キーワードはインタラクティブ。今ファッション界がデジタルゲームに夢中な理由
DIGITAL CULTURE2015年は、デジタルゲーム産業の節目となる年であった。任天堂のスーパーマリオブラザーズは30周年を迎え、さまざまなコンテンツや記念商品がリリースされた。同年4月からバンダイナムコエンターテインメントが、パックマンや塊魂といった自社のIPを、デジタルコンテンツを制作する企業に向けて無償で解放する「カタログIPオープン化プロジェクト」を始めた。

今ファッション業界では、ファッションとゲームのコラボレーションがアツい。2015年末、モスキーノと『スーパーマリオブラザーズ』(任天堂、1985年〜)のコラボレーションが話題になった。2016年の春から夏にかけては、帽子ブランドのCA4LAが『パックマン』とのコラボレーション商品を発売し、ほどなくして完売になった。
ファッションブランドとゲームのコラボレーションが、ゲーム業界が自社のIPをこれまで以上に広めた結果として生まれたという側面は、確かにあるだろう。だが、本当にそれだけなのだろうか?
バーチャルなヒロインをミューズに抜擢
ルイ・ヴィトンの2016年春夏コレクションは、2009年にリリースされたビデオゲーム『ファイナルファンタジーXIII』(スクウェア・エニックス)の主人公である女性、ライトニングを"モデル"として起用したことで世界的に話題になった。このコラボレーションについて、ルイ・ヴィトンのアーティスティックディレクターNicolas Ghesquiereは、次のようにコメントしている。
ビデオゲームの中にあるバーチャルな美は、このコレクションにおいて最も重要な存在です。ライトニングは、グローバルで勇敢な女性です。そして生活の中にあるソーシャルなネットワークと、コミュニケーションがシームレスに張り巡らされた世界を体現する完璧なキャラクターなのです。
ゲーム内のバーチャルなヒロインがトップメゾンの"モデル"に抜擢されるという出来事は、テクノロジーと文化の交差点から生まれたゲームというコンテンツのIPをモードの上にフィーチャーすることで、時代を映す鏡となろうとするファッション業界の姿勢を象徴しているかに見える。テクノロジーが日進月歩で進化する今の時代において、モード×テクノロジーがファッション業界全体の潮流にあることは確かだ。
8bitはインタラクティブ時代のアイコンだ
アニヤ・ハインドマーチは、デジタルカメラが普及した2001年に、顧客が持ち込んだ写真データを高級バッグにプリントするサービス「Be a Bag」をローンチ。エコロジーブーム全盛期であった2007年には、限定発売されたエコバッグ「I'm Not A Plastic Bag」が世界的なブームになった(あまりに入手困難だったため、当時は偽物も多く出回った)。同ブランドは、それぞれの時代の社会背景に対する鋭い視点をユーモアを交えて発信するのが持ち味である。
2016年2月にロンドンで開催された、アニヤ・ハインドマーチ2016年秋冬コレクションは、世界初のアーケードゲーム『PONG』(ATARI社、1972年)をモチーフにした映像と、電子音とともに幕を開けた。ブロック模様のステージバックは、テトリスのブロックがゆっくりと落下する様子がライトの点滅で表現され、一部の壁からキューブがランウェイ上にせり出すという演出もあった。

コレクションのバッグやコートにあしらわれているのは、『スペースインベーダー』(タイトー、1978年)と『パックマン』(ナムコ、現バンダイナムコエンターテインメントバンダイナムコ、1980年)、ピクセル模様のアイテムも多数ある。これらのアイテムは、今からこの冬にかけて百貨店や通信販売で買うことができる。これまでアニヤ・ハインドマーチはレディースのみだったが、今季からはメンズコレクションも登場した。

アーケードゲーム黎明期に大ヒットした『パックマン』は、海外でも大ヒットし、ゲームキャラクターの関連グッズも空前のブームを引き起こした、一時期は米国内でのキャラクターグッズの売り上げがミッキーマウスをしのぐほどだったという。
デジタルゲームの先祖『Spacewar!』は1962年にMITの研究室から生まれた。そのような背景もあり、特に欧米ではデジタルゲームをサイエンスアートの延長としてとらえる向きもある(だからこそ今、ゲームのナラティブが注目されている)。だが『パックマン』は、アートではなく最も純粋で優れたインタラクティブデザインとして2013年にMoMA(ニューヨーク近代美術館)に収蔵された。重要なのはアートのオーソリティによって、ゲームがアートではなくインタラクティブデザインと解釈されたという点だ。
今ファッション業界は、製造プロセスにおいても流通においても、テクノロジーによる大きな転換期を迎えている。そこでキーワードになるのが、バーチャルとリアルのシームレス化である。ルイ・ヴィトンはバーチャルなヒロイン、ライトニングをコレクションのミューズに起用することで、それを表現した。アニヤ・ハインドマーチは、キャラクターの意匠が持つユーモアとかわいらしさでパッケージすることで、インタラクションというキーワードを、より親しみやすい形で顧客に提供したのではなかろうか。
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