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3 #メインストリームカルチャー化するマリファナ

大麻は麻薬犯罪の防波堤になるか? ドキュメンタリー『420の伝説』から、アメリカ社会の根底にあるバイアスがみえてくる

NEW INDUSTRY
コントリビューター梅澤亮介
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Netflixで配信されている大麻合法化に関するドキュメンタリー映画、『420の伝説』の序盤には、こんな描写がある。

米国カリフォルニア州フンボルト近郊。大麻でハイになったと思われる男が、運び屋のバタフライ・ジョーンズと呼ばれるドレッドヘアの男にビニール袋につめた大麻を渡す。それを、バタフライ・ジョーンズはプラスチックケースに押し込む。ケースの中は大麻袋でいっぱいだ。その後、彼はひと休みと言わんばかりにボングをくわえ、ボコボコと音を立てながら白い煙を吸い込む。


カリフォルニアでは1996年に住民投票で医療大麻が合法化され、2016年11月には嗜好目的の大麻も合法化された。2018年1月から、免許を持っていれば販売も可能になった。21歳以上の成人は1オンス(約28.4g)の大麻を所持することができる。嗜好用大麻は税金の対象となり、年間何十億ドルもの利益が見込めるとされている。カリフォルニア州は全米でも最大の人口をほこり、今後、合法化の風潮は、アメリカ全体に広がると考えられる。実際、2017年10月のギャラップ社の調査では、大麻の合法化に賛成の成人は64%と判明した。

麻薬犯罪を抑止する、セーフティネットとしての大麻解禁

カリフォルニアをはじめとする各州の合法化の理由は医療や税収など様々あるだろうが、そのひとつとして麻薬犯罪対策が挙げられる。この背景にはアメリカ国内でのメキシコ麻薬カルテルの勢力拡大と、オピオイド乱用問題がある。

まず、オピオイドについての話をしよう。オピオイドは、比較的安価に入手でき、鎮痛作用があるため重宝されている。しかし、副作用や中毒性が強く、最悪の場合、過剰摂取によって死にいたる。

研究や司法の場では、オピオイド乱用の問題と近年の殺人事件数への関連性を指摘する声もある。Voxの「なぜオピオイドのまん延はアメリカの殺人件数上昇させるのか」によると、これまでにもオピオイドの流行はあったが、昨今はティーンが両親から入手したり、医師の判断によって処方されずアンダーグラウンドで流通したりしているそうだ。

いっぽう、このような「オピオイドの乱用」が社会問題となる以前から、メキシコで形成されている麻薬カルテルの潜伏に、アメリカ社会は警戒を強めていた。

メキシコ麻薬カルテルとは、主に自国内、北米、ラテン・アメリカなどの闇市場に向けてドラッグをさばく強大な犯罪組織だ。しばしば、警察や政治家などを買収して犯罪行為に干渉させないようにしたり、干渉する者や組織の裏切り者には残虐極まりない制裁を加えることが伝えられている。一説では準軍備レベルの武装があるとされ、主に買収できない 警察、政治家、メキシコ軍 と紛争を繰り広げている。この争いは、メキシコ麻薬戦争と呼ばれている。

犯罪組織を牽制する、公的機関からの解禁の意義

アメリカは、このメキシコの麻薬カルテルの脅威にさらされている。彼らはアメリカ国内に麻薬を持ちこむ最大のグループだからだ。アメリカで消費される違法大麻の大部分は、メキシコの7つの主要なカルテルが管理する闇市場で取引されている。また、カルテルに関連した殺人事件もしばしば起きている。

以前は、メキシコにやってきた運び屋などの仲介人を経由し、彼らがアメリカ領内に持ち帰り、国内の犯罪組織に卸を引き受けてもらっていた、とされていた。しかし、メキシコ麻薬戦争の激化にともない、さらに不当な利益をあげて抗争を有利にするためなのか、現在においてはカルテルのメンバーが直接、卸を担当しているようだ。そこから、流通ネットワークでの直接的な支配が広がった。アメリカ領内では、カルテルのメンバーが血みどろの抗争をすることはなく、通常はありふれた普通の住人を装い、潜んでいるそうだ。

2009年、元々大規模な麻薬市場であるシカゴでは、連邦裁判所がホアキン・グスマン(通称エル・チャポ)を、「シカゴ史上最大の麻薬密輸犯」として起訴した。彼はメキシコの特に強大なカルテルの1つシナロア・カルテルのボスである。何度も脱獄に成功したり、名優ショーン・ペンと握手を交わした写真を撮っていたりすることでも有名だ。彼の組織は毎月2トンの麻薬を密輸し、20年間で58憶ドル(約6455億円)にものぼる利益をあげていたこともあったとされる。

ちなみに、Netflixではエル・チャポの伝記ドラマ『エル・チャポ』が配信されている。麻薬犯罪に関しては、たとえば映画『ボーダーライン』、小説「犬の力」、「ザ・カルテル」など、数々のポップカルチャー作品でも描かれ、伝えられている。Netflixオリジナルドラマ『ナルコス』が今年シーズン4をむかえることなども踏まえると、麻薬犯罪に対する人々の関心度の高さがうかがえる。

大麻解禁がもたらした犯罪勢力への圧力

カリフォルニア州での大麻合法化とそれにともなう規制により、メキシコの麻薬カルテルは大きな打撃を受けた。メキシコと国境を接するカリフォルニアで、殺人と暴力犯罪が減少したことが判明するのである。

