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5 #ユースカルチャーの育て方

英国サッカー・メディア=COPA90で時代の変化を知る方法

ARTS & SCIENCE
コントリビューター萩原麻理
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サッカーの母国、イングランドのサッカー(※)の魅力とは何だろうか。勝利の興奮と熱狂を上回るくらい、落胆や怒りを楽しむこと? さまざまなカルチャーとのクロスオーバー?

だが、この記事ではそうしたことを踏まえたうえで、ピッチ内で起こっていることより、むしろピッチ外で起きていること――つまり「ファンダム=熱心なファンにより形成された文化」に焦点を絞ったことで大成功を収めたデジタル・メディア、COPA90を例にとりながら、今現在、イングランドのサッカーの「ファンダム」全体が持つ、新たな興奮と進化について紹介したい。

おそらくそれは、サッカーというカルチャーがYouTubeやポッドキャストといったデジタル・メディアとの出会いのなかで、どのように変化し、さらなる興奮と楽しみを多くの人々が享受するようになったか、という現在進行形の物語でもあるだろう。

本稿の筆者は映画/音楽ライターである同時に、英国のサッカーやYAOIファンガールズなどさまざまなカルチャーにおける「ファンダム」を観察/考察している萩原麻理。彼女がここで展開する話は、「イングランドのサッカー」に限らず、2010年代のファンダムやメディアの在り方を考えるうえでも多くの示唆を与えてくれるに違いない

(※原文では、英国における「フットボール」という呼称が使われていましたが、編集部の判断で、日本での共通認識に従い、すべて「サッカー」に統一しています)

なぜ「イギリス」のサッカー・カルチャーが魅力的なのか?

2014年ワールドカップ開幕時、伝統的にリベラルなことで知られるイギリスの新聞『ガーディアン』の記事は確か、こんな一文で始まっていました。

「また4年に一度のこの時期、世界から『サッカーの母国』と呼ばれては早々に大会から敗退する、屈辱的な季節がやってきた」

『ガーディアン』は記者の視点と文章の面白さが楽しめる新聞とはいえ、これから大会に臨むイングランド代表に対して、これはかなり辛辣。もし日本語メディアがこんな風に書いたとしたら、大炎上必至なのではないでしょうか。やはり、イギリスのサッカー・カルチャー最大の魅力のひとつは、クラブや試合そのものの魅力以外にも、こうしたジャーナリズムやファンダムにおける皮肉、いや、自虐的なユーモアなのかもしれません。

思うに、サッカー・ファンというのは勝利の興奮と熱狂を上回るくらい、落胆や怒りを相手にしなくてはいけない。世界的に一番人気である理由は、まさにその感情的ギャップの大きさなのかもしれない。試合の得点数が少なく、チームの実力にかかわらず番狂わせが起きやすいスポーツですから。

で、ユーモアはその処方箋になる。実際、エモーションをぐっと抑えて自虐的になってみせる、この語り口というのは、英国の批評やファンダムの特性に共通するところがあります。それは英国の映画、音楽、サッカーといったあらゆるカルチャーの特徴であり、魅力です。とてもイギリス的だと思います。

グローバルでありながら、ローカルをレペゼンする英国サッカー・カルチャーはまるでヒップホップ

ここまで敢えて「イギリスのサッカー」という言い方をしてきましたが、とはいえサッカーはあらゆる場所に根付き、あらゆるカルチャーを吸収する存在です。ただ、生誕地イングランドのサッカーについては、知れば知るほど、気質や階級においても、天候面でも「本場は北部の工業都市だよなー」と実感せずにはいられないのも確か。と同時に、イングランド南部のメトロポリタン、ロンドンという街の特性が、現代イングランドのサッカーの特徴を何かしら規定している部分は大きい、とも感じずにはいられない。なんといってもものすごく多国籍で、多文化なのです。

サッカー・ファンにとっては、そうした多国籍性/多文化性は、もはや自明の理だと思います。一部リーグであるプレミアリーグにしても、そこでプレーする20のクラブでも、資本やオーナー、フロント、監督やプレイヤー、そして何より、ファンダムに世界各国の人々が流入している。いくつもの言語が飛び交っている。と同時に、プレミアリーグは放映権料が高騰する世界でもっともバブルなリーグであり、イギリスの大きな輸出品でもあります。その人気の理由には、地元ファンが作ってきたスタジアムの雰囲気やクラブの歴史、アイデンティティといった長年の草の根的なものの集大成がある。もっともグローバルでありながら、レペゼンするのはもっともローカル、という意味で、現在、世界を席巻しているヒップホップ・カルチャーととてもよく似ている、と言えるかもしれません。

