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3Game Developers Conference

ゲームのナラティブをビジネスに応用させることは可能か?

IDEAS LAB
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コントリビューター小野憲史
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国産ゲームにみるナラティブ要素

ここまでGDCでの議論を中心に海外ゲームにおけるナラティブのトレンドについて解説してきました。しかしナラティブゲームは海外ゲームの専売特許ではありません。むしろ日本のゲーム開発者が1980年代から無意識のうちに実践してきたことでもあります。

初期の代表例にあげられるのが、シューティングゲームの名作「ゼビウス」(1983年)です。本作ではゲーム内で明確なストーリーが提示されることはありません。しかし多くのプレイヤーがゲームを繰り返しプレイするうちに、そこに何らかの世界観やストーリーを無意識のうちに感じ取れるようなデザインが行われていました。

たとえば草原に突如ナスカの地上絵が表示されるステージがあります。これを発見したプレイヤーは、その時にはじめてゲームの舞台が地球で、どうも南米であるらしいことがわかる、といった具合です。ゲームの完成度もさることながら、こうした断片化された情報の存在に当時のプレイヤーは夢中になり、何度も繰り返し遊び込んでいったのです。

他にもさまざまなエピソードを自由に選択し、行間を読み解いていくことで、自分なりの物語体験が楽しめるという意味では、恋愛ゲームの「ときめきメモリアル」(1994年)や、シミュレーションゲームの「高機動幻想ガンパレード・マーチ」(2000年)といったタイトルを忘れるわけにはいかないでしょう。

このように、国産ゲームが初期からナラティブの要素を取り入れてきた背景には、マンガやアニメ文化の影響があります。ゲーム産業が成長期に入った1980年代前半、アニメはすでに「ガンダム」「マクロス」を経て、最初の成熟期を迎えていました。ゲームはそこから「世界観」という概念を輸入しつつ、独自のナラティブへと昇華させていきます

もっとも、あるゲームがナラティブゲームか否かという線引きは重要ではありません。ゲームの物語体験が「プレイヤー中心主義」で発生するように、ナラティブか否かはプレイヤーとの関係性によって決まります。そのため「誰にとってのナラティブ体験か」「どのような手法でナラティブを発生させるのか」という議論の方が、本質的な問題なのです。

企業活動のナラティブ要素

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さて、ここまでゲームのナラティブについて延々と論じてきました。では、このナラティブはゲーム業界以外でのビジネスに広く応用可能なのでしょうか。

まず、これまでの議論にもとづき、ナラティブを発生させる要素を「世界観」「メディア」「断片化された情報」という3つに整理してみましょう。すると、さまざまな事例が存在することがわかります。

その代表例ともいえるのが、1980年代後半から1990年代初頭にかけて社会現象を巻き起こした玩具「ビックリマンチョコ」です。鍵となったのは子どものお小遣いでも買える安価なチョコレート菓子に、おまけとして封入されたシールでした。天使や悪魔をパロディ化した、さまざまなキャラクターが印刷されたシールの裏面に記されたストーリーの断片を求めて、夢中になってコレクションした人も多いのではないでしょうか。

このブームは「月刊コロコロコミック」などの漫画雑誌、すなわちメディアが特集を組むことで、さらに拡大していきます。「ビックリマンワールド」はアニメ、ゲーム、マンガ、書籍などのクロスメディア展開をみせ、それに応じてシールの内容も複雑化。最盛期には100億円以上の市場にまで成長しました。ブームは1992年の「天使VS悪魔」篇終了と共に沈静化しますが、今なお関連商品が発売され、根強い人気を保っています。

160908narrative008.jpgこうした「遊び」はインターネットと結び付き、新たな物語体験へと進化していきます。2004年から2010年までアメリカで放映され、社会現象を巻き起こしたTVドラマ「LOST」はそのひとつ。無人島に漂着した生存者たちに対して、さまざまな怪奇現象や意味深なイベントが発生する本作の全体像を巡って、ネット上ではいくつものサイトや議論が勃興。全米がテレビに釘付けとなりました。

160908narrative009.jpg2008年に公開されたハリウッド映画「ダークナイト」にあわせて実施されたプロモーション施策「Why So Serious?」も好例です。

参加者はバットマンの仇敵、ジョーカーの手下という設定です。ある奇妙なメールをきっかけに、参加者はウェブサイト、携帯電話、イベント、ビデオ、グッズなど多彩なメディアに隠された断片的な情報を収集し、ネット上で共有しながら、イベントを体験していきます。

本イベントのように、断片化された情報を多彩なメディアを使って提示していくことで、現実世界をそのままゲーム空間にしてしまう遊びは、ARG(代替現実ゲーム)と呼ばれています。中でも本作は2007年3月から2008年7月まで1年半にわたって断続的に開催され、世界75カ国・地域で1千万人以上が参加するなど、最大級の事例となりました。2009年のカンヌ国際広告祭サイバー部門でグランプリを受賞するなど、高い評価を得ています(参考:ARG情報局)。

これ以外にもナラティブを活用した施策は、企業のマーケティング活動をはじめ、さまざまな形で応用できそうです(参考「のめりこませる技術 誰が物語を操るのか」(フィルムアート社))。その上でポイントとなるのは、VR(仮想現実)やAR(拡張現実)をはじめ、メディア自体が非常に速いスピードで進化していること。そのため本質的には同じ内容であっても、新たな物語体験が次々に提供される可能性が高いことです。

その中でもゲームは最新技術と相性が良く、ビジネスモデルが確立しており、大きな市場が存在することで、ナラティブの実験場となっています。米国ナイアンテック社がスマートフォン向けゲームとして開発中の位置情報を活用したサービス「Pokemon Go」もその一つ。現実世界をユーザーが歩いて、さまざまな場所を訪れ、その場でポケモンを捕まえるという内容です。2016年のリリースに向けてテストが実施されています。

これらは消費者の「現実と虚構のゆらぎ」を楽しもうとする姿勢に他なりません。そして、これは小説・漫画・映画など、あらゆるフィクションに共通する要素です。人はなぜフィクション、すなわち物語体験を求めるのか。それは人には「他人の人生」を生きてみたいという本能的な欲求があるからです。その上で技術革新によって、さまざまにメディアが広がり、それに即したナラティブが生まれているのです。

このように、企業活動を大きくゆるがす可能性を秘めたナラティブという概念。今後も注目したいところです。