2016年11月にメジャー・デビューを果たし、ラッパーにプロデューサー、DJらを擁する気鋭のヒップホップ・クルー、KANDYTOWN。東京のストリートをクールに体現した作品群が高く評価され、ソロ活動も盛んで、これまでにオカモトズやSuchmos、WONKらとも共演してきた。今回、FUZEではミックスCD「KANDYTOWN LIFE presents “Land of 1000 Classics” mixed by MASATO & Minnesotah」をリリースしたDJ MASATOとDJ Minnesotahにインタビューを敢行。彼らがそのセンスを育んで来た道筋をたどると同時に、アナログ・レコード、そして渋谷の街に対する想いを聞いた。
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──名門レーベル、Atlantic Recordsの音源をミックスした作品『KANDYTOWN LIFE presents “Land of 1000 Classics” MIX』がリリースされたばかりですが、この作品は全編二人のヴァイナルだけでミックスしているんですよね?
DJ Minnesotah(以下、Mi):今回のために新たに買って揃えたものもあります。お店で見つけたものもあれば、ネットで見つけたものもあるし。
DJ MASATO(以下、MA)もともと持っていたアレサ・フランクリンの『Rock Steady』が、針が飛んでいて使えなくなっちゃったんですよ。それで、よく行くレコード屋の方に速攻「仕入れて欲しい」って連絡して。海外のコネクションを使ってもらって、ゲットしたものもあります。
──最初にレコードとの付き合いについて伺いたいんですが、そもそも、二人がターンテーブルを触ったきっかけは?
MA:俺は、当時大学生だった3つ年上の兄貴がタンテ(ターンテーブル)を買って、それで「始めてみよう」と。最初はヒップホップのレコードを買い始めましたね。その頃は、17歳…高2くらいだったと思います。
Mi :俺の場合、最初はタンテじゃなくて中古のレコード・プレイヤーを買ったんです。でも、針もトレースできないレベルで全然使えなくて。そこからターンテーブルを買いました。
──初めて買ったレコードって覚えてます?
Mi :何だったかな…ヒップホップだったのは間違いないんですけど。
MA:ヤフオクでウータン・クランのセットみたいなレコードを買ったのを覚えてますね。ODBの作品や、アルバムの『Enter The Wu-tang』がセットになってるやつ。
──その頃から、すでにKANDYTOWNのメンバーとは交流があったんですよね?
MA:中学はB.S.CとRyohu君と一緒だったんですけど、二人とも家にレコードがありましたね。サンタ(B.S.C.)君も自分でレコードを買っていて、和モノのレコードが家にあったり。なので、普通にみんなレコードを持っているってイメージでした。
──そこから自然とDJに?
Mi :最初はターンテーブルを二台揃えて、ひたすら二枚使いの練習をしていて。人前でDJするようになったのは、マサト君が渋谷でイベントをするようになってから。それまではサンタ君のバックDJとか、菊丸のバックDJなどを演っていて。
MA:俺の高校は町田のあたりだったんですけど、地元の箱のFLAVAってところで高校の先輩が回してたパーティーが最初かな。その時はもうBANKROLL(KANDYTOWNの前身となるクルー。YUSHIほか、IOやDony Jointらが所属していた)でライブをやってましたね。あとは、渋谷のNo Styleでもずっとイベントを開催してました。身内のパーティーって感じだったんですけど。
──KANDYTOWNのメンバーと話したり実際に音源を聴いたりしていて思うのは、とにかく自分たちが触れている音楽の幅が広い、ということなんです。二人みたいにソウルやファンクをディープに掘っているメンバーもいれば、USの最新の新譜を追っかけていたり、かと思えば山下達郎の名前が出てきたり。Ryohu君はバンド・サウンドとの付き合いも深いですよね。
Mi :不思議ですよね。
──そうしたKANDYTOWNの音楽的なエッセンスってどうやって培われていったのかなと思って。過去を振り返ってみると、どうでしょうか?
MA:昔、YUSHI(BANKROLLのメンバーでもあり、KANDYTOWNメンバー。ズットズレテルズのメンバーとしても活躍していた。2015年、転落事故により急逝)がめっちゃMTVを観ていて、自分はTV番組のBillboard TOP40を観てたんですよ。そこで(アメリカの)チャートの動きが分かるじゃないですか。それで、ファボラスとかジョー・バドゥンとかミッシー(・エリオット)とかそこら辺を「あのPVやばいね」ってYUSHIとシェアして。それで、そのCDを持ってる奴がいたら貸してもらったり、CD-Rを焼いて渡したりとかして、お互いに音楽の情報は共有していましたね。
Mi :あと、YUSHIくんはCDだったりテープだったり、自分でコンピ作品みたいなものを作ってたんですよね。それが回ってきて、曲を知るっていう。
──YUSHIさんも、音楽に対してはかなり早い段階から早熟だった?
