『007 スペクター』の嘘から出た真。ボンド映画がメキシコに新たな伝統を生み出した
NEW INDUSTRY「Día de Muertos」、ラテンアメリカの国々で行なわれる「死者の日」(The Day of the Dead)。ハロウィンの翌日から2日間、人々は死者の仮装で着飾り、巨大な骸骨がメキシコシティ街を練り歩く。死者の魂が地上を訪れる伝統的なお祭り...と言われてもなんの違和感もなく信じてしまいそうだが、これはあくまでも映画の中の話。
2015年公開のボンド映画『007 スペクター』の序盤シーンだ。
映画の中で骸骨のマスクを身に着けたジェームズ・ボンドは、パレードの人々に紛れ込み、標的を追う。その後、大爆発が起きたり、ボンドらが乗ったヘリコプターがパレードの列に突っ込みそうになったりするところが映画のひとつの見どころとなっている。
だが実際には、メキシコシティでパレードが行なわれたことはない。少なくともこれまではなかった。しかし今年は違った。
なんと映画にインスパイアされ、死者の日にパレードが企画されたのだ。「嘘から出た真」とは正にこのことか。
パレードのクリエイティブ・ディレクターの1人、Alejandra González AnayaはCNNにこう語っている。
これまでこのようなフォーマットでのパレードは存在しませんでしたが、コンテンツ、伝統、ビジュアルとしては存在していました。メキシコの人々のために、それを取り戻し、新たなフォーマットと新たな伝統に入れ込むことができるのは素晴らしいことです。
私たちが見出そうとしているのは、新たなブランド、新たなアイデンティティー、古きを取り戻し、世界中に向けて、リオやヴェネツィアのカーニバルに代わって私たちの国に来ることのできるような新たな選択肢を生み出すことです。
今年は1,200人のボランティアがパレードの準備を手伝い、15万人の参加者が4時間ほどかけて3.5kmの道のりを練り歩く。世界中で知られるリオのカーニバルやヴェネツィア・カーニバル、そのライバルとなるほどこのパレードを成長させられるかがこれからの試練だろう。
伝統的な死者の祭りにインスパイアされた映画が描いた実際には存在しない「嘘」が、現実の祭りをインスパイアし動き始めて「真」となったこのパレード。アステカ文明から現代へと引き継がれてきた伝統と、銀幕の幻影が混じり合い生み出された新たな風習は、これから先の歴史にどこまで根付くことができるだろうか。
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