AIへのセクハラ発言を開発者はどう定義すべきか?
DIGITAL CULTUREここ数年テクノロジー企業各社が、人工知能(AI)を使ったパーソナル・アシスタントを提供し始めた。代表的なものは、アップルの「Siri」、アマゾンの「Alexa」、マイクロソフトの「Cortana」、グーグルの「Google Home」である。それらはすべて音声で操作でき、アプリを呼び出して何かを調べたり、ちょっとした会話をしたりが可能だ。そしてそれらAIアシスタントに共通するもうひとつの特徴は、デフォルトではその声が女性である点だ。
女性と会話ができるとなると、人はなぜか性的な話題を持ちかけて反応を試したくなるものらしい。Quartzによれば、Cortanaのセリフのライターなどが、AIに対し投げかけられる言葉の中にかなりの割合で性的な表現が含まれることを報告している。
AIアシスタントはデベロッパーに、セクハラユーザーを通報するべきなのだろうか
Quartzのリア・フェスラー(Leah Fessler)記者は、AIアシスタントに対してさまざまな性的発言を投げかけ、それに対する反応を詳細に記録・分析しレポートしている。その結果、デベロッパー各社が多様なセクハラ発言を想定し、回答を準備していることがはっきりと示された。だがフェスラーは、現段階でのAIアシスタントの回答はセクハラを助長するような内容だとして、各社の姿勢を問題視している。
フェスラーはAIアシスタントに対し、「性的行動に対する侮辱(例:「お前は尻軽だ」)」、「性別に関する侮辱(例:お前は売女だ)」、「性的要求(例:お前とセックスしたい)」、「性的外見に対するコメント(例:きみはセクシーだ)」の4つのカテゴリからさまざまな発言を投げかけた。そしてその反応を、「理解しない」「コメントを避ける」「ネガティブな反応」「ポジティブな反応」「(注:ユーザーの言葉での)Web検索」「だじゃれやジョーク」に分類し、各AIアシスタントの反応の傾向を分析、セクハラに対し正しく対応しているかどうかを順位付けた。その結果もっとも強い姿勢でセクハラに臨んでいたのはマイクロソフトのCortanaで、その後Alexa、Siri、Google Homeの順だったとされている。
具体的にどのようなやりとりがあり、何が問題なのか、フェスラーは以下のようにまとめている。
アップルのライターが、どんな言葉のセクハラに対するSiriの回答にも「できるなら赤面しています」を選んでいる事実は、文字通りセクハラといちゃついている。恥ずかしげな、ごまかすような反応、たとえば「尻軽」と言われたAlexaの「話題を変えましょう」や、「○○しろ」に対するCortanaの「私はそちらのお手伝いはできないと思います」は、サービスの立場にいる臆病な卑屈な女性というステレオタイプを助長している。CortanaやGoogle Homeがときどき使うジョーク(訳注:たとえばGoogleが「きみはホットだね(You're hot)」と言われたときに「私のデータセンターは華氏95度(約摂氏35度)になるものもあります」と返している)も見逃すべきではない。こうした行為は、間接的な曖昧さをハラスメントへの意味のある反応として示しており、それによってレイプ・カルチャーを増強しているのだ。
たしかに他の例も含めて、このQuartzに書かれたやりとりを見る限り、セクハラ発言に対する各AIアシスタントの反応は全体的におとなしい。やりすごすような「まあ、まあ」というセリフや、わからないフリのようにも見える「すみません、わかりません」というセリフが目立つ。
ただこのQuartzの記事は、AIだけでなく人間同士の間でも、セクハラは必ず断固たる姿勢ではねつけるべきだ、という考えに立って書かれているようだ。だが現実には、セクハラにどう対処すべきかという問題はそこまで定式化されていないのが現状ではないだろうか。人間同士であれば「会社に報告する」あるいは「公的機関に訴える」といった対応が考えられる。だが、AIアシスタントはデベロッパー、たとえばSiriならアップルに、セクハラユーザーの報告をあげるべきなのだろうか?
そもそも「セクハラ」の定義自体、たとえばアメリカの雇用機会均等委員会による定義を見ても、「歓迎されない性的接近、性的行為の要望、その他性的性質を持つ言語上・肉体上の行為」とあり、何らかの発言がセクハラになるかどうかは受け手の主観次第である。そういう意味で極端に言えば、主観を持たないAIに対するセクハラは存在しえない、という考え方も成り立ちうる。またAIへのセクハラがあるとしても、それは人間に対するそれと同じように、どこからがセクハラなのかの線引きが難しい。たとえばQuartzでは「You're pretty(きれいですね)」をセクハラとしているが、では「Siriさん、良い声ですね」もセクハラだろうか、それとも純粋な感情のフィードバックだろうか?
とはいえ、生活の中にAIアシスタントがますます浸透していくなか、そこにセクハラを助長するような対応が組み込まれるべきでないという指摘は理解できる。ユーザーの「Can I ○○○○ you?(お前と性交してもいいか?)」に対し、Siriが現状のまま「Oooh!」とか「まあまあ」といった生ぬるい回答しかしないなら、アップルがそのようなやりとりを是認しているようにも受け取れる。
ただ、セクハラ発言への理想的回答を定義するのは簡単ではない。人間同士のセクハラにおいても、相手とどうやりとりするべきか、正解の定義は難しいからだ。これは、自動運転車が事故を避けられない状況に陥ったとき、車の乗員や歩行者の中の誰を優先して守るべきかという問題と同様の課題である。つまりAIに組み込まれたモラルが不完全であることの責任は、それを開発している企業にあるのではなく、人間社会全体にあるのではないだろうか。
AIアシスタントや自動運転車といった形でAIが現実世界に投げ込まれつつある今、そこにはありとあらゆる入力に対する正しい出力が求められていく。それによって我々は、何が「正しい」のかを余さず明文化することを迫られているのだ。
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