MA:そうっすね(笑)。
Mi :あの人は半端なく早かったなと思いますね。15歳くらいのときに、「ソウルが超ヤベえからお前も聴け」とか言ってきて。今思い返せば、「YUSHIくん、なんであのレコードを持ってたんだろう?」って思うこともあるくらい。たとえば、ちょっとマニアックなところだと、バーナード・パーディーのレア盤があるじゃないですか。
MA:『LIALEH』だ! え? あれ持ってたの?
Mi :そう。持ってたのは再発盤だったけど、普通だったら本気でその道を通らないとなかなか辿り着かないだろうなっていうレコードも持っていて。そういうのが、すっごく多かった人だったんですよ。
MA:あいつ、無敵ファンクション(XARPや梵天らからなるラップ・ユニット)とかの人とかも仲がよかったんですよ。彼らはMUROさんの直系の後輩って感じなので、そこでもかなり情報を仕入れていたんじゃないかと思います。YUSHIはMUROさんのミックスCDもソッコーでゲットしていて「何でお前、コレ持ってんの?」って聞いたら「貸してあげるよ」みたいな。YUSHIはMPCでトラックとかも作っていたから、ドラム・ブレイクとかも好きで。知らないジャズのサックス・プレイヤーの曲とかも「これ、このフレーズがヤベえから聴いてみろ」とか。
Mi :本当に「なんであのレコードを持ってたんだろう」と今でも思う。その感性がすごいんです。
──そうやって長年かけて培われたものが、今のKANDYTOWNを構成しているエレメントになっている、と。KANDYTOWNとしてはそろそろメジャー・デビュー1周年を迎えるころかと思いますが。
MA:この一年、結構ハードに変わりました。いい意味で。
──2人はDJとして、ほかのメンバーのことをより俯瞰できる立場でもあると思うのですが、みんなが変わった点はありますか?
Mi :それぞれの意識やバイブスみたいなものが、より本気な方向に変わってきたと思います。制作意欲もすごく感じますし、多分、ラッパーたちは特に「負けてらんねえ」みたいな気持ちになりますよね。そこが、俺的には楽しい。
MA:うん。みんな、向上心がめっちゃ出てきてると思いますし、それがスキルにも現れてると思いますね。
──もう少しレコードの話を伺いたいんですが、二人とも、今もDJはヴァイナル・オンリーで?
MA:自分は全部アナログでやってますね。雑誌の『blast』だったかな、前にDJプレミアが「俺はPCでやるけど、最初からPCでDJをやるヤツはダメだ。どのジャケットがこの曲で、ってことを覚えてないとダメ。だから、ちゃんとレコードを買ってからPCでDJをやるならいい」みたいなことを言ってたんです。俺はそれを信じて、ずっとレコードでDJをやってる感じはあります。でも、ライブのときのバックDJなんかはPCのほうが簡単にエフェクトを効かせることができるし、いい部分もあると思います。
Mi :俺は最近、PCDJの導入にも気持ちが揺らいできているところなんですが、基本的にDJは今もアナログですね。

──二人の世代はデジタル、そしてストリーミング・サービスもかなり自然な形で利用している世代じゃないかと思うんですが、今は音源を購入するのはヴァイナルかデジタルのどちらかという感じ?
Mi :俺は完全にそうですね。昔はCDも買ってましたけど、今はCDを買うことはほぼないです。
MA:俺はたまにCDも買いますけど、MIX CDとかが多いかも。あと親もソウルとか好きなので、プレゼントとしてCDを買おうかな、とか。あと、新譜のレコードを買えば大体ダウンロードのコードも付いてくるし、それはいいですよね。
──最近購入した新譜のレコードは?
