ロック・ギターの神様が亡くなった。いやギターの神様、音楽の神様が亡くなった。
数カ月前までは元気にステージをこなしていたのに。細菌性髄膜炎にかかって、あっけなくあの世に行ってしまった。SNSが核爆弾を受けたみたいにザワついたのは、たくさんの人が彼のプレイをまた観ようと思っていたからだ。
彼は現役の人だった。78歳という高齢だったが、若い頃となんら変わらないエキセントリックなプレイで、僕らを楽しませてくれていた。78歳には見えなかった。ジョニー・デップとよく楽しくコラボしているけど、ジョニー・デップと変わらない感じでプレイしていた。
神様だけど、彼は奢ることがなかった。神様だから当たりまえか。マイナーペンタトニック一発のジョニー・デップのプレイもよく聴いて、「お、お前こんな音だすのか」「じゃ、俺はこんな感じで返すぞ」と音楽の基本、コール&レスポンスをいつも楽しそうにやっていた。
音楽があるなら、ギターが弾けるなら、どこでも行くような人だった。あのモリッシーにも呼ばれたら、ギターを持って録音に参加している。さすがの僕も「エッー、モリッシーとやっていたっけ」とびっくりした。
そんな彼も偏屈者と言われていたことがある。
ロックコメディ映画の傑作『スパイナル・タップ』のキャラクターのひとり、ナイジェル・タフネルは、ジェフ・ベックをモデルとしています(「俺のギターに触るな、見るのもだめ」のギャグはめっちゃ笑えますよ)。
頂点の頃に、何もかも嫌になったのか、引退して趣味の車イジりをずうっとしていたことがあった(ギターを自分で組み立て直すのも好きな人だった)。あれは一体何だったのかなと思うのが、ずうっと働き続けている彼を見ていると、嫌なマネジャーと縁を切るために、疑似引退でもしていたのかなという気がする。
ボブ・ディランがウッドストックに篭っていたのも、デヴィッド・ボウイが日本に住んでいたのも、よくよく考えると、バカマネジャーに高い手数料取られるより、契約が切れるまで、ブラブラしていた方がいいということだったのかなと思う。それくらい自分のキャリアに自信がある人たちはいいなと思う。
彼の一番の功績はハードロックを誕生させたことだろう。これに関してはエリック・クラプトン、ジミー・ペイジ、それともジェフ・ベックなのかと意見が分かれることだと思うけど、これはみんなで一晩中ギターを持って、彼らの音楽を聴きまくって、語り明かしても答えはでないだろう。
『ローリング・ストーン』が選んだギターリストNo.1のジミー・ヘンドリックスなら、「エリック・クラプトンとジェフ・ベックがいなかったら今の俺はなかっただろう」と言うだろう。本場アメリカで生まれたR&B、ロックンロール、エレクトリック・ギターが、イギリスのサリーというロンドン郊外のホーム・カウンティに住んでいた若者たちによって一気に革新された。なぜこんなことができたのか不思議でならない。
当初はジミ・ヘンドリックスのような変わった人が興味を示しただけで、本当のブルースマンから、「こいつらちょっと違うよね」「分かってないな」と白い目で見られていたんだけど、彼らはそんな状況を変えた、自分らこそ本物だと証明していった。今K-POPの子らがやっていることを、彼らは60年代から70年代にかけてやったのだ。
今の時代、ギターソロが始まったら早送りする時代なんで、彼の死のことをほとんどの若い人はなんとも思っていないだろう。
そして、今のギターの神様といえば、トミー・エマニュエル、コーリー・ウォン、ジュリアン・ラージのような気がするけど、もしジェフ・ベックが生きていたら、彼らとプレイしただろう、もうプレイしてるのかもしれないけど(調べきれません)、本当に毎日プレイしているような人だった。
ジェフはアコースティックはあまりやらないので、トミー・エマニュエルとはやらなかったかもしれませんけどね。
自分のルーツであるロカベリーもずうっとやっていた。
ストレイ・キャッツのイギリス・デビューも彼はちゃんと観ている。因みにイギリスのストレイ・キャッツのデビュー・ライブを仕切ったのはジェフ・ベックらの師匠(ジェフはあんな奴師匠じゃないと言うかもしれないが)であるジョン・メイオールの息子ギャズ・メイオールである。
一番ギターを持つのがかっこいい人だった。
テレキャスター、ストラトキャスター、レスポールなんでも似合っていた。彼らのジャケット『ブロウ・バイ・ブロウ』(絵ですけど)『ワイアード』を見てください。一番彼が好きなロカベリーのギター、グレッチが一番似合ってなかったですけどね。天才すぎて一般受けしなかったジョン・マクラフリン、アル・ディ・メオラ、ロイ・ブキャナンなどを自分のものにし、分かりやすくトランスレイトしてくれたのも彼だった。
最後に一言、オープンマインドで優しい人だったけど、彼のギターにはなぜかいつも怒りがあった。どれだけ優しいプレイをしてもそこにはどこか怒りがあった。それがイギリス人の本質なのか、なんなのか分からないけど、僕はすごく大事なことだと思っている。
Photo: ©Koh Hasebe /Shinko Music
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