「東京生まれヒップホップ育ち」。
今やヒップホップのカルチャーに馴染みのない人にとっても広く知れ渡ったパンチラインであり、名フレーズ。このリリックが指す通り、東京しいては渋谷という街には、日本のヒップホップ黎明期からそのカルチャーと蜜月な関係性があった。
かつては渋谷・宇田川と聞けばクラブミュージックの情報発信エリアとして多くのレコード店やB-BOY御用達のセレクトショップがひしめき、耳の肥えたクラバーたちが夜な夜な集まるクラブも多く存在した。しかし現在ではその姿も時代とともに変容し、全盛期ほどの盛り上がりを感じられないのが現状だ。
そんな時代にあって、SNSやストリーミング音楽の普及が大きなきっかけとなり、新たな広がりを見せつつある国内ヒップホップの可能性。その新世代のキーマンとして期待されるのが、20代のラップグループkiLLaだ。街並み同様に新たな時代を寛容に受け入れていく渋谷という街で生まれ育ち、ボーダーレスな感性を持ち合わせる彼らが見据える日本のヒップホップの未来について訊いた。
プロフィール
YDIZZY、KEPHA、No Flower、Arjuna、Blaise、YESBØWY、acuteparanoia、RYOSUKE、yuki nakajoからなる00年代を代表するヒップホップクルー。メンバーの多くが渋谷区出身で、彼らの共通言語となるHIPHOPとバスケットボールを通じて2014年に結成。国内のみならずアジア各国においても同世代の若者を中心に今圧倒的な人気を誇っている。
ライブは雑誌でスナップされる感覚
ーー早速ですが、kiLLa crewとはどんなグループなのか、というところからお話を聞かせてもらえますか?
YDIZZY :メンバーは学校が同じだった奴もいれば、バスケットボールを通じて仲良くなった奴らも居て、どこからが始まりだったかっていうのに明確な時期はないですね。まぁアーティストのグループとしては、よくある話だとおもいますけど。
ーーメンバーの皆がそれぞれ初めてラップをし始めたっていうのは、いつ頃だったのでしょうか?
YDIZZY :始めは元kiLLaのメンバーだったkZmだったと思う。それと同じくらいに俺とかNo Flowerも遊び半分でラップしたりするようになって、同じ学校の後輩だったArjunaやBlaiseなんかにも派生していった感じ。
ーーだとするとその頃からクラブに行ったりヒップホップに通じた遊びもしていたのですか?
YDIZZY :もちろんクラブにも行ってたけど、今ほどは行ってはいなかったかな。高校時代とか20歳くらいまではけっこう真剣にバスケしてたからね。笑っちゃうくらい真面目に。今でも俺は代々木公園でやっているしね。
ーーkiLLaとして本格的に活動し始めたのはいつくらいからになるのですか?
YDIZZY :最初の作品をリリースした頃から数えたら3年目になるかな。初期の作品はけっこう消しちゃってるからあんまり覚えていなんだけど。ライブも始めはMICROCOSMOSとか小さい箱でやり始めて、みんな別に本気だった訳でもなく、雑誌でスナップされる感覚に近かったね。
ーーメンバーでリーダー的な存在となる人物とかはいたりするのでしょうか?
YDIZZY :特にいないね。俺らのクルーってメンバー全員がB型なんだよね。だからなのかは分からないけど自然と性格の相性とかも合う。協調性があるってわけではないんだけど、リーダーとかは別にいなくても成り立つんですよ。いざ取材とかになったら来ない奴とかも居たりするけど(笑)。
ーークルーの中で意見に相違があったりした時はどうしているんですか?
YDIZZY :意見の食い違いや綺麗な喧嘩は何度もあるし、お金が絡んだ生々しい喧嘩もある。けどそれがクルーの亀裂になったり、関係の悪化に繋がることはないかな。
一度始めたらもうそこはアーティストとして対等だと思っているから年齢は関係ない

ーー定期的に集まる機会は設けているのですか?
YDIZZY :昔はバイトもしてたりしたから時間合わせて会ったりはしてたけど、今はみんなkiLLaだけの活動しかしていないから都合を合わせてっていうよりはなんとなく集まってその時の気分で遊びに行ったり、曲を作ったりするって感じかな。
ーーメンバーそれぞれ当時、音楽は何を聞いていたりしたのですか?
YDIZZY :USのヒップホップがメインではあったけど日本語もラップも聞くし、今と変わらずになんでも聞いてたね。
Arjuna :俺は50centとかTHE GAMEとかかな。それこそ先輩だったYDIZZYやNo Flowerの影響は大きかったよね。
No Flower :YDIZZYは特に早かった。
ーーその中には影響を受けたアーティストもいましたか?
