2024年8月に公開されたドン・キホーテの新CMで、ブルーノ・マーズは渋谷本店の店内を駆け回りながら軽快なハウスダンスを披露した。その傍らで同じステップを踏む日本人女性ダンサーたちの中心にいたのが、ワールドチャンピオンのタイトルを持つハウスダンサー・Miyuだ。この驚くべき共演は、ブルーノ本人が以前からMIYUのダンス動画をSNSでチェックしていたことがきっかけで実現したという。
こうした形で音楽シーンとダンスシーンがこれまで以上に強く結びつくなか、職業としての「ダンサー」の社会的な地位向上を目指すMiyuは、単独公演の開催や映像作品の発表、ミュージックビデオへの客演、教育現場・公共イベントでのワークショップや講演、ファッションモデルや企業の広告出演、アメリカ進出など、様々な分野で活動を展開している。
そんな彼女は、今、日本の音楽カルチャーとダンスカルチャーの現在地をどのように捉えているのだろうか? 19歳で世界一のタイトルを獲得しながらダンスシーン以外ではほぼ無名だったという経験、SNSを武器にダンスシーンの外側へ活動を広げてきた戦略、そして、音楽シーンとダンスシーンの結びつき、海外から見た日本の音楽の受容、さらにはブルーノ・マーズという存在まで、ダンサーとして世界のエンタメシーンに挑戦する立場から語ってもらった。
──ダンサーとして国内外で活動されていますが、ダンスを始めた時から海外で活躍することを意識されていたのでしょうか?
Miyu:始めた当初は考えていなかったですね。ただ、小学校の卒業文集を見返すと「世界一のダンサーになりたいです」と書いていて、11歳か12歳の頃にはもう意識していたんだと思います。
初めて海外に行ったのは15歳の時で、チェコの世界大会に先生に連れて行ってもらったんですけど、世界がいかに大きく自由であるかを肌で感じて衝撃を受けました。ただ、その大会では出場していた日本人の中でおそらく私だけが予選落ちをしてしまって。自分の力不足を痛感しましたね。
その時に「来年は絶対にこの舞台に立ちたい」と思ったことが世界を目指すきっかけになりました。
──海外で日本人ダンサーが戦う上で、自信の源や日本人ならではの武器と言えるものはありますか?
Miyu:まず、自信という意味では「準備」に尽きますね。人よりも準備したか、考え抜いたか、強い心を持って過ごしていたか。「これだけやった」という事実が自信の土台になるんです。
その上で日本人の強みとして感じるのは、繊細さを持ちながら正確にアプローチできるところだと思います。細かい部分まで職人のように気を配りながら繰り返し練習ができるのは日本人特有のものですし、海外と日本を行き来する中で、日本人は基礎のクオリティが非常に高いと常々感じています。
もうひとつ意識してきたのは、他の人にはなくて自分だけが持っているものは何かということです。日本人としての武器に加えて、私は女性であるという点も大きかった。当時出場していた大会は男性ダンサーが圧倒的に多かったので、「男性には真似できないものって何だろう」と考えた結果、女性らしさをダンスに取り入れることで対等に戦えるんじゃないかと思ったんです。それが今のスタイルにつながっています。
──Miyuさんといえば「高速ステップ」が代名詞ですが、それを自身の武器として打ち出そうと考えたきっかけを教えてください。
Miyu:コロナ禍がきっかけでした。19歳の時に世界一のタイトルをいただいたんですけど、日本に帰ってきてみると、そのことをほとんど誰も知らないという状況でして...。今であればオリンピックのようにブレイキンが大きく取り上げられていますけど、当時のダンスは認知度がすごく低くて、社会的にも今ほど認められていなかったんです。
ただ、それでも私はダンスが大好きですし、ダンサーという職業に誇りを持っています。だからこそ、どうやって広げていこうかと考えた時に、コロナ禍でSNSが急速に普及していた時期だったので、SNSでの発信に着目しました。
──それがSNSで注目を集めた“#高速ステップ”につながるわけですね。
Miyu:そうです。SNSに投稿するなら、スマホの画面をスクロールしていて思わず目が留まるもの、「すごい」とか「何これ」って直感的に思わせるものが必要だと思ったんです。
それで「自分は足がすごく速く動くから、ステップを高速で動かしてみよう」と考えました。その結果、#高速ステップが生まれたのですが、これはあくまでもそれをきっかけに自分を知ってもらうための戦略でした。
──これまでに多くの国内外の大会に出場されてきましたが、パフォーマンスに対する観客の反応は国ごとで違うのでしょうか?
