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色彩を失っていく社会と対峙するクリエイティブ : SHAPE SHiFTERS TALK 00 : 和田直希 vs 渡辺淳之介

ARTS & SCIENCE
Written ByFUZE編集部
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SHAPE SHiFTERS

なんらかの要因によって進化をとげた怪物・妖怪たち。

状況に応じて、さまざまな姿へ変貌することができる。

古今東西古くから数多く存在するが、その実態はまだ把握されていない。


COVID-19という得体の知れない敵によって、あらゆる生産性が阻まれている2020年。全産業が環境変化への対応を求められるなかで、クリエイティブもその例外ではない。

インドネシアで東南アジアでもトップ級の家具製造企業を生み出し、ニューヨークでその家具のサブスクリプションサービス「KAMARQ」を成功させた和田直希(以下、和田)。その卓越した感性と行動力で、企業家としての枠に止まらない活動を展開し、現在はSEKAI NO OWARIが海外展開するプロジェクト「End of the World」のクリエイティブディレクターとしても活躍している。

そしてBiSH、EMPiRE、GO TO THE BEDS、豆柴の大群などのグループが所属するWACKの経営者であり、プロデューサーでもある渡辺淳之介(以下、渡辺)。彼もアパレルブランド「NEGLECT ADULT PATiENTS」の運営など、マルチな才能で知られるクリエイティブディレクターだ。

この閉塞した状況下で、二人のクリエイティブ・ディレクターは果敢にも「KAMARQ」と「NEGLECT ADULT PATiENTS」の両ブランドでコラボを展開。

両ブランドによるカプセルアイテムの販売に加えて、「KAMARQ」の家具サブスク利用者にオリジナルCDが配られるというこのコラボは、この閉塞した状況の空気感に一筋の光明を示してくれた。以前から親交があったふたりに、これからのクリエイティビティが目指すべきものを尋ねてみた。

コロナはクリエイティブな心を刺激しない

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撮影は、クラブやライブスぺースが立ち並ぶ渋谷・円山町で敢行。

和田 初めて会ったのは2年くらい前かな。

渡辺 J-WAVEのラジオ番組で初めてお会いしましたね。レコーディングを公開録音するという実験的な試みで。

和田 あの企画はかなりイカれてたよね(笑)。

渡辺 BiSHがラジオの番組中にレコーディングして完パケしてしまうって企画で、リハーサルもやらずにぶっつけ本番で、すごく自由にやらせてもらえて楽しかったんですよ。そこから仲良くなりました。

──現在のビジネスはどんな感じですか?

渡辺 ライブはほぼ全滅で潰れたツアーが8本。会社の収益の半分はライブが占めているのできついですよ(笑)。

──めっちゃ笑ってますけど大変なんですよね?

渡辺 いやいや、本当に大変です(笑)。

和田 僕のクリエィティブの軸はライフスタイルとエンターテインメント事業の2本軸ですが、それぞれ影響は大きいです。特に家具の事業はニューヨークをメインに展開していますが、マンハッタンのど真ん中に店舗があるのでずっとオープンできない状態です。工場のあるインドネシアもフル稼働は難しい。でもあまりコロナの影響を意識しないようにしています。結局は自分にとってのゴールしか意識してないですからね。ゴールに向かって全力で走っていて、その途中で起こることは途中経過でしかないんです。高い壁が立ちはだかってたら、乗り越えたり回り道していくだけのことなんで、ストレスはあまり感じないです。

それと、僕は拠点が世界に4カ所あったんです。工場のあるインドネシアと本社のあるシンガポール、そしてニューヨークと東京。4ヶ所を毎週のように移動していたんですけど、この暮らしをいつまで続けなきゃいけないのかなって自問自答もあったんですよ。それがコロナによって移動ができなくなり、むしろ安心した部分はあります。いろいろな選択肢があるなかで日本を選んだわけですけど、そのおかげで淳之介さんとがっつりコラボできたし。

──このコロナ禍でアーティストたちの様子はどうですか?

渡辺 すごくナーヴァスになっている子もいるし、みんなギリギリのところで持ち堪えているって感じはありますね。アイドルって自分で何かを発信するよりは、誰かにプロデュースしてもらったものを表現するって方向ですからね。もちろん曲作りができる子はストックを蓄えたりして、自分たちなりに頑張ってはいます。

──クリエイターも、社会の変化に伴って変化が求められるわけですが。

和田 そこは僕にとっての永遠のテーマでもあるんですが、僕自身は環境の変化があまり好きじゃないんですよね。友達と会えなくなるのはイヤだし、行きつけの蕎麦屋がなくなるのもイヤ。そういう部分を守るために、変わらなきゃならない部分はうまく適応していかなきゃダメなのかなって思います。いままでだって阪神大震災やリーマンショックなどの大きなトラブルもあったけど、今回もなんとか乗り越えていかなければならない。

