ビットコインのコア技術「ブロックチェーン」は、仮想通貨の範囲をはるかに超え、我々の経済活動や社会を大きく変えるインパクトを持つと言われている。仮想通貨以外の応用例がまだ多くない中、それをファッションアイテムの体験の一環としていち早く取り入れたブランドがある。
ニューヨークと上海をベースとするブランドBABYGHOSTは、2017年春夏コレクションに、ブロックチェーンを採用した。Campfireによれば、対象の20アイテム、そしてハンドバッグ80点にはNFCチップが埋め込まれ、そこにスマートフォンをかざすと、そのアイテムの素材や生産地といったマテリアルについての情報や、デザインコンセプト、ブランドストーリーのバーチャル「タグ」を確認できる。
ファッションとブロックチェーンの融合をを実現しているのは、上海でブロックチェーン応用技術を開発しているスタートアップBitSEである。彼らは情報の早いテック業界以外ではまだ敷居の高いブロックチェーンを、一般企業が使いやすい形で提供することにフォーカスしている。
BABYGHOSTのケースで使われているのは、BitSEのスマートフォンソリューション「VeChain」だ。これを使えば上記のように商品がいつどこでどのような考え方で作られたかを、画像や動画などリッチなコンテンツとともに確認できる。ブランドのファンたちは、商品やブランドに対する理解や愛着を深めることができる。また単に購入済の商品の情報表示だけでなく、たとえば購入済のシャツに合うパンツやジャケットを提案するなど、プロモーションのための接点ともなるだろう。使い方次第で、消費者にとっても企業にとっても有用な仕組みとなりうる。
「それぞれの服が、たくさんの中のひとつではなく、一点ものになることを想像してみてください。服が文字通り、ファンに対して話しかけられるのです。それは我々がソーシャルメディアでファンとコミュニケーションできるのと同様です」BABYGHOST創業者のQioran HuangはFashNerdにこう語っていた。
ファッション分野でブロックチェーンが活用される方向性は、これだけではない。FashNerdでは上記のほかに、ふたつの利用目的をあげている。
まず有望視されている活用法は、情報の改ざんが非常に難しいという特性を活かした偽造品の防止だ。たとえばChronicledは、スニーカーやワインなど偽造品が多く出回る製品群にマイクロチップを埋め込み、それらが本物であることを証明するソリューションを提供している。ダイヤモンドを管理するブロックチェーン・Everledgerにはすでに100万点以上のダイヤモンドが登録されており、そこでは発掘した鉱山までたどることができ、偽物や盗品の取引を抑止している。
また昨今はフェアトレードや環境負荷の低さなど、商品の倫理的な側面も重視され、「看板に偽りがなし」が求められるのは高額品だけではない。Provenanceでは、商品の産地や生産方法などを消費者側からトラッキングできるツールを生産者に提供している。また単なるツール提供にとどまらず、そのような透明性を支持する生産者(たとえば野生のゴムを原料としたスニーカーや、廃品から作るバッグなどの作り手)のストーリーを一覧で公開している。これによって倫理的で持続可能なビジネスを志向する生産者がProvenanceに集まり、生産者同士のつながりをも促進している。
このようにブロックチェーンはファッション分野でも徐々に応用されつつあり、服や靴を買って身に着ける体験の満足度を、それらが本物であるという確信や商品の背景情報の提供によって深めようとしている。またProvenanceがそうであるように、今までにない徹底した透明性を武器に倫理的な生産・消費を実現しようとする一種のムーブメントをブロックチェーンが後押しする可能性もある。
インターネットが生活やビジネスのさまざまなプロセスに組み込まれ、我々のライフスタイルを大きく変化させたように、ブロックチェーンも人類の生活を変えていくことだろう。その恩恵が当たり前になる日は、思いのほか近いのかもしれない。
目的と価値消失
#カルチャーはお金システムの奴隷か?
日本人が知らないカルチャー経済革命を起こすプロフェッショナルたち