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アンディ・ウォーホルをコンピュータ・アーティストに変えた、Amigaの軌跡を追う

DIGITAL CULTURE
ライター高橋ミレイ
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1985年にコモドールから発売されたコンピューター、Amiga(アミガ)が30周年を迎え、注目が集まっている。MacやWindowsが覇権を握るはるか以前のコンピューターの時代に人気を集めた、Amigaに焦点を当てたドキュメンタリー映画『Viva Amiga: The Story of a Beautiful Machine』が1月7日(日本時間)に配信された。制作資金は2011年に実施したKickstarterのクラウドファンディングキャンペーンで調達している。

日本語の字幕付きで観られるのはVimeo。海外ではAmazonやiTunes、Google Playでも視聴できるが、日本では未対応のようだ。また、DVDとBlu-Rayの発売を2月に予定しており、詳細は後日Facebookページでアナウンスされる予定だ。

amiga
Amiga 500(via Wikimedia

Amigaが初めて世に知られたのは、1984年のCES。市松模様のボールがリアルタイムで跳ね回るCGアニメーションのデモ「Boing Ball」を公開し、世界中を驚かせた。

弾むボールの画像処理ができるパソコンは当時としては驚異的であり、Amigaは欧州を中心にCG制作者をはじめ幅広いクリエイターやアーティストの心を一瞬でつかんだ。Amigaのペイントツールの愛用者だったアンディ・ウォーホルは、1985年の「Amiga 1000」ローンチイベントで、ブロンディのデボラ・ハリーの肖像画を「ライブペインティング」で残した。アンディ・ウォーホルはAmigaで制作したアート作品をフロッピーディスクに保存しており、1986年に雑誌「Amiga World」の表紙を飾り、インタビューにも答えるなど、Amigaとの関係は続いた。

日本では子ども向けのTV番組『ウゴウゴルーガ』のCGアニメーションや、『天才・たけしの元気が出るテレビ!!』のオープニングに使われてきた。日本人ミュージシャンの中でも、平沢進がAmigaの愛用者だった。1989年に彼が主宰するテクノポップ・バンドP-MODELからファンクラブ会員に送られた「CG年賀状」はAmigaで制作された強烈な映像とボコーダーのナレーションが特徴だったことで記憶に残っている。

Amigaの人気は、アートや音楽だけでなく、ゲームの世界にもじわじわと広がっていった。だが、創造主として地上を反映させるシミュレーションゲーム『ポピュラス』(エレクトロニック・アーツ)や、何ということはないオジサンの生活を第三者目線で観察するゲーム『リトル・コンピュータ・ピープル(アクティビジョン)など、Amigaが産んだゲームタイトルが、後のゲーム史に重要な貢献となったことは、あまり知られていない。

『ポピュラス』は神様目線で世界を作るゲーム。その系譜は、2000年にアメリカ人ゲームクリエイターのウィル・ライトが開発し世界的な人気を要する『シムピープル』シリーズに受け継がれている。さらには、2003年にローンチしたメタバース『Second Life』(リンデン・ラボ)や、ゲームプログラマーNotchことマルクス・ペルソンが作った『Minecraft』にも通じるだろう。『リトル・コンピュータ・ピープル』は淡々と綴られた他人の日常を見ているだけの作品に見えるが、実はオジサンがさまざまな活動を学習することで、行動パターンを変化させるアルゴリズムが仕掛けられている、いわばAIゲームの元祖のひとつだといえる。

『Viva Amiga: The Story of a Beautiful Machine』では、元コモドールの開発者ジェフ・ポーターやデイブ・ハイニー、ビル・ハード、さらにAmigaを愛するクリエイター、ファンたちへのインタビューを通し、テクノロジー史に大きな影響を与えたAmigaの功績を追っている。

また、Amigaの過去の歴史だけではなく、現在Amigaを使用してプレイするニューヨークのチップチューンDJcTrix」の活動など、今なお愛されているAmigaの姿にも触れている。ひとつの時代を創るほどに優れた機材は、時代を超えて多くのクリエイターの創造性を引き出し続けるのだろう。

編集部追記(1/25 10:30): 誤解を招く表現を訂正しました。『ポピュラス』シリーズのデザイナーはピーター・モリニュー、『シムピープル』のデザイナーはウィル・ライトです。