気を実写に取り入れることに大きく貢献している。

静止画が動くようなシンプルなアニメーションを作るよう依頼されたんだけど、ヤルノ(・エロネン)と話し合ってちゃんとしたアニメーションをやりたいって言ったんだ。一人で全部できるのかという懸念の声も聞こえて、結局それも正しかったんだけど(笑)。でもやり遂げることができた。ずっとアニメもやってみたかったし、宮崎(駿)のような有名な漫画家は作品をアニメ化することができて羨ましいといつも思っていた。フィンランドではそんなことまず起こらないからね。「AKIRA」と同じ1秒間25フレームを一人で描いたんだよ。やりすぎだったね(笑)。(2012年から描き続け最近完成させた新作コミック)「D'Moleyk」も描きながらだったからとてもストレスになった。でもそれと同時に、これができて幸せだったからストレスもへっちゃらだった(リンネ)

小道具や登場人物の着ているシャツのデザインも彼が担当しており、作品はまるでコミックから抜け出たかのような印象を受ける。それに加え、原作者自らすべてのフレームを描いたアニメーションが実写と混ざり合うことにより、独特の雰囲気を作り出している。

原作コミックには入れなかったけどドラマ版には入れ込んだシーンもあるんだ。他の章でも入れたいけど残念ながら入れてない話や、こまごまとした直したいところもある。「テレビ版にこそ入れたい」というものもあったりするね(リンネ)

原作者と監督の関係

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ミハ・リンネ(右)、ヤルノ・エロネン

この作品を通じて観客に伝えたかったことを尋ねると、二人から異なる反応が返ってきた。

私は単純に観て楽しんでもらうことのできる作品にしたかった(エロネン)

僕に関してはコミック版を作った時と同じで、昔のゲーム制作がどんなだったかを事実を基にしたフィクションで表現したかった。ある意味もう存在しない環境をタイムカプセルを通じて見るような感じのものにしたかったんだ(リンネ)

二人の異なる個性が存在し、原作者が実写版の制作にかかわる中で、監督との間で意見の衝突などは起こらなかったのだろうか?

泥レスリングしたの覚えてる(笑)?冗談だよ。一度だけ白熱した討論になった。あれは何がアニメーションで描かれるべきかを話し合う時だった。当初ヤルノはアニメーションシーンでは俳優たちが演じることにしたかったんだけど、僕はアニメーションシーンではキャラクターもアニメーションにしたかった。だから多くの討論が行われたよ。どの部分が実写でどの部分がアニメになるのかはきっちり決めないといけなかったからね。最終的には、誰かの頭の中で考えたり妄想したりしていることをアニメーションで表現することで合意に至った。

ただ、アイス・ヘアーだけは別格で、彼の豊かで鮮やかな想像力の世界には他のキャラクターたちも引き込まれてしまうんだ。この案で共に納得できたので、一貫性のあるスタイルになった。他には衝突はなかったね。でもだからこそ「これは現実なのか、それとも誰かが想像しているだけなのか?」という疑問が生まれる部分なんかもあるよね。ハエは本物なのか**とかね(リンネ)

  • *アイス・ヘアー:ゲーム会社Bitwisardsを率いる天才ゲームクリエイターというキャラクター。予告編で跳ね上げ式サングラスをつけている、トップ画像の人物。

    **ハエ:日中オフィスの押し入れで寝ている天才プログラマーの登場シーンでは、ハエのたかっているアニメーションがある。

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    クリエイティブ面での意見の食い違いは互いに納得できる形で収まったようだ。だがこうして衝突もなく円満にドラマを作り上げることができたのはお互いの信頼によるところも大きいようだ。

    セットを訪れた時には、毎日訪れたいとは思わなかった。僕はヤルノに完全に信頼を置いていたから、監督の邪魔をしたくなかったんだ。初日に訪れた時には、作品の扱われ方がうれしかった。YLEは原作に対して敬意を払ってくれていて、それを表そうとしてくれたんだ。セットを訪れるのは非常に満足のいく経験だったよ(リンネ)

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    過酷なクランチ

    作中では寝る間も惜しんで働く人々や、会社のクローゼットで日中睡眠をとり夜中に起きて仕事をするプログラマーなどを通じゲーム制作の厳しさが描かれている。趣味で始めたデモシーンの世界で有名になり、趣味を職業にしようと考える若者たちは、結局賃金もなしに働きづめとなってしまう。

    ドラマ版の制作も時間との闘いだったようだが、この経験はゲーム制作にも通じるところがあったのだろうか? 「ゲーム制作よりも厳しかったよ(笑)」と笑ったリンネとエロネンは同意見だ。