Miyu:全く違いますね。私は即興で踊ることが多いんですけど、日本のお客さんは行儀よく座って見て、終わったら拍手するという方が多い印象があります。
それに対して、海外のお客さんは良いと思ったらすぐ立ち上がるし、いい瞬間があればすぐに声を出す。なので、海外で踊る時は、歓声や熱気にいい方向に引っ張られて、普段以上のパフォーマンスが出ることもあるんですよ。
そのことを考えると私の場合は海外のほうがやりやすいですね。
──プロのダンサーとして、音楽とダンスの関係性をどのように捉えていますか?
MIYU:音楽とダンスの関係性って、おそらく多くの方が想像されるよりもずっと深いものなんです。ダンスって、単に音に合わせて動いているのではなく、音楽を目に見える形にしたものだと思っています。
これに関しては以前、私が尊敬するダンサーさんが「私たちの仕事は、かかっている音楽をよりカラフルに彩ること」とおっしゃっていたのですが、まさにその通りで、私たちダンサーは音楽を表現するために存在しているんだと思いますね。
──MIYUさんがMVに出演されたimaseさんの「Night Dancer」が海外でヒットするなど、日本の音楽が海外で親しまれる機会が増えていますが、海外で活動される中で、日本の音楽の受け止められ方についてどのように感じていますか?
MIYU:正直に言えば、まだまだ浸透していないと感じることのほうが圧倒的に多いです。知られているのは基本的にアニメの楽曲か、昔のシティポップ、あるいは藤井風さんや千葉雄喜さんのように積極的に海外へアプローチしているアーティストの楽曲に限られるんですよね。
逆に考えると、海外のアーティストは日本市場を意識していなくても、私たち日本人はその楽曲を自然と知っていたり、MVを観たことがあったりする。その差を考えると、やっぱりまだまだだなと感じます。
──日本の音楽がさらに海外に広がるためには何が必要だと思われますか?
Miyu:ダンサーの目線から言うと、以前は音楽がヒットしてからその曲に合わせてダンスが生まれるという流れが一般的だったんですけど、最近はSNSの影響で、ダンスが先に流行って、それによって楽曲が世界に広まるという逆の流れが起きているんです。imaseさんの「Night Dancer」はまさにその典型ですね。
SNSの動画やリールの発信力は本当にすさまじいものがあるので、そこにアプローチしていくのがいちばん効果的なんじゃないかと思います。
──アーティストとともにパフォーマンスや作品を作り上げる際に大切にされていることは何ですか?
Miyu:ライブやMVでアーティストと一緒に取り組む場合は、まずそのアーティストが何を伝えたいのか、その音楽が世の中に届けたいメッセージは何かを最優先に考えます。私が考えるプロフェッショナルの定義は、相手の期待を上回ることです。
何を求められているのかを的確に理解して、その期待を超える形で応えていく。そこは常に大切にしています。
──最近のお仕事の中で、特に印象に残っているものはありますか?
Miyu:一昨年のブルーノ・マーズとのCM共演ですね。手応えがあったというよりも、「続けてきてよかった」と心から思えた瞬間でした。
ストリートダンスというとヒップホップやブレイキンをイメージされる方が大半で、アーティストの方々にとってもダンスのイメージはそちらに偏りがちなんです。そんな中で「ハウスダンスをやりたい」「Miyuがやっているステップを取り入れたい」と言っていただけたのは、本当に大きな出来事でした。
──ブルーノ・マーズ本人からのご指名だったそうですね。
Miyu:はい。私が生徒と一緒に踊っている動画をInstagramによく投稿しているんですけど、それを見て「Miyuと生徒と一緒にハウスをやりたい」とオファーしてくれて。
実際にお会いした際に「いつも見ています」とお伝えしたら、「僕もいつも見ていますよ」と言ってくださったんです。いろいろな動画をチェックしてくれていたみたいで本当に嬉しかったです。
ハウスダンスっていう点ではまだまだ認知度が低いので、ブルーノがあのCMでハウスのステップを披露してくれたことは、ハウスダンサーである私にとって、とてつもなく大きな意味がありました。
──ブルーノ・マーズは日本で独特の親しまれ方をしているアーティストだと思いますが、共演されたMiyuさんから見て、彼が日本でこれほど受け入れられている理由は何だと思いますか?
