VRから始まる破壊と創造、サンダンス映画祭の新プログラムに集う気鋭のクリエーター
NEW INDUSTRYVRの普及であらゆるエンターテイメントが変革を迎えようとしている。Googleは360度で楽しむ映画『Pearl』を発表した。そしてアメリカ最大のインディー映画祭であるサンダンス映画祭を主催する非営利団体サンダンス・インスティテュートもVR映画の可能性を探り始めた。
サンダンス・インスティテュートは年間を通じて、さまざまなプログラムでインディー・クリエーターたちに作品制作や実験、交流の場を与えているが、今回参加クリエーターが発表されたプログラム「ニューフロンティア/Jaunt VR レジデンシー・プログラム」はVR映像作品に特化したものである。VRに特化したテクノロジー企業であるJaunt VRのサポートの下、サンダンス・インスティテュートによって招待されたクリエーターたちが、VRを駆使した映像作品の可能性を探る。
このプログラムには2015年11月にオーストラリアのインタラクティブ・アーティストであるリネット・ウォールウォースが参加する形で開始された。ウォールウォースのVRプロジェクト「衝突(Collision)」はガーディアンやThe Vergeなど多くのメディアの注目を浴びている。
VRゲームと聞くと、それだけで人々が興奮するのとは対照的に、VR映画は全世界をワクワクさせるには至っていない。これまでとはまったく異なる鑑賞スタイルを提供する一方で、「一つの視点が提供する力強い物語」に魅せられてきた映画ファンからすると、いまいち興奮しきれない所があるようだ。
スティーヴン・スピルバーグ監督もその一人だ。2016年のカンヌ国際映画祭において、「視聴者が『何を観るか』に始終するようになると、監督が伝えたいストーリーがないがしろになるかもしれない」とVRに対しての危惧をガーディアンに語っている。
今回のプログラムに選んだクリエーターを見ると、サンダンス・インスティテュートがVRに対して抱いている期待がよく分かる。中でも特に興味を引くのがラッパーであり、オンライン・メディア・アーティストでもあるヤング・ジェイク(Yung Jake)だ。完全にインターネット世代のアーティストである彼は、固定されたシステムに乗っかることはしない。彼はこれまでの作品やミュージック・ビデオでも既存のインターフェースを破壊してきたのだ。
好例が彼のHTML5による体験型ミュージックビデオ「e.m-bed.de/d」だ。リンクをクリックする前に、ブラウザのポップアップ禁止を解除してほしい。画面に散らばっている「Play」をクリックすると単純なミュージックビデオが開始される。二桁の再生回数から始まったYouTubeビデオはすぐに何百万もの再生回数に到達する。
歌詞とリンクして、いくつものウィンドウが自分のパソコンのデスクトップ上で実際に次々に開かれ、架空のfacebookメッセージやツイートが画面狭しと動きまわる。まるで悪質なコンピューター・ウイルスに感染してしまったかのような体験だが、YouTube中央の画面の中に収まってしまう既存のミュージックビデオの概念を完全に破壊していることは確かだ。
ビデオの最後には、YouTubeの再生バーの丸いマークがポロリと画面がこぼれ落ちてしまう。自分のデスクトップで再生するのが怖い人は(ウィンドウがいくつもポップアップすると背筋が凍るのはとても理解できる)、「e.m-bed.de/d」を再生するデスクトップを録画したビデオをご覧いただきたい。
心臓の強い猛者はポップアップ禁止を解除して、こちらのリンクをクリックしてほしい。
サンダンス・インスティテュートが彼に期待しているところは非常に分かりやすい。既存の映画フォーマットの破壊だ。映画というコンテンツをVRというフォーマットに合わせるのではなく、VRというフォーマットで我々を驚かせるようなコンテンツが、結果的に次の世代の映画として認識されるのかもしれない。
かといって、ただ映画を破壊することだけが目的ではないようだ。『トイ・ストーリー3』や『カーズ2』『メリダとおそろしの森』などに参加してきたアニメーター・サシュカ・アンセルドも名を連ねている。下の動画は彼が2013年に監督したピクサーの短編アニメーション『青い傘(The Blue Umbrella)』の予告編だ。
アンセルドは自身がダンサーでもあるフィルムメーカー・リリー・ボールドウィンとタッグを組んでこのプログラムに参加する。もう一人の参加者であるダニエル・アーシュマンはアッシャーのミュージックビデオやジェームズ・フランコ主演で制作された短編映画『フューチャー・レリック2』といった作品で、建築と映像というジャンルを融合させてきた。今回のプログラムで彼が取り組むのは『冷たい蕎麦(Chilled Soba)』という作品だ。
(この作品は)複数の方法でビューワーたちを別世界へと招待する。タイム・トラベルや自然災害といったテーマも扱いながら、有名な渋谷の交差点へビューワーが飛んで行くことから物語は始まるだろう。しかしそれは始まりにすぎない...
VR作品に『冷たい蕎麦』というタイトルがついているだけでワクワクしないだろうか。彼らが既存の映像作品の枠組みをどう破壊してくれるか、注目したい。
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