4万人のクリエイターが参加。「SURF Music」が描く“国境なき音楽制作”の未来
ARTS & SCIENCE音楽ストリーミングサービスやSNSの普及により、音楽業界のグローバル化が加速する中、クリエイターと業界の関係性も根本的に変わろうとしている。
その推進役のひとつとなっているのが、デジタル音楽マーケットプレイスの「SURF Music」だ。同プラットフォームは、2023年のグローバルローンチ以降、急速に成長。現在では195カ国4万1000人のユーザーを獲得している。

創設者の小堀ケネス氏は元々音楽プロデューサーとして活躍していたが、ある課題に直面したことがきっかけとなり、このデジタル音楽マーケットプレイスの構想を思いついたという。クリエイター視点で業界に新風を吹き込むSURF Musicが描く、これからの音楽ビジネスのかたちとは? プラットフォームの立ち上げの経緯から今後の展望まで小堀氏に話を伺った。
──AIのヒット曲「Story」を手がけるなど、J-POPのプロデューサーとして成功されていた小堀さんが、なぜデジタル音楽マーケットプレイス「SURF Music」を創設することになったのでしょうか?
小堀:もともとマネジメント会社と契約していたのですが、その頃はずっとスタジオにこもって音楽制作ばかりしていたんです。だから、自分の営業やPRは本当に苦手で、フリーになった時にレコード会社や他のプロデューサーとの人脈がほとんどないという、深刻な問題が浮き彫りになりました。その解決策として、自分の楽曲をアップロードしたプラットフォームを作り、そのパスワードを各レコード会社の方々に渡せば、いつでもチェックしてもらえるというシステムを思いつきました。今にして思うとこれが転機でしたね。
それで実際にベータ版を開発し、当時あった自分の300曲ほどの未発表曲を全てアップしたところ、それまでまったくご縁がなかったレコード会社から連絡をいただけるようになったのですが、その中には当時から18年前に書いた曲もあり、すごく驚いたことを覚えています。
──音楽業界の現場で長年活動されてきた小堀さんから見て、従来の日本の音楽業界にはどのような課題があったのでしょうか?
小堀:僕がNYのソニーミュージックで働いていた時は、クリエイター同士ががコラボして作品を作り上げていく、いわゆるコライトスタイルがすでに主流でした。一方、日本ではプロデューサー1人が中心となって制作する形が多く、コライト文化はまだほとんどなかったんです。また、20年ほど前のMTVアワードでは、韓国をはじめ他のアジア圏のアーティストがノミネートされている中で、日本人アーティストはゲストとして呼ばれることはあっても、ノミネートされることは一度もなく、すごく悔しい思いをしていました。
こうした状況を見て、日本の音楽界を変えていきたいと思っていたものの、現実問題として自分1人の力では変えられないということも感じていて。それで世界中のクリエイターをつなげるプラットフォームを作れば、日本と海外の橋渡しができるんじゃないかと考えるようになったんです。
──2023年のグローバルローンチ以来、SURF Musicはどのように成長しているのでしょうか?
小堀:去年10月から本格的なマーケティングを始めたところ、平均で1日300〜400人が新規登録するようになり、現在のユーザー数は4万1000人(2025年6月27日現在)になっています。ユーザーの国別分布を見ると、最も多いのは実は南アフリカで、2位のアメリカとかなり近い数字ですが少し上回っています。アフリカは次世代のグローバル・エマージングマーケットと言われている音楽シーンなので、これからも注目していきたいと思っています。
──これほど急成長している状況は、当初から想定されていましたか?
小堀:いえ、全く想定していませんでした。SoundCloudに約3,000万人のクリエイターがいると発表されていたので、それをターゲットに設定し、最初は1年かけて1万人集まればいいなという目標を立てていました。だから、ここまでユーザーが増えたことに本当に驚いています。
──SURF Musicを通じて決まった仕事の報酬は、そのままクリエイターに還元されるのでしょうか?
![[Latest]PressKit_SURFMusic(2)-1](https://media.loom-app.com/fuze/dist/images/2025/07/10/[Latest]PressKit_SURFMusic%282%29-1.jpg)
小堀:100%クリエイターに還元されます。僕らは手数料は一切いただいていません。だから、よく「ビジネス下手ですね」「さすがクリエイターですね」と言われます(笑)。
──最近、m-floや稲垣潤一さんなどの「リミックスコンテスト」を開催されていますが、これらがコミュニティ形成において果たしている役割をどう捉えていますか?
小堀:リミックスコンテストは、コミュニティが本当に盛り上がるんです。例えば、稲垣潤一さんの時は、サビだけを使ってトラップやロックバージョンを作ったり、参加者が思い思いにリミックスを制作してくれました。しかも、そのコンテストで優勝した海外の無名プロデューサーから「SURF Musicのおかげで僕の楽曲が世に出る」と言ってもらえたのは嬉しかったですね。
小堀:また、今年開催したm-floのコンテストでは30日間で150曲が集まったのですが、m-floチームと相談した結果、「優勝者だけ決めるのはもったいない」ということで、そのうちの127曲を配信リリースすることにしました。それが話題になり、「同一楽曲リミックスをデジタルシングルとして同時配信した最多数(Most versions/remixes of the same song released as digital singles simultaneously)」としてギネス記録にも認定され、これまで以上に大きな反響をいただいています。こうした成功事例を積み重ねることで、コミュニティのメンバーたちもSURFにより信頼を寄せてくれるようになってきた印象があります。
それにプラットフォーム内の自動翻訳機能のおかげで、言葉の壁を越えたコラボレーションも生まれています。僕自身、以前はK-POPのプロデューサーたちと共作したくても言葉の壁があって間に誰かを入れる必要がありましたが、今は直接やり取りできるようになり、作業効率も上がりました。

