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2 #メインストリームカルチャー化するマリファナ

マリファナ・セックス・暴力ーー3つのタブーのアイコンとして常に批判され続けてきたリアーナは何故21世紀を代表するポップスターになったのか?

ARTS & SCIENCE
コントリビューター辰巳JUNK
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21世紀を代表するポップスター、リアーナは何がすごいのだろうか? HOT100での1位獲得シングル数歴代3位。Pitchforkによると『2010年代で最も影響力のある声』。最も影響力あるファッション・アイコンであり、最もマーケタブルなセレブリティ……記録はいくらでも並べられるが、本稿では、ポップ・カルチャーにおけるリアーナの重要性を探りたい。

軸となるのは、大麻・セックス・暴力、この3要素のアイコンとしての彼女だ。いずれも女性ポップスターとしては過激とされやすい表現類である。実際、非難はたびたび寄せられてきた──そして、この賛否両論を巻き起こす過激表現こそ「ステレオタイプを破壊するスター」リアーナの重要性なのである。

1. 大麻アイコン

「リアーナが大麻ブランド『マリアーナ』をローンチする」──これは2015年に拡散された誤情報だ。本人が否定したにも関わらず多くの人に信じられた背景には、リアーナの大麻嗜好が知れ渡っている背景がある。

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例えば、アデルやケイティ・ペリーも彼女の大麻愛好に関するジョークを発している。NMECRFashionBookは彼女が喫煙する写真をカバーにしている。リアーナは21世紀を代表する女性の大麻アイコンだ。

リアーナはウィード・ノーマライズの真の戦士であり、おそらくは司令官ですらあった

──Elleより

リアーナが公的に大麻を吸い出したのは2010年ごろ、アメリカの大麻合法化支持率が約半数を超えた時勢だった。翌年には『We Found Love』をリリース。ドラッギーで危険な恋を描いたMVが話題を呼んだ。

Video: Rihanna/Youtube

大ヒットした本作はポップ・カルチャーへの影響も大きく、テイラー・スウィフトやカミラ・カベロが類似性を指摘されるビデオを製作した。

Video: Taylor Swift/YouTube
Video: Machine Gun Kelly/YouTube

その一方で批判もあった。MV撮影中にリアーナが大麻を吸っていたことも含め「若者への悪影響」が問題視されたのである。当時、カリフォルニア州でも処方箋なしの大麻携帯は違法だった。タラ・マハディヴァンは「2008年ごろは売れっ子ポップスターが違法ドラッグと深い関わりを持つなんて信じられなかった」と回想している。

しかし、この騒動のあともリアーナの姿勢は変わらなかった。大麻を吸う姿をSNSに投稿しつづけ、2012年には宝石を大麻に見立てた『Diamonds』をリリースしている。

Video: Rihanna/YouTube

悪影響を批判されたリアーナの大麻表現だが、功績も存在する──リアーナは大麻表現の「ボーイズクラブ」傾向を変えた。以前からアメリカのポップ・カルチャーにおいては、マリファナを「男性のアイテム」とするバイアスが度々指摘されてきたという背景がある。そうした状況下でリアーナは数少ない女性の大麻アイコンとなった。つまり、そのことは、悪影響を指摘される女性のポップスターだからこそカルチャー上のジェンダー・バイアスに変化をもたらしたと言える。

このような二面性こそ、リアーナが行ってきた「賛否両論のステレオタイプ破壊表現」の一例である。当時の世相からすれば「注目のために無責任な行いをするスター」と判断されることは自然だ。特にここ数年10代の若手ラッパーを中心にそうした傾向がさらに過熱化していることを考えると、的を射た指摘とも言えるだろう。だが、その一方で、リアーナの場合、「ステレオタイプ表現を変化させた」功績も評価されていく。リアーナのキャリアを紐解くと、ドラッグだけでなく次項で述べる露出表現においても同様の複雑性を見ることができる。

2. SEXアイコン

リアーナがセックス・アイコンということに異論を唱えるポップ・ファンは少ないだろう。彼女はここでも議論を呼んだ。2012年リリース『Pour It Up』はフェミニズム界隈に賛否両論を巻き起こしたMVである。

Video: Rihanna/YouTube

黒人女性ストリッパーが出演するこのビデオは「女性のオブジェクト化/性的消費を促進する」と問題視された。女優のラシダ・ジョーンズは「ポップのポルノ化」の一例だとする批判声明を出した。

一方、ケイト・ヤングムーナ・マイアは、ある特異な構成に着目し称賛している。この作品は、ストリッパーが登場するMVには珍しく男性が不在なのである。また、リアーナは消費者とストリッパーの両方を演じている。