渡辺 いままで考えもしなかったことを意識させられることが増えましたよね。たとえばライブハウスに置いてあるチラシを見たって、「これ、誰が触ったかわかんないな」って思ったり(笑)。今後はそこを気にするのか、気にしないのかの二択を迫られるようになると思うんですよ。ライブ業界はまだ「これはやっていいのかな?」って及び腰な部分が大きいですよ。もっとわかりやすい思い切った変化が業界全体に求められるんだと思いますね。

和田 単純な不景気だったら、そこから生まれる怒りややるせなさを表現として昇華できるけど、コロナにはクリエイティブな生産性がない(笑)。怒りを持っていくところがないしメッセージも生まれない。世の中の色彩を消していくっていうイメージだから、クリエイティビティを刺激してこないんです。

渡辺 だからこのコロナ禍っていうのは、ひたすら待ちの時間ですよね。

和田 クリエイティブの概念って人によって違うんだろうけど、僕は世の中に足りないものを埋めていく作業だと思うんですよね。世の中を俯瞰していったときに足りない部分を、自分の気になった人と一緒に埋めていくっていうのがテーマかな。隙間があったらそこに飛び込んでいくっていうか。

渡辺 たとえばBiSHだと、いままでは斜に構えて変なことするのがカッコいいっていういわゆる中二病的なセンスで突っ走ってきたけど、コロナ以降はちょっと立ち止まって、もっと正直な気持ちで1回やってみようって雰囲気になりましたね。ベストアルバムも、今まではダサいから出したくないってレーベル側に言ってたんですけど、今だったら出してもいいんじゃないかなって気分になったり。制作費がかからないから、収益はライブハウスに寄付しようってことでリリースしたら、想定の倍以上の売り上げがあってそれなりに意義あることができました。その勢いで新曲も作ったんですが、そこで生まれる歌詞も今までとは違ったテイストになったんですよね。今までだと「コロナなんかぶっ飛ばせ!」みたいな表現だったのが、「辛いけどなんとか頑張って生きていこうよ」みたいな(笑)。柔らかいけど、感情としてはストレートになった気がします。

ムダこそがアイデアの源泉

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和田直希

──クリエイティブディレクターという仕事のあり方が今後変わってくると思いますか?

渡辺 結局は変わらないんじゃないかな。僕の考え方が古風なのかもしれないけど、クリエイティブディレクターの仕事って、人と人をつなげて化学反応を作り上げていくことだと思うんです。だからムダに感じる時間こそがすごく重要で、友達と雑談しているときに生まれてくるアイデアから新しいものが出てくる。今はすごくムダを削ぎ落とした仕事が重視されていますよね。でも僕たちの仕事って、削ぎ落としよりも付け足しが大事。本当は飲み屋でくだらないことばっか喋ってたいです(笑)。

和田 それ大事だよね。

渡辺 大きなIT企業の方と喋ってると、そういうムダを嫌う傾向がありますよね。投資したらできるだけ早く価値を上げて売却益を得るっていうことを考えている気がして…。 クリエイティブの質よりは、いかに売りやすいかっていうことが重視されちゃう。IT企業の人に「CDなんか売ってないで、今はSpotifyだよ」って説教されたこともありましたからね(笑)。そんなことわかってるけど、僕はそこを逆に突き詰めてすごい豪華盤を作って、できるだけリスナーにブツとして届けたいんですよね。仮想空間では生み出せないものに重きを置いている人にはちゃんと響くはずだから。

和田 だから今回のコラボも、いまどきCDがもらえるっていうかなり謎な企画なんですよ(笑)。配信もしてないからそのCDじゃないと聴けない。そこに反応してくれる人に出会いたいんです。クリエイティブディレクターって発電機というよりは変電機だなってイメージがあって、メッセージを人々に届くような形に整えてあげることなのかなって思います。そこに気づいてくれる人は、コロナによっていなくなっちゃったわけじゃないから。

──ムダや非合理を積み重ねても、最終的にチョイスするものは適格でなければいけないですよね。

渡辺 そう。だけどそれを見つけるために壮大なムダがあるんですよ。

和田 だって人生を合理的に生きたいなら、この瞬間に死んじゃったほうがいいわけですからね(笑)。だからこそムダに全力を賭けて余生を過ごしたい。

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渡辺淳之介

渡辺 和田さんって声が大きくてちゃんと意見を言い切るので、説得力やパワーがすごいんですよ。僕が惹かれたポイントはそこ。あとスピードがすごく速いんです。決断力もすごいんですけど、だからこそいろんな分野で成功できるんだろうなって思います。それでいてオトナじゃない部分もちゃんと残ってる。