MA:ジョーイ・バッドアスの『All-Amerikkkan Badass』。
Mi :レコードで買いたいって思う新譜は一年に一枚くらい。最近だと、もう2年くらい前なんですが、ロス・ステラリアンズっていうカリフォルニアのバンドのレコード。極端な話、トラップとか…たとえばミーゴスの曲がレコードで出ても、ミーゴスをレコードで買うかって言ったら、買わない。
──わざわざレコードで聞く付加価値がないと。
Mi :そう、あまり感じられないですよね。なので、レコードで新譜を買うのは一年に一枚くらいのペースになっちゃいました。
──音楽をフィジカルで所有して聴くという感覚もあまりない?
Mi :俺は全然ないです。音楽は、その時代にあったフォーマットで聴けばいいと思っていて。多分、CDもだいぶ前から終わっているし、音楽の聴き方もストリーミングなどに移行している。それはそれで全然いいと思うんです。でも、『KANDYTOWN LIFE presents “Land of 1000 Classics” mixed by MASATO & Minnesotah』に入ってる曲とかは、違うんです。単純にモノとして持っていたい。
MA:俺もYouTubeなどもあって、音楽そのものがすごく便利で、誰でも身近に触れやすくなったという点ではすごくいいと思う。でも、そのいっぽうで、音楽が安売りされているというか、その点においては、わだかまりみたいなものがありますね。自分はずっとレコードでDJをやってきたし、「いいものは買って手元に置いておきたい」という気持ちがある。自分ではそれが普通だけど、今のもっと若い人の感覚では、全然違うんだろうな、と。
──以前、ほかの若手アーティストにインタビューをした際、その場でSpotifyのアカウントを交換しようという流れになったんです。それで、お互いプレイリストをシェアしあって曲をチェックしましょう、ということなんですけど、「若い子はこうやって音楽を波及させていくんだ!」と思って。新しい曲に触れる経路や、それをシェアする手段もどんどん変わっていくんだな、と実感したんです。でも、レコード屋に行くと、今でもお店の方が書いた手書きのキャプションの情報が重要だったり。
MA:あれ、めっちゃ重要ですね。
──そこは面白いですよね。聴くフォーマットや出会い方を選びながら、同時並行で楽しめる。
Mi :楽曲をダウンロードして新譜を聴いている時期が続くと、その反動で古いレコードを聴きたくなるんです。それで、レコード屋に行くとすごくフレッシュな気分になる。その逆もあって、レコードを聴いて「もう古いのはいいや。新譜聴きたい」ってまたパソコンの前に行く。今はそこが楽しいかもしれないですね。
──今回の特集では「渋谷」がキーワードになっているんですが、Minnesotahくんは宇田川町のFACE RECORDSで働いてたんですよね?
Mi :働き始めたのは19歳くらいのときなので、6年前くらいですかね。働き始めて二日目くらいに、ライムスターのDJ JINさんがお店に来たんです。そしたら、同じ日の数時間後にMUROさんが来て、「わあ!」みたいな。MUROさんたちのことはほかのお店で見かけたこともありましたけど、俺が働いているところにお客さんとして来てるっていうことに感動して。何ていうか、「やっぱり違うな、ちゃんと渋谷にいるんだな」っていう感覚を覚えました。それはすごく印象に残ってますね。
──ちなみに、大手レコード・ショップのCISCOが閉店したのが2007年なんですよね。渋谷HMVの閉店は2010年で。
Mi :そうなんです。俺は、宇田川町のレコード屋ブームみたいなものが落ち着いて、一通りお店もなくなってきたタイミングでレコ屋で働き始めて。だから、本当に渋谷のレコ屋が超盛りあがってた時期というのは、体感したというより先輩たちから話を聞いて「いいなあ」みたいな感じ。なので、その頃のユニティ感みたいなものに憧れますね。何か一つのものに向かっていくというか、そこがすごく羨ましいなと思います。「あの頃はみんなこの曲を聴いてた」とか、あるじゃないですか。
──確かに、今よりも<時代のアンセム>みたいなものは濃く存在していたと思います。
Mi :今もそれぞれ、そういう曲があると思うけど、結構細分化されている気がします。
MA:それに、昔の宇田川町は、もっと「ヒップホップがめっちゃかっこいい」みたいな一体感があったように思いますね。「あそこに行けばB-BOYっていわれてる人たちがたくさんいる」みたいな。


──<渋谷=音楽をディグる場所>みたいな実感はありますか?