まるで池袋と目白、下北沢と芝浦にクラブがあるみたい? 街の特徴と歴史を代表するロンドンのサッカー

今シーズン、ロンドンには一部のプレミアリーグでプレーするクラブが6つあります。二部を合わせると9つ。そうしたクラブがそれぞれ大きなスタジアムを構え、さらにウェンブリー・スタジアムもある。東京より狭い地域にそれだけの数のスタジアムやビッグ・クラブがあるのは世界に類を見ない。それだけでもロンドンのサッカー・カルチャーの特異性がわかります。

例えば、北ロンドンはアーセナルとトッテナム、西はチェルシー、南はクリスタル・パレスといった具合。東京で例えるなら北では池袋と目白が争い、西に下北沢FCが構え、湾岸には芝浦、という感じでしょうか。そんなそれぞれの土地柄や歴史がクラブカラーやファンダムの性格を形成しています。

2016年、ウェストハムというクラブが112年過ごした町中のスタジアムから、オリンピック時に作られたスタジアムに移転したのですが、それはやはり草の根が引っこ抜かれるような出来事でもあった。周りにショッピング・モールしかないような場所に無理やり移されたことにサポーターは危機感を感じ、試合中に暴動も起きました。

ただそうやってスタジアムに通うファンが軽視されがちなのはやはり、クラブの収入源がいまやそこではなく、グローバルな放映権やスポンサードにあるのが理由です。

ファンダムの中心は、スタジアムだけでなく、さまざまなネット上のコミュニティに拡大し続けている

スタジアムに通う地元ファンが軽視されがちな一方で、近年のクラブは自前のウェブサイトやYoutubeチャンネル、SNSでファンとの繋がりを強めています。逆に従来の新聞などのメディアの役割も変わりました。現在、Youtubeチャンネルやポッドキャストといったデジタル・メディアには、そうした旧メディアの新展開から、新世代として違う発想を持つもの、個人発信のものまで、規模も方向も種類も違うものがそろっています。その代表的なメディアのひとつが、本稿のモチーフでもあるCOPA90です。

そこから自由に自分に合うものを選べばいい。私はやはり世代のせいか、デジタル・メディアに「雑誌らしさ」を求めてしまうところがあります。私が考える「雑誌らしさ」とは、複数の人が集まって楽しそうにしていること。内輪ノリであってもそこに「俺たちイケてる」という自負があること。と同時に外側やマスにも開かれていること――でしょうか。

試合や選手だけでなく「ファンダムそのもの」を語ろうとしたCOPA90の革新性

前置きが長くなりましたが、ここで紹介するインディペンデントのデジタル・メディア、COPA90が成功した理由も、そのオープンなイケイケ感なんじゃないかと思っています。

COPA90がYoutubeチャンネルとして始まったのは2013年、ベースはロンドン。当然試合の映像は使えず、最初は取材も難しかった。ただ彼らはそうした「ピッチ内」では至極不自由なのを逆手に取って、「ピッチ外」で起きていること、つまりファンダムに焦点を絞りました。そのファンダムにフォーカスしたことが革新的であり、彼らの今の成功を導いたとも言えます。

ファンは何を語り、何を見たがり、何を求めているのか。ユーチューバー的だった番組はどんどん幅を広げ、若いプレゼンターの口調にサッカー・ファンが反応。いまやサッカーの情報チャンネルとしては最大の登録者数を誇ります。

メインのプレゼンターはポエトとヴージュ。ジャマイカ系でアーセナル・サポーターのポエトは、他のサブカル・ヒーローたちとともにチャーリーXCXのミュージック・ビデオ『ボーイズ』にも登場するほど人気のインフルエンサーになりました。

Charli XCX - Boys

ヴージュはセルビアからの移民で、リバプールのサポーター。今シーズン、リバプールがセルビアのレッドスター・ベルグラードと対戦した際には、彼の話からふたつのアイデンティティを持つ人の考えと振る舞いを自然に知ることができました(当日はレッドスターを応援したそう)。もうそういうのが特別じゃなく、日常なのです。

基本的にこのふたりが話すだけの週一のトークショー『コメンツ・ビロウ』は、ストリートでどんなふうにサッカーが語られているかを洗練した形で提示しています。ロンドンの最新スラングを知るのにもうってつけ。