この2点を踏まえると──『Pour It Up』は、男性の視点を排除し、外部からの圧力とは無関係の空間を作り出している。この構造によって「黒人女性のセクシュアリティ」と「セックスワーカーの技術」そのものの祝福と肯定を成功させた。

伝統的なフェミニストは、リアーナのようなセックス・アピールに同意しないかもしれません。「黒人女性を抑圧するステレオタイプ」だと言うかもしれない。しかしながら、バッド・ギャルは彼女の真実を生きています。そこに彼女の力があるのです……リアーナのセクシュアリティはまるでスーパーパワーだ

── BLAVITY

2014年にもリアーナは露出表現で賛否を呼んだ。ファッションアワードCFDAの「ほぼ裸」ドレスだ。

4 years ago today?! Good one... ?? @badgalriri @adamselman #melottenberg ⭐️

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乳首や下着まで見えるそのドレスは「性を売り物にしている」とTLCメンバーに批判された。しかしながら、翌年にはこの「ほぼ裸」ドレスが「女性のセクシュアリティ受容」をアピールするスタイルとなったのである。2015年METGalaでは、ビヨンセとキム・カーダシアンがシースルー・ガウンを披露している。

そもそも、TLCメンバーの糾弾が話題になった当時でも評価の声は挙がっていた。『ポップ界で最も力強いフェミニズム声明』とまで言われていたのである。

理由としては、男性と異なり規制されがちな女性の乳首をマスメディアに掲載させた功績。そして、アメリカ社会で特に抑圧を受けやすいとされる黒人女性の身体の解放だ。

リアーナは、黒人女性とその身体に浴びせられる恥を変換した。身体を用いて自由を示したのである

──EVONY

3. 暴力アイコン

リアーナが賛否両論を起こしたMVとしては最も過激な領域。それが2015年リリースの『Bitch Better Have My Money』である。

Video: Rihanna/YouTube

大麻、露出、暴力のオンパレード状態のこのタランティーノ風ビデオは「バッド・ギャル」リアーナの集大成と言える。復讐相手の男性のみならずその妻まで拷問した内容は、白人女性差別のアンチ・フェミニズムだと糾弾された。

しかし、このトピックにしても肯定意見は多々あがった。例えば、拷問する側の女性たちの人種は白人込みで様々なため、単純に白人女性差別とは言えない。リアーナ本人が語ったように、最終的に女性が悪役の男性を倒す物語である。映画監督エイヴァ・デュヴァーネイは、このビデオを「暴力の時代を反映した力強い物語」と称賛した。

2016年には、大麻の日を記念して『Needed Me』MVがリリースされた。またしても大麻・露出・暴力のフルコンボだ。

Video: Rihanna/YouTube

『Pour It Up』『BBHMM』と同じく「若者や女性に悪影響」とも言えるし「己のセクシュアリティや自己表現を掌握する黒人女性」とも言える。こちらにしても議論の一部を紹介することはできるが、もはやこの頃には彼女の姿勢自体が評価される向きが目立つ。「周囲のルールに囚われず自分のやりたいことを行うアティチュード」こそリアーナの素晴らしさ、といった風に。批判を受けてもなお大麻・セックス・暴力といった表現を続けてきたリアーナは、それらのアイコンとなると同時に独自の信頼を得たのである。

New York Timesのヴァネッサ・フリードマンは、一定の道に縛られないキャリアを選択したリアーナは「独自の信憑性を内包するリスク・テイカーとしての地位を確立した」と評した。「周囲に咎められようとやりたいことをやるスター」、このような像が賛美される一因には、2010年代のポップスターの状況が関係する。

リアーナがロールモデルか否かなんて問いには飽き飽きだ。彼女はそれを超えている

──DailyBeast

4.アンチ・ロールモデルの信頼性

@CRfashionbook @terryrichardson @carineroitfeld

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リアーナが行なってきた「賛否両論のステレオタイプ破壊表現」。「賛」にあたる評価を鑑みれば表現者としての功績と言うに足るだろう。しかしながら、これらの積み重ねの先にリアーナ独自のブランドが存在する。7thアルバム・タイトル『Unapologic』そのまま、「アンチ・ロールモデル」としての彼女だ。

ロールモデルって言葉を使うのは嫌いなの。人によって意味が違うでしょ。自分がロールモデルだなんて絶対に言えない。私は完璧じゃない。そういう風に売ろうとも思わない

──リアーナ, USA Today

リアーナは2Pac以来のリアリストだ

──Charlamagne Tha God, BLAD TV

大麻、露出、暴力……過激な表現で議論を起こし続けたリアーナは「アンチ・ロールモデル」像を形成していった。つまり、この「アンチ・ロールモデル」という言葉こそ彼女の魅力、ひいてはポップ・カルチャーにおける重要性を示すものだ。数々の評論も「リアーナと他のポップスターの違い」をそこに於いている。そして、そのキャリアとアティチュードは独自の信頼性を築いている。