    「クランチ」*に関するエピソードが作中にあるんだけど、最後の数週間はまさにそれ(笑)(エロネン)

    クランチ (crunch)とは、ゲーム制作において締め切りに間に合わせるために休む間もなく働かなければならない状況で、超過労働に対しての賃金はたいていの場合ない。作中では「80年代のクランチを生き延びた人々の中には、燃え尽きすぎてそれ以降は非常に単純な仕事しかできなくなってしまうケースも」という説明が入る。現実にゲーム業界ではこのクランチが習慣化され、大きなゲーム会社でもクランチが存在したため近年大きな問題になっていた。

    作中のあるキャラクターは週100時間働いて死にかけてるけど、僕は週100時間を8週間やったね。どうやら生き延びれたようだけど。

    アニメーションに関しては、細部にわたって計画しなければならなかったから、撮影より後に制作するポストプロダクションだった。どれだけ必要か事前に正確に知る必要があったし、時間も切迫していた。オープニングアニメは期日前日の朝にようやく完成したんだよ。期日の2日前にはオープニングアニメの半分は未完成だった、スミ入れが終わってなかったんだ。アニメーションを作るには複数の段階を踏まないといけない。ストーリーボードから始まり、アニマティック、コマ数の少ないキーフレーム、コマ数は多いけどスミ入れ前のアニメーション、それからスミ入れしてアニメーションが完成するんだ。半分未完成の段階で2日前の朝9時から作業をはじめ、月曜朝7時までノンストップで作業した。それから朝8時にヤルノがYLEに持って行ったのさ。6時45分の段階ではまだどこから来たのかわからない窓が浮かんでいたな...(リンネ)

    ホントにきついスケジュールだったよ(笑)。でも完成させることができた。プロセスとしては、番組をひとまずラフなアニメーションとかアニマティック、時には静止画を入れて編集してからするというものだった(エロネン)

    はた目には、その様はブラック企業での労働にも通ずるようにも見える。しかし、これから何か新たなもの、革新的な何かを生み出そうというクリエイティブな仕事には、情熱をエンジンに自らの命を削り燃やして突き進むような労働スタイルは、時代、国、職種は違えど常に共通することなのかもしれない。

    もし急に僕が心臓発作とかで死んでもとりあえず何かが出来上がっているようにと、すべてのシーン、すべての背景のラフバージョンをひとまず作っておいたんだ。スケジュールに間に合わなかったから未完成のままのラフなシーンが完成した番組にも入っているところもあるよ。制作中にはヤルノには「ミハ、すべてのフレームを全部描く必要はないんだぞ。一秒に25フレームもなくてもいいんだからな。それでも全部ひとりでやるつもりか?」と訊かれたけど僕は「イエス、イエス」と答えたんだ。でも今ではやりすぎだったってわかってる(笑)(リンネ)

    職場の労働環境に関する話だと、俳優業をやっている友達に「このゲーム業界を描いた作品に共感できる部分、理解できる部分はあるか」と尋ねたら「もちろん。これはまるでアマチュア劇場を描いた作品だ」と言われた。思うに、これはアニメスタジオでもどこでもあることなんだろうね(エロネン)

    作品のリアリティー

    90年代のゲーム制作の現場のドキュメンタリーを作るという設定の作品だが、もちろんこの作品はドキュメンタリー作品ではない。ドキュメンタリー風の形を取った作品いわゆるモキュメンタリーと言えるだろう。しかし当時のゲーム制作現場を再現するための努力は細かいところまでなされており、90年代を生きた人には懐かしい光景も写っている。

    事実にインスパイアされて作った作品だけれども、作中の出来事はすべて作り物なんだ。言い換えれば、現実が背景に存在するフィクションと言ってもいいかもしれない。なるべく現実感を持たせるために、フィンランドのゲーム博物館から古いAmigaから借りてきたりもした。TVドラマに出てくるすべての装置は本物なんだ。背景に写るゲームも本物。本物らしさも大切にしたけど、それと同時にコミックブックの世界でもあるんだ。だからドキュメンタリーとはちょっと違う(リンネ)

    ドラマに登場するすべてのコンピューターは本物だし、ゲームも本物。それ以外のすべてはコミック要素だよ(エロネン)