和田 淳之介さんは僕自身がやってみたいことをどんどん手掛けてきた人だし、目指すところは近いのかなってずっと感じてました。ここまで尖ったことをやっているのに、世の中のメインストリームにいるっていうのが素晴らしいなって思います。あと僕は飽きっぽいのか、1回会った人ってなんとなくわかった気になって、「もういいや」って気分になっちゃうんですよ。でも淳之介さんは何回会って話をしても底が見えない

渡辺 和田さんのパワーに負けないように、僕も面白いものを持っていないといけないって意識はありますよね。

和田 あと淳之介さんがやってるファッションブランド「NEGLECT ADULT PATiENTS」もすごい。僕もファッションが好きでいろんなショーを見てきたけど、ランウェイをモデルがカップ麺食べながら歩いているのは初めて見ましたからね(笑)。この前のパルコも見に行ったけど、またカップ麺食べてたからすごいなって。

渡辺 同じことを何回もやるの好きなんです(笑)。やり続けることってすごく大事ですよ。BiSHだって「楽器を持たないパンクバンド」って掲げていて、最初はみんな鼻で笑ってたけど、ずっと言い続けていたらちょっとずつ認知されて居場所ができましたからね。

──おふたりとも物づくりに関して真摯でオールドスクールな考え方ですね。

和田 そこは間違いないですね。

渡辺 最初は受け入れられなくても、ずっとやり続けていたらなんとかなる。もちろん間違っていることは変えなきゃダメですけど、信念があったらやり続けるべき

和田 本当にそうだよね。「KAMARQ」だって最初はまったく理解されなかった。投資家の人たちから袋叩きにされて首になりかけたけど(笑)、自分は絶対いけるって思ったから続けているんですよ。自分のやりたいことと世の中が求めていることにズレがあったら、そこは修正していくべきだと思うけど、やり続けることは本当に大事。

渡辺 忙しくなると最終タスクをこなしているだけでいけてる気になっちゃうんだけど、やった気になって終わっちゃってることが多いんです。だからそういうときこそむしろムダなことをすべき。やるべきこととやらなくていいことの間に、ムダそうに見えるけど大事なことがあって、そこをやっておかないとヒットには繋がらないんですよ。削ぎ落としで最適解だけを追いかけていてはダメですね。

和田 さっき淳之介さんが僕のことを決断が早いって言ってくれましたけど、実はそこに辿り着くまでに何万回も考えているんです。何も考えずに直感だけで決めていることってないし、どんなに忙しいときでも自分の決めたことにはちゃんと裏付けがある。その上で、意思決定を即時に出来ない事は進めないと決めています。悩む時点で、それはまだ進めるべきじゃない、と。

渡辺 コラボレーションだって相乗効果を生んで、より良いものになっていかないと意味がない。だからアートディレクションの部分を相手に任せたとしたら、そこは相手を信頼して一切口を出さないし、そのためには信頼できる相手と、疑いを持たずに取り組める状況を整えてからやるべきだと思います。最近は世の中にいろんなジャンルのコラボがあって、なかにはかなり安易に見えるものもあるけど。

和田 相手の名前も忘れるような雑なコラボ、いっぱいありますからね。今回のコラボではCDを作って、BiSHのセントチヒロ・チッチなどに詩の朗読をしてもらったんですけど、朗読のCDを付けようっていうのは淳之介さんのアイデアなんですよね。自分のアイデアじゃないのに自分のベストが出せたっていうのは、やっぱり相性がいいんだなって思います。

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──今のご自身たちが手掛けている仕事を自己評価すると?

和田 若いころは今よりお金も使える手段も全然少なく、クリエイティブって人に振り向いてもらうための手段でした。いまは僕の作ったものを当たり前のように使ってくださる方もいるし、それによって人生がいい方向に変わる方もいるかもしれない。だけど基本は中二病ですよ(笑)。永遠に振り向いてもらいたいって気持ちでやってます。

渡辺 僕はセックス・ピストルズになりたくてこういうことをやってるんですよ(笑)。ピストルズも今になっていろいろな事実が掘り起こされて、ジョニー・ロットンは実はボイトレに通っていたとか、シド・ヴィシャスはそこそこベースは弾けたとか、意外とちゃんとしていたってことが明るみに出てきてますけど(笑)。ただ僕は僕のやっていることを見て、「オレにもできるじゃん」って思ってくれる人が出てくると楽しいなって思ってるんですよね。ずっと初期衝動だけを大事にしてますね。

「NEGLECT ADULT PATiENTS」× KAMARQ カプセル・コレクション

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NEGLECT ADULT PATiENTSとKAMARQのコラボデザイン。こちらのコラボ商品を月額600円以上ご利用の方に、購入者特典としてスペシャルユニット「SHAPE SHiFTERS(セントチヒロ・チッチ、ケンモチヒデフミ、NAOKI WADA)」による新曲『雨ニモマケズ』のCDをプレゼント。

Photo: Victor Nomoto(Metacraft), MC&Edit&Write: Hidetoshi Tatsumi