では、リアーナと他のポップスターとの違いを見ていく上で、まずは2010年代のポップ・シーンの傾向を確認しておくことにしよう。W Magazineは、10年代のポップスターはセルフ・イメージ構築に尽力し、政治的言動をコントロールすることで自己像を護っていると呈している。NYLONのアニー・T・ドナヒューは、多くのポップスターがアルバムごとに「新しい自分」像を「計画的に生産」する傾向を指摘した。

つまり、ここで敢えてテイラー・スウィストやドレイクを例に出すまでもなく、2010年代とは、ポップスターの大半がアイコンとしての記号性を計画的にプロデュースすることに軸を置いてきたディケイドだという背景がある。と同時に、大衆もまた、セレブリティたちが意識的に作り上げようとするセルフ・イメージが何かしらの計画性に基づいていることに気付き、よりその戦略性の是非について意識的になった──それが今現在の状況なのだ。

だが、そのような中、リアーナは「セルフ・イメージの計画的生産」を感じさせない稀有な存在として信頼されているのだ。彼女が「一般的/政治的に評価される表現」を踏襲してこなかったことは、本稿で挙げた作品群が説明となるだあろう。

リアーナは若い女性にとって最上のロールモデルだ
リアーナはフェミニズムで最も大切なことの一つを体現している:自分自身であれ、そのことに罪悪感を覚える必要は無い

──Telegraph

「アンチ・ロールモデル」を掲げるリアーナこそ最上のロールモデル。少々皮肉な構造だが、2010年代のポップ・カルチャーや社会について考える上で、これはかなり重要な視点と言える。レディー・ガガに端を発する形で2010年代に多くの女性ポップスターを輩出してきた米英音楽界であるが、同時にいくつかの問題も指摘されている。

その一つは、男性と異なり女性アーティストは最初から「フルパッケージ」を求められる性別不均衡だ。女性ポップシンガーの場合、キャリア初期からファッショナブルで社会問題も語れる「完璧なロールモデル性」を企業から要求される。そのような状況で、リアルネスな「アンチ・ロールモデル」として信頼されるリアーナの存在は大きい。先輩のメアリー・J・ブライジ、後輩のLapsleyはこのように語っている。

リアーナを本当に誇りに思う。彼女は同世代に語りかけてる。同世代の目の前で彼女自身でいつづけてるの。意図的にやってることじゃないと思う
彼女はリアルに生きて、世代をリードしてる

──メアリー・J・ブライジ, VIBE Magazine2013年3月号

たぶん私が好きじゃないのは、ポップの世界なんだろうな。うまく言えないけど、ポップは誠実だと思えない」「私が好きな人って言えば、たぶんリアーナかな。彼女って何もクソ気にしてない気がするから(笑)。好きなことをやってるし、リアーナならなんでも出来る。彼女のファッションが大好きだし。私から見るとなんだってオッケーな人ね(笑)。ほんと、クールだと思う

──Lapsley, The Sign Magazine

リアーナが啓発する自己受容

堂々と大麻を吸い、肌を露出させ、過激な暴力表現をするリアーナ。たとえドラッグや露出に共感はできなくても、人々はリアーナの「自分自身である姿」に惹かれるのである。

ただし、彼女はただ既存の礼節に反抗しているわけではない。自身を度々「不完全な存在」と語るリアーナは、同時に「自己受容」を推奨している。

その啓発の為に「ロールモデルとなること」を半ば認めたのが2016年BlackGirlsRock!受賞スピーチだ。ソーシャルメディア普及によって自尊心の低い若者が増える昨今、リアーナが身をもって体現する「自己受容」は重要な意味を持つはずだ。

私はこう考えています。私に平常心、謙虚さ、成功を与えてくれるあるものがあると。それは自分自身であることです。私はただその方法を知っているのです。この世界はとても大きく、そして時に混乱します。社会はあなたを忘れがちにさせ、堕落に導くでしょう。
前進をつづける方法は一つ、自分自身であることです。あなたが自分を愛することができたその瞬間、あなたは他の何者かになりたいとは思わないでしょう。皆さんご存知のように……ロールモデルというタイトルは私に似合いません。しかし、私にとって今夜は非常に重要なのです。多くの若い女性に自分自身であるようインスパイアできるから。この戦いはまだ途中です。
いいですか? ただ自分自身でありましょう。これは最も簡単なことです

──リアーナ, Black Girls Rock! 2016

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