情報の安全圏から逸脱した記事の読み方や議論の方法を試みる人が、何の記事をどう読んでいるか、知りたい。そんな疑問からこの企画が生まれた。
自らの価値観で情報を掘り下げ記事と向き合ってきた編集やライティングのプロたちに、"改めて読みたい"ウェブの記事を聞くという連載企画だ。基準は、PVでもシェア数でも"バズ"でもない。ただ自分の基準で面白いと思い、記事を読む行為を有意義な時間と感じるかどうか、それだけをお願いして選んで頂いた。
世間の評価やメディアの構造よりも、読み手の"テイスト"だ。お気に入りやブックマーク、クリック、プッシュで消費される情報消費社会において、記事と自ら向き合おうとする彼らの行為は、あらためてウェブの可能性を提示しているようだ。
・インターネットはいかにぼく(と音楽)を救ったか? |tofubeats|WIRED Japan
00年代にかつてあった「ネットレーベル」という文化。それは草の根的なもので、誰かが体系化して書き残さなければアーカイブの海の中に埋もれてしまうものだったはず。インターネットが新しい希望だった時代を当事者として生きてきたtofubeatsの文章には、そういうことに対する使命感も感じる。そしてWIREDという媒体と若林編集長に対する彼の信頼があるからこそこの記事ができたのだと思う。
・日本に、この人がいて、本当に良かった。高木正勝さんとのはなし | 塩谷舞 - milieu(ミリュー)
塩谷舞さんが立ち上げたmilieu(ミリュー)というメディアの高木正勝インタビュー。僕も何度かインタビューをしたことのある相手なのだけれど、そのたびに「彼が住んでいる兵庫県の山奥に行かないと何もわからないな」と思っていた。それを実現させる取材力と、ちゃんと「問い」を持っていき、現場でそれが溶けていくさまをドキュメントとして見せる構成力は感服。ここ最近のウェブメディアには書き手が顔を出す傾向があって、文章そのものよりもライターのキャラクターや親しみやすさを前面に押し出す風潮がある。それを揶揄する「読モライター」みたいな言葉もあるんだけれど、この記事に関しては書き手が顔を出してインタビュイーと対話をする必然がちゃんとあると思う。
・きゃりーぱみゅぱみゅ「なんだこれくしょん」特集 宇川直宏が語るきゃりーぱみゅぱみゅ壱卍(万字)!!!!!!! (4/7) |音楽ナタリー
DOMMUNE主宰の鬼才・宇川直宏による文章作品の最高傑作。野田凪からマーティン・デニーまでさまざまな参照軸を縦横無尽に辿りつつきゃりーぱみゅぱみゅと「Kawaii」と原宿を位置づける1万字。正直最初に読んだときは震撼したし、とにかく情報量が多いので読み返すたびに発見がある。そして「フラットであること」「批評をしないこと」を標榜し創立者の大山卓也もそれをメディアのコンセプトだと語るナタリーにこういう類の文章が載っているのも興味深い。内容もさることながら「宇川直宏にきゃりーぱみゅぱみゅを語ってもらう」という記事の企画を立てるメディア行為自体に強烈な批評性が宿っている。
・Bon Iver's New Voice|Hua Hsu - The New Yorker
昨年、ボン・イヴェールが『22、ア・ミリオン』を出したときに真っ先に気になったのはヴォーカルエフェクトについてだった。オートチューンともボコーダーとも違う不思議な響き。しかし日本語圏のメディアでは「崇高な」とか「深遠な」みたいな形容が飛び交う新作のレビューはあってもそのあたりをジャーナリスティックに探った記事はなかったので、英語圏のウェブメディアを探って見つけたのが『ニューヨーカー』のこの記事。これを読んでフランシス・アンド・ザ・ライツが開発したプリズマイザーという機材がキーになっていること、クリス・メッシーナという彼のエンジニアがそれを改良した「ザ・メッシーナ」というエフェクトを使っていることが判明した。僕は普段から英語メディアをよく読むほうではないんだけれど、何が起こっているのかを捉えるにはやはり読まないとわからないことが沢山ある。
・「ネットの音楽オタクが選んだ2011年の日本のアルバムアーカイブ ベスト50→1」シリーズ|pitti|
2011年に始まった、100人を超えるブロガーやツイッターのユーザーなどの年間ベストを集めて、それを集計してランキングにしてしまおうという企画。最初は「pitti」さんというユーザーのブログで、その後は「音楽だいすきクラブ」という共同ブログに場所を移して続いている。2011年から年間ベストになった作品を振り返ると、坂本慎太郎『幻とのつきあい方』、くるり『坩堝の電圧』、PERFUME『LEVEL3』、くるり『THE PIER』、cero『Obscure Ride』、宇多田ヒカル『Fantôme』となっている。「ネットの音楽オタク」という言葉選びに気になるところはあるのだけれど、2010年代の日本の音楽シーンを後から振り返る時に参照する企画の一つになると思う。
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目的と価値消失
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