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シモンヌ・ジョーンズ:HIV研究者から、科学と音楽を融合させるエレクトロポップスターへ

DIGITAL CULTURE
ライター福田ミホ
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Top image via Simonne Jones

ベルリンを拠点に活動するSimonne Jones(シモンヌ・ジョーンズ)は、エレクトロポップシンガーソングライターであり、ビジュアルアーティストでもあり、生物医学の学位を持っている。アメリカ生まれの彼女は16歳でメリーランド大学に飛び級入学し、生物医学とビジュアルアーツを二重専攻した。

Went to #CERN yesterday it was #incredible.

Simonne Jonesさん(@simonnejones)が投稿した写真 -

"昨日CERN(訳注:世界最大級の素粒子物理学の研究所)に行ったよ"

卒業後、シモンヌはHIVに関する研究職に就いたものの、その仕事に満足できず、アフリカでHIVの啓発活動に携わるようになった。そのときに「自分は音楽で生きていくべき」と気づいたのだと、Fusionのインタビューで語っている。

というのも、彼女は音楽でも幼い頃から才能を発揮していた。3歳から独習本を頼りにピアノを弾き始め、初めて作曲したのは10歳か11歳のとき。クラシックのピアノ曲だった。10代になると、ピアノだけでなくギターやベース、パーカッションやクラリネットなど、手当たり次第に楽器を演奏するようになっていた。その後、シモンヌはカリフォルニアからベルリンに移住し、レッドブルの音楽プロジェクト「Red Bull Music Academy」に参加するなど、活動を拡げている。

そんな彼女の作る音楽には、サイエンスやテクノロジーに関する愛がいろんな形で反映されている。

まず、わかりやすいのは歌詞。2016年5月にリリースされたEPのタイトルは『Gravity(重力)』。タイトル曲にはこんな一節がある。

I'm a wave, you're the shore(私は波、あなたは浜辺)

Tide pulls in I'm back for more(潮が引くと私は遠ざかる)

Broken by lovers(恋人たちに引き裂かれ)

Held together by dark matter(ダークマターによって結び付けられる)

信じられないかもしれませんが、ショパンがポップソングの書き方を教えてくれたんです

またEngadgetによれば、「Gravity」に収録された曲の多くは、音の周波数を通常とは微妙に違う設定でチューニングしている。

一般的な音楽は国際標準化機構(ISO)が決めた「真ん中のドのすぐ上のラは440Hz」が基準だが、シモンヌは同じ音を「432Hzにすべき」と考えている。「432Hzはより癒やされる、リラックスできる感じがします。440Hzはちょっと緊張感があります。サマーウェーブみたいに入ってこないんです」

同じEngadgetのインタビューでは、音楽と科学の共通性をこう語っている。

数学と音楽の問題解決プロセスは、パターン認識や型にはまらない考え方という意味で本当に似ているんです。

私のサイエンスに対するアプローチとか、サイエンスの裏の哲学的概念の理解は本当にアーティスティックです。私たちがなぜ未知のものを探索し、なぜ宇宙でパターンを探して予測しようとし、それらがみんな何を意味するのか、ということです。アートが好きで、それについて真剣に考えていけば、クリエイティブなプロセスになるはずです。

シモンヌにとっては、音楽と科学の間だけでなく、音楽のジャンルの間もボーダレスだ。

彼女に言わせれば、ショパンだってある意味ポップソングライター。Fusionではこう表現している。

信じられないかもしれませんが、ショパンがポップソングの書き方を教えてくれたんです。コードや動きの変化の仕方とか。

根音の周りにはある種のテンションがいつもあって、ショパンはそこをくすぐったり、そこに戻ってきたり、離れたり帰ってきたりするんです。ちょうどいいタイミングで繰り返すフレーズがあったりもします。ポップミュージックみたいにね。

Engineering is about using science for creative solutions... #tbt My first soldering work

Simonne Jonesさん(@simonnejones)が投稿した写真 -

"エンジニアリングとは、サイエンスをクリエイティブに使うこと...。昔、はんだ付けを初めて使った作品"

そんな彼女は、テクノロジーとアートをつなぐ活動にも積極的だ。7月には音楽とサイエンス、カルチャーをひとつの場で体験するイベント、Bluedotでサイエンスとアートが自身のクリエーションにどう影響しているかをレクチャーしている。またビジュアルアーティストとしても、ベルリンやニューヨークなどで彼女らしい作品を発表している。

クラシックもポップも、音楽もアートもサイエンスもすべてをボーダレスに捉え、自分のものにしているシモンヌ。『Gravity』には、200曲から選りすぐった5曲だけが収録されている。ライブの映像(下、2011年)を見るとまだまだ表に出していない部分がたくさんありそうだ。今後、彼女の宇宙がどこまで開かれていくのか、とても楽しみだ。

video via Séance Berlin