──SURF Musicにはクリエイター以外に、レコード会社もユーザーとして参加しているのでしょうか?
小堀:現在は、ユニバーサル、ソニー、エイベックスなどのメジャーレーベルも楽曲を探す目的でSURFに参加しています。
──でも、大手レーベルはすでに独自のA&R(=アーティストの発掘、育成、楽曲制作、宣伝戦略などを総合的に担当する職種)ネットワークを持っていますよね? レーベルはSURF Musicを利用することでどんなメリットを得られるのでしょうか?
小堀:確かに独自のネットワークは持っているのですが、実はA&Rが楽曲を探す際は割とアナログなやり方でやっているというか。自分たちが抱えているクリエイターたちにメールで「こういう楽曲が必要なので提出してください」と依頼して楽曲を集めるという方法が今でも主流なんですよ。
この方法だと何のコネクションもない新人A&Rは本当に困るんです。でもSURFを使えば、4万1000人のクリエイターの楽曲を誰でも平等に聴くことができるので、チャンスはみんなに平等にあるわけです。それに従来のメール依頼に加えて瞬時に楽曲募集をかけることで、集まってくる楽曲数も大幅に増やせるため、業界のプロにとっても利用価値があります。
──そうした楽曲検索を支援するために、AIによる「マジックサーチ機能」や自動タグ付けも導入されていますが、どれくらい効果的なのでしょうか?
![[Latest]PressKit_SURFMusic](https://media.loom-app.com/fuze/dist/images/2025/07/10/[Latest]PressKit_SURFMusic.jpg)
小堀:例えば、音楽出版社が管理している数万曲以上のカタログがあるとして、広告会社からクライアントのCM楽曲を探しているという依頼が来た場合、従来であれば楽曲を集めてプレイリストを作って送るまでに2週間ほどかかります。でも、SURFのシステムなら、そのメールをサーチエンジンに貼り付けて条件を入力すれば、約5秒で管理楽曲の中からプレイリストが出来上がります。しかも楽曲を探す時間の短縮ができるだけでなく、管理している全楽曲にフェアにチャンスを与えられるというメリットもあります。
──事務的な作業でのAI活用は確かに効率的ですね。一方で、音楽制作の分野では、AIの台頭によって、自分たちの仕事がいつか奪われることになるかもしれないと懸念するクリエイターも少なからずいます。小堀さんはAIをどのように位置づけていますか?
小堀:そうした懸念があることは理解できますが、現実的にAIはこれからなくなることはないし、どんどん発達していくものだと思うんです。だからこそ、AIとどう向き合うかが重要だと考えています。
僕はAIをサンプリング文化の延長として捉えているんです。従来、プロデューサーはサンプルライブラリーから「このベースラインがかっこいいから使おう」と選んで楽曲に組み込んでいました。AIを使ったベースライン制作も、基本的にはこれと同じだと思います。違いは、AIの場合は具体的な指示を出すことで、世界で一つだけのベースラインを作れることです。つまり、AIを脅威として捉えるのではなく、表現やクリエイティビティが広がるツールとして活用できると考えています。
──音楽制作がより民主化されていく中で5年後、10年後の音楽業界はどのような姿になっていると予想されますか?その中でSURF Musicはどのような役割を果たしたいですか?
小堀:ストリーミングサービスが登場してから、誰でも世界中の音楽を気軽に聴けるようになりました。実際Spotifyでは、J-POPが検索されている上位のジャンルになっていますし、日本のアーティストがグローバルで活動できる基盤は確実に整いつつあります。そう考えると、5年後にはJ-POPが本格的にグローバルで通用する状況になっていると思うんです。そして、次は世界中のクリエイターが言葉の壁を越えて一緒に音楽制作できる本格的な時代が来ると思うので、10年後には完全に国境のない音楽制作が実現しているはずです。SURF Musicとしては、世界中のクリエイターをつなぐ、架け橋としての役割を果たしていきたいですね。

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