YDIZZY :…。誰がって訳じゃなく、カッコ良い曲が自分の耳に入ってきたら、「あ、いいじゃん」みたいに思うし、聴くようにもなる。だから影響を受けたアーティストっていうと難しいけど…氷室京介には影響受けたかな。日本語のヒップホップってどうしても違う感覚で聴いちゃうから。大体はふーんって感じなんだけど、たまに口ずさんじゃうのもあるって感じ(笑)。もちろんANARCHYやNITRO MICROPHONE UNDERGROUNDなんかはめちゃくちゃ聴いてたし、好きだけどね。
ーーkiLLa crewへの勝手なイメージとしては、先輩アーティストに媚びることなく活動しているイメージもありますが、その辺りは意識していたりしますか?
No Flower :もちろん縦社会的な慣わしを大切にする人も多いよね。やっぱりここは日本だし(笑)。だからなのか俺らはそうじゃない人たちと一緒にいることが多いのかもしれないね。
YDIZZY :俺は一度始めたらもうそこはアーティストとして対等だと思っているからね。年齢は関係ない。有名だろうが無名だろうがカッコよくないものはカッコよくないって思うし。判断基準はそこだけ。そこの感覚だけは忘れちゃダメだって常に思っているよ。だから先輩たちに対して特別意識したりとかはないんだけど、だからこそフラットな感覚としてリスペクトも当然しているアーティストもいます。あとは俺は特に自分たちのライブがあるときは出番前に他の出演者のステージは見たくないから、あまり知らないっていうのがあるかもね。
渋谷は単純にホームタウンとしての意識が強い
ーー近々対バンを予定しているKANDYTOWNなどの同世代のアーティストは意識していたりしますか?
YDIZZY :KANDYTOWNとかは一緒にライブする機会もあるし、現場であったら話すって感じかな。KANDYTOWNもカッコいいんだけど、俺たちだって負けてないと思うし。それは仕方がないことだよね。彼らは世田谷の北見出身っていうのもあって同じ東京であっても俺らとは生まれ育った環境が微妙に違う。そこでの違いは確実にあると思う。だからといって別にビーフとかするわけじゃないし。
ーーやはり渋谷区出身として渋谷に対しては特別な感情があるんですね。
YDIZZY :まぁレペゼンするしかない状況だからね。とはいっても渋谷代表ですっていうほど熱いスタンスがあるわけでもない。あくまでも自分のやりたいようにっていう姿勢は変えたくない。渋谷で生まれ育ったおかげで色んなものを見てこれたっていうのはあるけどね。実際地方とかに比べると渋谷の学校には不良とかはあまりいなくて、それよりも変な奴が多かったんですよね。あと他の区の学校よりも一学年の人数が少ないから、クラス単位っていうよりは学校単位で学年関係なく遊ぶことが多かった。しかも俺らの頃は宗教の勧誘とかで一気に人が減ったりとかもあったしね(笑)。クラスメイトに外人も多かったから楽しかったよね。とりあえずモンゴル人は喧嘩が強いとかね(笑)。だからレペゼンするっていうよりは単純にホームタウンとしての意識は強いっすね。渋谷でのイベントでは俺らが一番盛り上げないとっていう責任感もあるし、むしろそれが当たり前だと思ってる。
ーー今後は渋谷を拠点にどんな活動の展望をイメージしていますか?
No Flower :10月8日にvisionで俺たちの主催のイベントが決まったんですよね。音源もソロ含め40曲近くリリースする予定だから楽しみ。YDIZZYのツアーでバンコクや台湾に行ったときに仲良くなったアーティストも沢山呼ぶ。今までは俺らが海外に行ってアテンドしてもらうことの方が多かったからね。これからは逆の立場でも活動していきたいかな。
ーーそれは少しずつ活動の範囲も広げていく予定ということでしょうか?
YDIZZY:アジアに行った時に日本とはまた違う盛り上がりがあって、自分たちがアジアでも認められているなっていう反応を肌で感じられたんだよね。言葉ではうまく表せられないけど、不思議な感覚だった。曲も知ってくれていたし、ライブも日本以上に盛り上がったしね。それが俺ら自身のモチベーションにもなった。だからそろそろ日本でも盛り上げていきたいなって。
Arjuna:活動分野を広げるって意味ではビジネスに対してもハングリーにいきたいよね。むしろ音楽を本気でやるならそこが全てだと思ってるからね。
No Flower:ラップする奴がいて、DJがいて、ビート作る奴もいて、アパレルのデザインをする奴もいて、映像を作れる奴もイベントも自分たちでできる。っていうクルーがkiLLa crew。それでなおかつイケてる奴らが集まってたら自然とカッコよくなる訳じゃん? 俺らはそのスタイルを貫くだけだよ。
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