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従来のメディアとは一線を画する、ファンに近い目線で大きな支持を得ることになったCOPA90には、アメリカ資本も入りました。すっかりメジャーになって、もうスター選手の取材もできるし、スポンサー・イベントにも招待されるように。

ただ、若いファンはお抱えメディアの嘘臭さにも敏感です。現在のCOPA90は規模を拡大しながらも、当初のクールさ、リアルさを保つという綱渡りに挑戦しています。

COPA90を観れば、サッカーだけでなく、音楽やイギリスのカルチャー全体のうねりが見えてくる

ちょっと話は逸れますが、UKでも日本でも、まだサッカー・カルチャーはロックと親和性が高い。試合前後のBGMでもブリットポップが流れていたり、有名人サッカー・ファンと言えばギャラガー兄弟だったり。

でももう若い世代のBGMは20年以上前のロックじゃない。彼らにとってはストームジーがマンチェスター・ユナイテッドの練習場を訪れたり、アデルがブリット・アワードで「私が受賞してスパーズが強いなんて、今年は最高!」とスピーチしたりするほうがデカイし、身近にある。

その空気感は当然COPA90でも基調で、ふたりのもうひとつの番組、『FIFA&チル』のゲストにもよく地元のラッパーが出てきます。これはコージョー・ファンズの回。つまり、グライムにしろ、アフロ・バッシュメントにしろ、日本のメディアがほぼ伝えていない、もっとも旬な音楽シーンのリアリティを感じることができるのです。

FIFA and Chill with Kojo Funds

音楽関連では、2017年最大のヒットとなったルイス・フォンシとダディ・ヤンキーによる“デスパシート”とサッカーの関係を語るドキュメンタリーもありました。

Despacito | From The Charts to The Football Terraces

アルゼンチンのクラブ、サン・ロレンツォがいち早く“デスパシート”の替え歌でチャントを作り、それがたちまち南米に広がり、スペインに飛び火し、欧州全体で歌われるようになった背景が語られます。スタジアムのチャントとして、ロッカールームのBGMとして、もっとも流れた歌が“デスパシート”となった。サッカー好きなジャスティン・ビーバーがあの曲のリミックスに参加したのも、それと関係しているかもしれません。

カルチャーが政治利用されることは許さない!――徹底的にファンの立場に立つCOPA90のアティチュード

COPA90はファン・カルチャーについてのドキュメンタリーもエキサイティングです。定期的に作られているのは、オーストラリア出身のエリーがプレゼンターを務める『ダービー・デイズ』シリーズ。

ダービー・マッチとは、ライバル・クラブの直接対決。試合中だけでなく、その前後にも発炎筒がたかれ、ときには暴力沙汰になるピリピリした現場が映され、そのライバル心が歴史的にどう発展してきたかも解説されます。カバーされるのは欧州各国だけでなく、世界中のダービー。2018年末開催されたアルゼンチン、ブエノスアイレスでのサッカー史上最大のダービー、スーペルクラシコももちろんフィーチャーされました。

DERBY DAYS

この試合は第二戦が結局サポーターが敵チームのバスを襲撃したせいで延期に。しかもアルゼンチンで開かれるのは危険すぎるという理由で、スペインのマドリッドでの開催となった。スペインからの独立を祝う意味を持つ南米トーナメントの決勝がそんなことになってしまったのです。

私が『ダービー・デイズ』を見直したのは、「そんな胡散臭い試合には興味ない」とばかりに、マドリッドでの試合は取材せず、ドキュメンタリーをブエノスアイレスで終わらせたところ。あくまでファン目線なのです。

ローカルなファンダムの特性と、そこに見出すグローバルな共通言語

COPA90の取材チームは、エリーが応援するオーストラリア代表と日本代表の試合に際して、日本に来たこともあります。そのときは「日本では代表戦がなぜ重要なのか」がテーマ。企業文化など日本のスポーツの背景と、ファン・カルチャーがいかに日本代表とともに成長したかが描かれていて、感心しました。

熱狂的なサポーター文化:日本を征したサッカーの道

結局、COPA90が一貫してレペゼンしているのは、人種も言語もカルチャーもごちゃ混ぜになった「るつぼ」のローカル感と、世界のファンダムに「共通言語」を見出すグローバル感なのだと思います。その焦点が絞れているメディアは強い。最近はイギリスの女子選手なんかもちょくちょく顔を出しているので、女性プレゼンターが活躍するようになれば、さらにマルチ感が出るんじゃないでしょうか。