MA:やっぱり、見た目もカッコよく見せたい、みたいな気持ちがあるじゃないですか。だから最初、渋谷には服を買いに来て、そこから音楽も掘り始めていった感じですかね。今はもうないんですけど、NOMADSってアメリカから服を輸入していて、90年代のヒップホップとかのPVを流してるお店があって。高校のときに、よく菊丸とかと一緒にNOMADSに行って、その帰りにマンハッタン・レコードに行ったりとか。そういう感じで、服も買いつつレコードも買って、音楽に触れる場所って感じです。
──今、渋谷に行くと何して時間を過ごすことが多いですか?
MA:目的を持っていくことが多いので、レコードを買ったり誰かと飯食ったり…あとはライブがあったり。
Mi :個人的には、ふと渋谷のレコード屋に行って誰かに会って「今日イベントなんだ」って会話をして、実際そのあとに遊びに行く流れが一番いい1日のような気がするんですよ。そういう日の渋谷は超楽しくて、すごく充実した遊びができた、みたいな。そういう感覚は今もありますね。
──渋谷といえば、IOさんはかつてBOOT STREET(ヒップホップのMIX CDなどを専門に販売していた店舗。2011年に閉店)で働いていたし、GROW AROUND(宇田川町の老舗アパレル・ショップ。ラッパーのB.Dらも勤務し、現店舗はかつてBOOT STREETが店舗を構えていた数件隣に位置し、かつてはVIKNやC.Tらも勤務していた)にはかつてYOUNG JUJUさんが勤めていて、今もMIKIさんがお店に立っている。宇田川町の、しかもかなり至近距離内にそれぞれKANDYTOWNのメンバーがいたという。
Mi :IOくんがBOOT STREETからいなくなってから、俺がFACE RECORDSに入って、そのちょっと後にMIKIが、続いてJUJUがGROWAROUNDに入ったんです。ちょくちょくヤツらがB.D さんと昼飯に行くのを見てたり。そんな感じでした。
──当たり前ですが、二人もこういう経験をして、今は次の世代の子達が渋谷にいるという状況ですよね。話が戻りますが、今回のMIX CDを聴くと、そろそろ二人も次世代にいろいろなものを伝えていくタイミングになってきているのかな?と感じました。CDには自分たちで執筆したライナー原稿も封入されているし。
MA:本当にそうですね。新譜のものはネットでどんどん出てきて自然と情報が入ってくるかもしれないですが、古い曲は探そうと思わないと探せないと思うんですよ。なので、こういう形で知ってもらいたいなと思いますね。
Mi :ライナーを書く段階になって、あらためて楽曲のことを勉強したんです。そうしたら「知りたい、知りたい」という感情が戻ってきて、フレッシュになれた気がする。特に、諸先輩からは好評を頂いていて嬉しいですね。
──今も渋谷でレコードを掘ることはありますか?
Mi:今でも普通に掘りに行ってます。俺たちはどんどんレコード屋が小さくなって、なくなってっていく様子も見てきたし…。
MA :そうっすね。一回、盛り上がりが落ちたときもありますけど、今はもともとDMRだったところにもHMVが出来たし、レコード文化が戻って来てるのかな、と感じています。それはいいことだなと思いますね。
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MASATOとMinnesotahの視点をとおした渋谷の風景。あの頃の雰囲気に想いを馳せつつも、今の時代にしっかりと焦点を合わせ、みずからが選んだ方法で音楽を「ディグる」二人を頼もしく感じた次第だ。
『Land of 1000 Classics Mixed by MASATO & Minnesotah』2017年8月30日 (水)リリース¥2,500(税抜)1. Ray Charles / I Got a Woman2. Wilson Pickett / In The Midnight Hour3. Wilson Pickett / Something You Got4. Arthur Conley / Shing-A-Ling5. Solomon Burke / Cr y To Me6. Don Covay / Mercy, Mercy7. Archie Bell & The Drells / A Thousand Wonders8. Harvey Averne Dozen / Think It Over9. Mongo Santamaria / Hold On, I’m Coming10. Aretha Frankln / Rock Steady11. Eddie Harris / It’s Crazy12. Eugene Mcdaniels / Supermarket Blues13. Andy Bey / Experience14. Sam Dees / Come Back Strong15. Spinners / I’ll Be Around16. Ace Spectrum / If You Were There17. Gene Page / Into My Thing18. Anglo Saxon Brown / Gonna Make You Mine19. Persuaders / Somebody ’s Got To Me Lover20. Margie Joseph / Come On Back To Me L over21. Richard Evans / Mercy Mercy Me22. Aretha Franklin / Daydreaming23. Prince Phillip Mitchell / Make It Good24. Johnny Bristol / Do It To My Mind
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