FBIの1994年から2012年までの調査報告書によると、国境を接する州の中で、大麻法の改革により効果を最もあげたのはカリフォルニア州で、暴力犯罪が15%減。最も効果が少なかったのはアリゾナ州で、7%減だった。さらに、麻薬取引に関する殺人事件は41%減少という驚異的な数値を示した。この時期と大麻の合法化のタイミングが一致しているのは、偶然のことではないだろう。また、カルテルは大麻の他にもコカイン、ヘロイン、メタンフェタミンなどの薬物をアメリカに密輸しているが、違法大麻の市場は最も大きい。つまり、カルテルの市場も利益も大幅に減少しているのだ。

「アメリカにおける暴力犯罪を削減するための4つの方法」として、Bloombergには次のような指摘もある。

薬物使用者を罪に問うのは、コカイン、ヘロイン、メタンフェタミンの供給者だけとした。その代わりに、ポルトガルでの措置に習って、利用者には強制的に医療措置を受けさせ、薬物依存の状態から脱するよう助ける。これは、薬物利用者が被害者であり、犯罪ではなく病気とみなし、治療と位置付けることで中毒者を減らす意図がある。この対策によって、違法薬物の需要も減らし、麻薬犯罪組織の収入も削減できる。麻薬利用に限った非犯罪化はアメリカにおける多くの囚人を減らせるだろう。『420の伝説』では、大麻を代用することがほかのハードドラッグをやめたり、抑制に繋がると話す人は少なくなかった。ここでも、麻薬犯罪の対策として大麻が用いられている。

オピオイドの乱用抑止にも、メキシコの麻薬カルテルの魔の手を防ぐにも、大麻を解禁しつつ規制し、管理することが功を奏していることが考えられる。だが、大麻を合法化しただけでは犯罪組織の勢力が弱まるとは限らないという指摘もある。実際、合衆国で最初に嗜好用大麻を解禁したコロラド州から、その後違法の州へと大麻が密輸されるケースもあるのだ。

「闇取引のディーラーの中には、カンナビスを非合法にしたい人もいる。値段が上がり、儲けが多くなるからだ」

これは、『420の伝説』で顔にモザイクをかけた闇取引の関係者が発した言葉だ。

依然として、闇市場がなくなることはないだろう。その背景には、認可を受けた大麻販売所より、闇市場の方が低価格であることや、古くからの嗜好家とドラッグディーラーに長い付き合いがあり、彼らに忠実である点が挙げられる。麻薬取締局の指摘によると、犯罪組織はコロラド州での大麻ビジネスに参入。それまで築き上げてきた麻薬のシンジケートを通じ、大麻が違法の州でもさばかれている。実際、『420の伝説』では、主に東海岸からの注文が多い、と闇取引のディーラーは話す。

大麻をめぐる犯罪対策の根底にある、アメリカ社会の根深い課題

だが、大麻合法化の是否を問う議論において、麻薬犯罪だけが問題として取りあげられるべきなのだろうか?

アメリカでは、大麻/麻薬をはじめとする犯罪と警察による検挙には、少なからず人種差別の問題が関連していることが否定できない。『420の伝説』でも、(大麻)禁止に反対する法執行機関のニック・モロー氏が「肌の色が少し黒めだと同じ犯罪でも刑務所行きの割合が50〜75%増える」といった旨を指摘している。

Voxの「麻薬戦争はレイシストであるか」というトピックも参考にする。黒人の被告が麻薬犯罪で有罪判決を受けた場合、刑期は長くなるというのだ。政府機関の2012年の報告書によると、黒人男性への薬物関連の刑期は、2007年から2009年の間では、白人男性の薬物関連の刑期より13.1%も長い。

また、黒人社会でしばしば出回る薬物の使用より、白人の間でよく出回る薬物の使用の方が罪は軽いという現象も起きている。不平等な逮捕率と拘束率は、人種マイノリティのコミュニティにとって明らかに悪影響を及ぼす可能性が高い。

特に、大麻とメキシコ系アメリカ人への人種差別問題には根深い関係があるだろう。

1900年代初頭、移民として入国したメキシコ人には、もともと大麻を吸う習慣があった。しかし、政府や警察が人種差別的な観点から目の敵にし、1920年代初頭までには南部西部の州を中心に、大麻所持が禁止された。以降、「悪魔の薬」とされ、メキシコ移民が多くはない州でも禁止に。1930年には連邦麻薬局が設立され、初代長官にはハリー・S・アスリンガーが就いた。彼は、メディアを大々的に利用して「大麻は危険だ」とアメリカ国民に警鐘を鳴らした。この頃には、メキシコ系だけでなく、南部の黒人の間でも大麻は流行していた。アスリンガーは大麻の喫煙は黒人やメキシコ系移民を暴力的にさせるとし、さらに当時白人が潜在的に抱いていた黒人やメキシコ系移民への偏見に訴えかけるような形で、彼らの暴力は主に白人女性に向けられていると警告した。

ドナルド・トランプ大統領は演説で、何度も「メキシコ人移民は犯罪とドラッグを持ちこんでいる」と語る。それは、依然として、違法大麻といったらメキシコ系アメリカ人という差別的イメージがつきまとっているからこそ発せられる訴えかけであろう。彼らがより疑わしいと言われたり、実際に罪が重くなってしまうのも、麻薬カルテルの存在が無意識に「メキシコ系、有色人種」のコンテクストに紐づいているからかもしれない。

犯罪対策のために大麻解禁の議論に目を向けることは、重要な視点だ。くわえて、『420の伝説』で語る多種多様な人々の言葉を聞いていると、アメリカ社会に渦巻く「人種差別」問題がバイアスとなって深く関連していることに気づく。社会全体に帯びているバイアスを個人が認識することは、物事の賛否を問う前提としてクリアされるべき課題だ。

Video: Movieclips Indie/YouTube

Image: Andrew Burton/Getty Images News/ゲッティ イメージズ
Source: Vox(1, 2), The Guardian, Bloomberg, CBC News

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