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    細かい話になるけど、リアルさの追求の面の話もしよう。コンピューターディスプレイがカメラに写るときにはディスプレイをカメラにシンクしないときちんと見えない。だからヤルノはポストプロダクション段階でAmigaエミュレーターの画面をモニターにはめ込んだんだ。こうして作った画面の中には、ピクセルアートが表示されているものもあるんだが、それは本物のAmigaで僕が描いたピクセルアートをメモリーカードにエクスポートしてPCに入れて、それをヤルノがはめ込んだんだ(リンネ)

    実写となったキャラクター達

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    登場するパソコンを除けばすべてコミック的な世界に放り込まれた俳優たち。彼らの姿はしかし驚くほどに原作の登場人物たちにそっくりだ。キャスティングプロセスに関しても訊ねてみた。

    キャスティングはほとんど私が担当した。部分的にはキャラクターに似ているかも考慮している。でも腕のいいメイクアップアーティストとコスチュームアーティストのおかげでもあるね(笑)(エロネン)

    キャラクターも多くてスケジュールも厳しかったから、多くの人々の予定を合わせるのが難しくて、ラペ役の俳優が直前に降りることになったりもした。新たにこの役をすることになった俳優はあまりラペには似てなかったけど、彼は非常にいい役者で、まさにラペに変身した感じ(*上写真)だったね(リンネ)

    キャスティングのプロセスで二人が越えなければいけない壁は何だったのだろうか?

    キャスティングに関しては満足しているね。キャスティングで一番難しかったのは...(エロネン)

    クトゥルフ役だね(笑)。なかなか見つからなくて毎晩海の魂に祈りをささげなければいけなかったよ(笑)(リンネ)

    そうじゃなくて(笑)、言いたかったのは若くていい俳優というのはいつでも見つけるのが難しいんだ。年齢が若いと演劇学校に通ってるからね(エロネン)

    アイス・ヘアーのキャスティングにはとても満足、あのキャラクターに完璧の配役だね(リンネ)

    番組の反応

    20年前、まだ生まれたばかりのゲーム業界で活躍したヒーローたちを描いた作品は、果たして現代を生きる視聴者たちに受け入れられたのだろうか?

    (YLEの視聴者からの)レビューは圧倒的に好評だった。本当はもっと幅広い視聴者層に見てもらいたかったけど、私たちに向けて書いてくれた人々の多くは、ゲーム業界経験者や、作品のテーマにノスタルジックな親近感を抱いた人たちがほとんど。彼らはこの番組をとても気に入ってくれた。ゲーム雑誌にも好評だったし、ゲームとは関りの薄い新聞などにも、スタイルやアプローチの斬新さから気に入ってもらえた(エロネン)

    一番の反応はオンライントークショーで、ゲームジャーナリストと二人のゲーム業界者が語る番組だった。そのうちのひとりは有名なゲームデザイナーで「Cities: Skylines」で知られている、カロリーナ・コルッポー(Karoliina Korppoo)で、彼らは1時間以上も「Bitwisards」について非常に興奮して語ってくれたんだ。ゲーム業界の人々には大好評だった(リンネ)

    原作であるコミックのファン、そしてその出版に協力したクラウドファンディングの支援者たちの反応はどうだったのだろう?

    支援してくれた人があまりにも多かったから、誰がその時の支援者なのかわからないな。でも原作コミックのファンの大体60~80%の人には好評で、20%ほどはコミック版の方がよかったと言っている。まあこれは予想の範疇だけどね(リンネ)

    プロダクションに入る前はみんな心配してたね。原作のスタイルを保つことができるのかって。でも皆が満足する結果が出せた(エロネン)

    実写版を共に作り上げたキャストやスタッフたちは、完成した作品をどう思ったのだろうか?

  • エロネン:それを話し合ったことはないな

    リンネ:フィンランド人は会話しないからね。みんな「ありがとう」って言って去るだけさ(笑)。最初の回だけ見たスタッフたちからの反応はとてもよかった

    エロネン:プロジェクトに関わった人はみな最初の時点から関心をもっていたし...

    リンネ:撮影中もみんな楽しんでたね。スタッフたちも撮影中にクスクス笑って写真やセルフィーを撮ったりしてたね。セットデザイナーは「こんな格好のやつらを見るなんて信じられないよ」って言ってた(笑)

    エロネン:出来上がりはどうか知らないけど、少なくともみんな作る過程は楽しんだと言えるね(笑)

    リンネ:フィンランド人の本音を聞き出すには一緒に飲みに行かないといけないんだ。僕はセットデザイナーと一緒に飲んだりしたけど、彼は番組を賞賛してたね

  • 新時代のヒーローたち

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    90年代のポップカルチャーを生み出していったゲーム制作者たちを描いた「Bitwisards」だが、この作品を作り上げた二人は現代に彼らの面影を見出しているだろうか?彼らが注目する新世代のカルチャークリエイターたちについて訊ねてみた。