Miyu:そもそも彼が世界中で受け入れられている理由は、その場にいるすべての人をハッピーにできるパワーを持っているからだと思います。
ライブの場だけじゃなくて、普段からその空間にいる全員が楽しめているかどうかに細やかに配慮して動く方なんですよ。しかも、それは単なる性格とか天性のものではなくて、裏側でものすごい努力をしている。どうすれば人の心を動かせるかを常に考えていて、音楽制作でも楽器の演奏、振り付け、歌詞、編集、カメラワークに至るまで、全部自分のビジョンを反映させているんです。人任せにせずすべて自分で関わっているからこそ、あれほど人の心を揺さぶる作品を生み出せるんだと、関わる中で強く感じました。
あと、日本人という視点で考えると、さっきも言ったように音楽が流れたら自然に踊るっていう文化があまりないじゃないですか。そういう文化の中でも、彼の音楽やライブって、そうした日本人特有の自制心をふっと忘れさせてノリノリにさせてくれるんですよね。日常では味わえない解放感を与えてくれるからこそ、日本人の心を強くつかむんじゃないかなと思います。
──ブルーノ・マーズとの共演を経て、ご自身の活動や考え方に変化はありましたか?
Miyu:想像以上に大きく変わりました。彼のように世界を股にかけて活動する人を間近で見て、視野が格段に広がっただけでなく、聴く音楽も聴くポイントも変わりました。普段目を向けるものとか、挑戦したいと思うことの規模が大きくなったと自分でも実感しています。
それに加えて、彼やそのチームの努力や活動を見ていて、「自分にはまだまだできることがある」「ダンスにはもっと大きな可能性があるはずだ」と思えるようになったんです。かけてくれたひとつひとつの言葉が、自分にさらなる自信を与えてくれました。
──ブルーノ・マーズからかけてもらった言葉の中で、特に心に残っているものはありますか?
Miyu:たくさんありすぎて選ぶのが難しいんですけど...「あなたはもっと世界で活躍できる人だよ」という言葉は特に印象に残っていますね。
──ダンスシーンと連動した音楽シーンの動きで、注目されていることはありますか?
Miyu:バッド・バニーに代表されるラテン音楽の世界的な広がりには注目していますね。
かつてはアメリカ中心だったエンターテインメントの流れが、さまざまな文化や言語、多様な背景を持つ人々にスポットライトが当たる時代に変わってきていると感じています。これは夢の夢かもしれないですけど、いつか日本人がスーパーボウルの舞台で日本語のパフォーマンスを披露する日が来るかもしれない。そう思えるくらい、大きな変化だと思っています。
──2025年にはCAA(Creative Artists Agency)とのエージェント契約を発表されました。海外のエンタメ業界に日本人ダンサーとして本格的に参入していくことは、Miyuさんにとってどのような意味を持ちますか?
Miyu:自分の将来を考えた時に、日本でこのまま活動を続けていく姿を想像したんです。そうすると、未来の自分が見えてしまったんですよね。だからこそ、もっと自分の可能性を広げるために「そんなの無理だ」って思われていることに挑戦したくなりました。それがアメリカに拠点を移したいと考えるようになったきっかけです。こう思えるようになったのも、ブルーノの存在が大きかったですね。
やっぱり、ダンサーという職業って、SNSのおかげで入り口こそ広がったんですけど、出口がまだ狭いんですよ。振付師やバックダンサー、インストラクターなど、常にアーティストを輝かせる裏方の役割が中心なんです。それ自体は素晴らしい仕事なんですけど、私はダンサーがひとりのアーティストとして、俳優やモデル、シンガーと対等に評価される世の中を作りたいと思っています。
でも、ダンスの世界だけで活動していてはそこにしか届かない。ダンスとファッション、ダンスと音楽、ダンスとテクノロジーみたいに、他分野との掛け算で発信していくことが大切だと思っていますし、アメリカではその掛け算をさらに大きな規模で展開していきたいですね。
──最後に今後の展望や目標を教えてください。
Miyu:直近では、世界大会でもう一度タイトルを獲るのが目標ですが、将来的には、アーティストと対等な立場で自分のダンスショーで世界ツアーを実現したいです。
それとアメリカで好きなアーティストと新しいものを一緒にクリエイトしたい。ファッションとの掛け算で言えば、いつかメットガラに招かれるような存在になりたいですし、VOGUEのカバーを飾りたい。ダンサーって、ただ服を着て撮影されるだけじゃなくて、着て踊ることで洋服に命を吹き込むことができる存在なんです。自分自身がブランドとして確立されている状態でありたいなと思っています。
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