「ググる」と浮かびあがる無意識の偏見。オートコンプリートを受刑者たちの詩でポエトリー・ハッキングする「View Through」とは?
DIGITAL CULTUREmiami inmates are believing in the unseen(マイアミの受刑者たちは、見えないものを信じている)miami inmates are a device used to tell time(マイアミの受刑者たちは、時間を教える機械みたいなもの)
毎年4月になると、マイアミでは「O(オー)」というポエムにまつわるイベントが開催される。2017年は「View-through」(見てそのまま通り過ぎてしまうこと)というプロジェクトが行なわれた。これは、インターネットユーザーが"miami inmates(マイアミの受刑者)"と入力すると、オートコンプリート機能として受刑者たちが創作した一行ポエムが現れる仕組みになっている。表示された彼らのポエムをクリックすると、検索結果にView-throughの紹介やプロジェクトチームによるコメントなどが記載された公式サイトや受刑者の自立を支援するための情報が表示されるのだ。
オートコンプリートのなかに隠された影
Googleによると、普段私たちが何気なく使っている検索のオートコンプリート機能は、複数のユーザーによる検索数の多さと、その言葉が使用されるサイトの数の多さによって表示に変化が現れる。そのため、あらゆる検索ワード(クエリー)に関連する言葉は常に変動し、話題になるほど表示されやすくなるという仕組みになっている。
だが、この機能でわかるのが悪評もまた然り、ということだ。否定的な言葉が表示されると、それは自分のディスプレイ同様、全世界まで増殖してしまう。悪評が広まっていくことによって、傷ついたり嫌な気持ちになる人も少なくないだろう。
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プロジェクトリーダーのひとりであるアーティストのジュリア・ウェイスト(Julia Weist)は、このようなオートコンプリートが客観的な視点ではなく人々の固定概念や先入観を反映しており、クエリーにあらわれた偏見への抵抗が難しいことを問題視した。
たとえばウェイストいわく、マイアミの南端にあたるデイド群では、過去5年間の犯罪件数は3.5%減少しているものの、同時期のGoogleでは"miami inmates assault(マイアミの受刑者 暴行)"という検索ワードが3,950%まで増加している。ネット上で受刑者を怖がったり非難することは簡単だが、そこに受刑者本人の声は含まれてはいない。なぜなら、彼らはアクセスすることが今も許されていないからだ。拒絶された彼らは、世の中から向けられる偏見に対して、声を挙げることさえ許されない。さらに、彼らの95%は服役し刑務所から出ていく。罪を償った彼らが一般人に溶け込んで社会復帰をすることはそう容易ではない。

検索エンジンのポエトリー・ハック。そこから見えるメッセージとは
View-Throughでは「O」開催前の3月中旬から、検索エンジンの"ポエトリー・ハッキング"が実施された。ハッキングといってもスパムやウィルスによる悪質なものではない。彼らの考えに賛同した約2,000人の協力者が、受刑者の創作した6つの"miami inamtes..."から始まる一行ポエムを検索したのだ。それによって"miami inmates"のオートコンプリートはこれらの作品に塗り替えられていった。

プロジェクトは"Don't google miami inmates("miami inmates"と検索するな)"という挑戦的な広告も展開し、ネットユーザーの検索を促した。新聞やベンチに書かれた余白たっぷりの背景と一行の広告に惹かれてまんまとググると、そのオートコンプリートにポエムが現れるのである。
ウェイストたちは検索エンジンのアルゴリズムを逆手に取って、マイアミの受刑者に関する負のオートコンプリートを駆逐しようとした。さらに、このことによってネットと断絶された受刑者たちの言葉をポエムという形で届けることにも成功したのだ。彼女は過去にも言葉にまつわる作品を制作しており、単語レベルでの言葉が持つパワーの大きさを信じている。
ネット上で無力な受刑者にまとわりつく、過度に侮辱的なレッテル。彼女たちはそれらを剥がし、受刑者の声なき声を届けるために検索エンジンをハックしたのだ。
私たちは、ネットの検索が機械的なものであると思ってはいないだろうか。だが、機械的なのは検索のアルゴリズムであって、そこに付与される言葉やキーワードは、時に私たちの偏見や固定概念を露見させる。しかし、現在のオートコンプリートに表示されるマイアミの受刑者たちのポエムは、対象を正しく知ろうとするひとりひとりの姿勢によって社会に停滞する偏見や差別を変えることができることを示している。

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