    リンネ:撮影中に同じビルではVRラボをやっている人がいたね。VRやARが面白そうに見えるね。

    エロネン:どこに向かっているのか見極めることは難しいことだけど、大きな可能性を秘めていると思う。

    リンネ:VRポルノの話はよく出るけど、ARポルノなんてどうかな(笑)。

    エロネン:VRもARもとても新しい媒体で、ビデオゲームが登場したてのころに似ていると思う、そこが興味深いね。

    リンネ:まだ誰もこれで何をすればいいのかわからない状態だね。

    エロネン:その通り。まだ人々に色々と試しに作ってみたりする余地が残っているんだ。

    VRやARに挑戦し、脚光を浴びるスターVR/ARデベロッパーがフィンランドから輩出されることはあるだろうか?

    エロネン:フィンランドにはアイドル文化はないけど...でも有名になる人が今後出てくる可能性はある。

    リンネフィンランドはコンテンツよりもテクノロジーの国なんだ

    エロネン:それに今のフィンランドのテクノロジーはより工業的で、人が自室でイノベーションを作る時代じゃなんじゃないかと思う。でも、実際どうなるかは待ってみないとわからないけどね。

    地に足のついた現実的な、ある意味ではとてもフィンランドらしい回答を得ることになったが、エロネンは「Bitwisards」のVR化を考えたこともあったとも語っていた。撮影に使ったセットは360度ぐるり作中のオフィスを再現したものであったためそれも可能かと考えられたが、VR技術はまだ未熟だし、監督自身もこれをどう撮ればいいのかわからないということで実現しなかったとの話だった。

    今後の展開

    原作コミックでは1994年から2009年までのゲーム業界が描かれているが、「Bitwisards」で描かれているのはまだ1994年の段階。この先を実写ドラマとして見るには続編が作られる必要があるが、続編はあり得るのだろうか?

    エロネン:そう願うよ。まだそれに関してYLEと話し合いはないんだけど、私自身はやりたいね。これはコミックの最初の章で、この章では始めから終わりまでオフィスの中で起こる出来事なんだ。第2章では舞台がロンドンだから(笑)、ちょっと違った感じでやらないとな(笑)。

    リンネ:僕らは、YLEがどうにかしてBBCと一緒に製作してくれないかな、と望んでるんだけどね。

    エロネン:そうなればとても興味深い共同制作になるだろうね。

    リンネ:もし第3章もテレビ化されたら、日本のシーンもあるよ。ロケできたらいいね。

    ドラマで描かれた時代はまだゲームを作るという「趣味」が「仕事」に変わりつつある過渡期で、そのふたつのあいまいな線引きにより、「労働環境」とはとてもいいがたい劣悪な環境でクリエイターたちは働いていた。しかし現在のフィンランドのゲーム業界は、ヨーロッパの労働基準に即し、法に則ったきちんとした「職場」へと徐々に改善されていったという。長時間労働やサービス残業などが問題となっている日本でもこの番組に共感できる人は多いのかもしれない。現時点で原作コミックの日本での出版やドラマの放映の予定はないのだろうか。

    エロネン:YLEに連絡してNHKと繋がりがないか訊いてみようとおもうよ。そうなったら面白いだろうからね。

    リンネ:もし日本の人が原作を読みたいと思ったら、日本の出版社が出版してくれれば読めるようになるよ(笑)、僕にコンタクトを取ってくれてもいいし。TVドラマでも同じことで、YLE Dramaにコンタクトを取ってくれれば翻訳版も作れるだろうね。

    もう存在しない90年代の過酷なゲーム開発の現場で奮闘するクリエイターたちをコミカルさを交え描いた「Bitwisards」。原作のリンネと監督のエロネンが作り上げたこのドラマは、その時代を生きた世代も、そうでない世代も、新たな創造物を生み出すために奮闘する人なら時代も業種も問わず、誰しも共感できる作品となったようだ。日本でも彼らの作品にお目にかかる日が来ることを期待したい。

    なおリンネは現在、フィンランドの首都ヘルシンキを舞台に、宇宙人が侵略してきて人類がほとんど滅亡してしまう新作コミック「D'Moleyk」の出版元を探しているところ。エロネンは「ムーミン」の生みの親として知られるトーベ・ヤンソンが「一番創作の面で充実していた時期」を描く伝記映画(2018年公開予定)のための脚本を執筆中だという。