いま支持されている、もうひとつのデジタル・メディア

もうひとつ、メディアとして急成長しているのがポッドキャスト。サッカーとポッドキャストが相性がいい理由は、やはり試合の前後に盛り上がったり、盛り下がったりしている感情を「人と共有したい」という欲求でしょうか。スタジアムに行ったりパブで試合を見たりできる地元のサポーターと違って、自宅で試合を見ているファンにとっては、リアルタイムの繋がりはSNSに頼るしかない。でももうちょっとじっくり話したい、というときに、ポッドキャストをダウンロードするのはとても便利で、しっくりくるのです。

いまポッドキャストは、既存のテレビ局や新聞がやっているものから、各クラブのサポーターが個人発信しているものまで、規模も形もさまざま。ただ、どれも傾向として情報や分析より、「雑談」としての楽しさを重視している。それには話し手のキャラも大事だし、何より「場」としての親密感や緊張感が決め手になります。会話としての自然発生的なグルーヴは、何にも代えがたい。

いま注目のポッドキャストと、その人気の秘密とは?

冒頭で紹介した新聞『ガーディアン』もサッカーのポッドキャストを配信しています。『フットボール・ウィークリー』は、司会とスポーツ記者、それにゲストを加えた面々で週2回のリリース。そのウィットある会話、雰囲気のよさで、イギリスの人気投票では毎年ポッドキャスト・オブ・ジ・イヤーを獲得するほど。

もちろん、ジャーナリストとしての薀蓄や解説もありつつ、でもベースには仲間内の会話っぽさがある。自然に出てくる雑談、むしろサッカーとは関係ないところが楽しいし、ディテールの理解にも繋がるのです。

例えば、『ガーディアン』はイギリスでもっともリベラルな新聞ですが、あるとき若い記者が「自分はベジタリアンだからケバブ食べたことない」と発言。サッカー畑の司会者は、「それこそ最高にガーディアンだな!」と大笑い。マッチョな文化からすると肉食べないってそういうニュアンスなんだな、とか、思想とライフスタイルと新聞の関係性とか、いろんなことが一瞬で了解できました。

新たな注目のポッドキャスト『ザ・トータリー・フットボールショウ』

もうひとつ、注目のポッドキャストを紹介します。『ザ・トータリー・フットボールショウ』はある意味、『フットボール・ウィークリー』の人気から生まれた鬼っ子。2017年にプロデューサーとレギュラーの司会者、出演者の三人が、突然『フットボール・ウィークリー』を裏切る形で独立したのです。

それは、三人がポッドキャストというメディアの将来性に賭けた結果でもある。専門メディアとして、二部以下のリーグを扱うポッドキャスト、イタリアやスコットランドのリーグについてのポッドキャストなど、サッカーだけでもジャンルを分けて番組を配信しています。

メイン番組『ザ・トータリー・フットボールショウ』は、ちょっとしたネタ話、音楽や映画の話題が多いのが特徴。ただ、テレビレポーターや統計の専門家など回ごとに起用されるキャストの面々がバラバラなので、まだ雑談としてはこなれていない感じです。ポッドキャストのマネタイズとして彼らが何をやっていくのか、という点では非常に注目しています。

サッカーの多様化はまだ始まったばかり!

私がときどき想像して、まだ見つけられていないのは、女性中心のポッドキャスト。イギリスのサッカー・メディアにはどんなところにも女性のコメンテイターや記者がいるようになってきました。ただ、やはり男性陣のなかでひとりかふたり、ということが多い。ポッドキャストではそうではなく、場としてもっと女同士でわちゃわちゃ話す感じを提示できないのかな、と思ったりもする。

日本だとまだ、サッカーの女性ファンと言うと「イケメン」みたいな切り口になりがちですが、本当は推しの選手についての熱い語りも、試合内容も同じレベルで話しているはず。COPA90の日本特集でも、日本のサポーターには他の国より女子が断然多い、というレポートもありました。時折若い男子サポたちが楽しそうにしゃべっているポッドキャストなんかを聞くと、もっと女子も入ればいいのに、と思うことがある。

そう、ファンダムにはそれぞれ固有のカルチャーがあるけれど、そのカルチャーを変えるのもファン。サッカーにはいまも人種差別や性差別といった問題が根強く居座っています。でも、旧態依然としたところやボーイズ・クラブ的なところを変えたいと思えば、ファンからの発信手段が生まれたいま、それも可能なはず。実は、サッカーの多様化はまだ始まったばかりなのかもしれません。

Source: YouTube(1,2,3,4,5,6

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