渋谷という街がその姿を常に変化させていくなかで、この街とミニシアター文化の関係も少しずつ形を変えてきた。あらためて口にすることはなくても、考えてみると渋谷はミニシアターの街だ。上映中の映画を探せば、無意識のうちに渋谷の片隅にある小さな映画館たちにたどり着くことは少なくない。久しぶりに足を運んでみると、そこにはもう別の建物があったりして、もの寂しい気持ちにもなる。だが、今も数々のミニシアターがひっそりとしかし確かに存在し、カルチャーの源泉となって息づいている。
もしもあなたがその作品を観たことがあっても、渋谷という不思議な街に人工的な郷愁を馳せながら再生ボタンを押せば、いつもと一味違ったテクストを感じられるかもしれない。
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INTO THE ABYSSヴェルナー・ヘルツォーク(2011・ドイツ)
ドイツの巨匠ヴェルナー・ヘルツォークの日本未公開作品。テキサス州の死刑囚マイケル・ペリーとの獄中でのインタビューを中心に構成。事件の背景や犯行の動機を映す以上に、獄中で無罪を主張するペリーという人物の天才的な物の語りと、仮面の下に潜む猟奇的な内面世界が炙り出されていく過程が面白い。当初5時間のテレビドキュメンタリーシリーズとして製作されたが、映画版として107分版が完成するも、日本では未公開のため、欧米ドキュメンタリーを多く上映する渋谷では是非観たい。
Der Imker(Bee Keeper)マノ・カァリル(2013・スイス)
2014年第9回難民映画祭でジャパンプレミアされその後日本では未公開のドキュメンタリー。
養蜂家だったトルコ系クルド人のイブラヒムは迫害を受け難民としてトルコからスイスへと行き着く。新たな地で生活をし始めるも、クルディスタン労働者党(PKK)で活動する息子の訃報を新聞で目にし絶望するも、多くの人々に支えられながら山間の村で養蜂を始動させ新たな人生へと歩みだす。難民となった者が抱える心の傷を美しいスイスの山間の風景とともに映し出す。渋谷には国連大学があり、難民問題をはじめ多くの国際社会問題をテーマにしたシンポジウムが開催されています。ダイバーシティーを掲げる渋谷で是非観たい。
UNTITLEDミヒェエル・グラヴォガー、モニカ・ヴィリ(2017・オーストリア)
2017年ベルリン国際映画祭パノラマ部門で上映された、オーストリアのドキュメンタリストの故グラヴォガーと、パルムドール2回、グランプリ1回、監督賞1回に輝くハネケの編集を手がけてきたヴィリの共同監督作品。グラヴォガーは、「テーマを決めない旅」を主題に、東欧、北アフリカ、西アフリカへと旅立つも、マリ共和国で病によって命を落とす。大量に残った「無題」の素材を盟友のヴィリが手にし、繋ぎ合わせた亡き盟友に捧げる追憶のロードムービー。ヨーロッパでは著名な監督だったが、日本ではこれまで未公開。知られざる名匠の最新作/遺作は、1に紹介した作品と同様、欧米ドキュメンタリーの発信地である渋谷で上映されることが望ましい。
有田浩介サニーフィルム代表。2004年メジャーレコード会社勤務よりフリーランスへと転職。2010年にサニー映画宣伝事務所名義で映画宣伝へと転職し国内外のドキュメンタリーを中心にパブリシティー業務に従事する。2015年に『シリア・モナムール』を初配給する。2017年サニーフィルムへと改名し、国内外の映画祭を周り、映画の買い付け、国内の劇場や地域の美術祭での上映をしている。映画の発掘、契約、制作、営業、宣伝を全て一人で行う、「一人でもできる映画配給」(マイクロディストリビューション)を目指している。2017年は1月末に『サファリ』(イメージフォーラム)、6月末に『A GERMAN LIFE』(岩波ホール)の配給が決まっている。
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