2015年に日本で開局されたインターネットテレビ局、AbemaTV(アベマTV)。このプラットフォームが定額制、いわゆる「サブスク」型のNetflixやHuluと決定的に異なる点は、無料でコンテンツをリアルタイム視聴できることだ。インターネットさえ利用できれば、誰しも楽しむことができるAbemaTVは、日本人がさまざまな海外ドラマに触れるための最初の扉になりうるのではないだろうか。

そこでFUZEは、AbemaTVの編成制作本部長でサイバーエージェント執行役員の藤井 琢倫に話を聞いてきた。AbemaTVが海外ドラマに対しどのような感触があるのか、また2016年7月から11月まで開設されていた海外ドラマチャンネルはどのようなものだったのか。話を聞いていくなかで、日本国内でドメスティックに展開することの強みと難しさ、海外ドラマと視聴者を繋げる将来的な可能性が見えてきた。
──現在、AbemaTVで放送している『フルハウス』や『プリズン・ブレイク』などの海外ドラマはどのように選んでいるのでしょうか?
藤井 琢倫(以下、藤井):作品はドラマのプロデューサーが決めています。まず『フルハウス』ですが、これは『フルハウス』というひとつのジャンルとして、すでにAbemaTVユーザーに定着していますね。ファン層が圧倒的に厚く、どんな視聴者にとっても、いつでもストレスなく観られる作品なんです。みんな、なんとなく見ちゃうっていう。なので、AbemaTVでは年中継続的に配信しています。
いっぽう『プリズン・ブレイク』のような作品については、ユーザーが一度は観たことがあって、コメントしやすい、という観点で選んでいます。みんなで観ることでコメントが盛りあがって面白い。大きくわけて、このふたつの軸から作品を選んでいますね。
──AbemaTVの海外ドラマプログラムは現在、日本のドラマや映画とともにドラマチャンネルで放送されていますが、国内作品と海外作品でユーザーの反応に違いはあるのでしょうか?
藤井:本質的には変わらないなと思っています。共通して、コメントが盛りあがる作品は人気ですね。ツッコミどころがあるというか。みんなでああだこうだ言いあえるネタが詰まっている作品は、邦洋関係なくみられます。日本の作品だと『勇者ヨシヒコ』シリーズですね。
「一気見」はAbemaTV向き?
──2016年7月から11月まで開設されていた海外ドラマチャンネルについて、閉鎖の理由を教えてください。
藤井:当初、海外ドラマを好きな人がAbemaTVユーザーにも多くいると思っていました。ですが、当時はそういったコアな海外ドラマファンがまだAbemaTVを利用していなかった、というのは理由のひとつかもしれません。特に奥が深いドラマだったり、1話完結ではなく、1話から見ないと成立しない作品に関しては、AbemaTVには向いていないなと思いましたね。
──世界的に、ドラマの全エピソードを一気見する「ビンジ・ウォッチ」というスタイルが定着していますが、そのスタイルについてどのようなことを考えていますか?
藤井:今の海外ドラマには、一気見の文化が根づいていますよね。ただ、AbemaTVの場合、ひとつのタイトルを一挙配信してそのとき視聴者が一気見をしてくれたとしても、翌週にそのユーザーがもう一度来てくれるとは限らないんです。
たとえば、当時AbemaTVの海外ドラマチャンネルでは『ゴシップ・ガール』など本当にメジャーな作品から、知る人ぞ知る話題作までいろいろな作品を織り交ぜて編成していました。ですが、ユーザーが3〜4タイトルの海外ドラマを継続して視聴するスタイルは作ることができませんでした。思わず一気見したくなるような、腰を据えて何時間も視聴する重厚感のある作品の場合、AbemaTVではなくNetflixやHuluを利用するのではないでしょうか。
──NetflixやHuluとは異なるAbemaTVの大きな特長として、基本的な視聴が無料という点があります。それだけたくさんのユーザーが入ってくるぶん、需要も老若男女分け隔てなく楽しめるコンテンツに傾いているのではないでしょうか?
藤井:AbemaTVの場合、みんなで作品にコメントしながらワイワイ楽しむ視聴スタイルのほうが向いていますね。なので、その思想や方針で番組編成をしています。今も特定の時間は海外ドラマを配信し、なんとなく雰囲気やストーリーを知ってる人たちが「次はこうなるぜ」とか「こういう展開だよね」みたいなコメントを交わす視聴スタイルを築こうとしています。
──ちなみに、韓流・華流ドラマチャンネルについてはどう考えていますか?
藤井:韓流・華流ドラマチャンネルの場合、海外(欧米)ドラマと属するファン層が違って、ユーザーはほぼ女性です。かつ、作品単体ではなく、チャンネルそのものに定着してくれるんです。AbemaTVでは、チャンネルに対してファンがつかないとチャンネルの規模が大きくなりません。海外ドラマの場合、作品に注目してくれても、チャンネル自体に定着してもらうことが難しかった印象がありますね。
AbemaTV流のヒットの定義
──ジャンルとしての需要がAbemaTVにとっては重要なんですね。リアルタイムで反応しやすい番組ということで、バラエティ番組についてはどうお考えですか?
藤井:バラエティだと、SNSで話題になりやすい企画を単発で作ることができます。『亀田興毅に勝ったら1000万円』だったり『72時間ホンネテレビ』は、TwitterやYouTubeで話題になることでさらに大きな注目を集めました。ほかにもティーン女性向けの番組『オオカミくんには騙されない♡』シリーズも、SNSを中心に人気が集まっています。
AbemaTVは、ターゲットとして主にティーンの女性ユーザーに注目しています。海外でも、わざわざお金を出してコンテンツを見るユーザーは30代以上の男性が中心で、おのずと、プラットフォーム側も彼らにウケるコンテンツをメインに作っているんですよね。いっぽう、ティーンに向けて本格的にコンテンツを作っているメディアはYouTuber以外にはなかなかありません。だから、無料である強みも生かして本格的な作品を若者にぶつけていけば、AbemaTVにユーザーを定着させていけるんじゃないかと考えています。
──『#声だけ天使』や『やれたかも委員会』など、AbemaTVはオリジナルドラマも制作されていますが、AbemaTVにとってドラマとはどういうものなのでしょうか?


藤井:ドラマがヒットするひとつの大きな条件は、ユーザーが継続して視聴してくれるかどうかだと思っています。ドラマは、後半になるにつれてユーザーが増えていくものです。ユーザーが「次が気になって来週も見てくれる」かどうかで、継続視聴に強いモチベーションを作ることができるんです。キラーコンテンツになりやすいという点では、多少コストをかけてでもオリジナルドラマづくりに力を入れていきたいですね。
日本で海外ドラマからチャレンジできること
──番組制作や編成にあたって、テレビは意識していますか?
藤井:テレビに対抗する、ということは意識していませんが、テレビ番組と同等のクオリティの作品を作っていくことは意識しています。視聴者にはいまだに先入観もあって「結局、インターネット動画のレベルでしょ」と思われがちなので。また、無料で24時間編成された複数チャンネルを視聴できるサービススタイルはAbemaTVがそこで勝負をしかけようとして作ったものなので、今後も貫いていくところだと思います。
──『フルハウス』などを継続して放送している今、海外ドラマで視聴者にどんなアプローチを目指しいているのでしょうか?
藤井:海外ドラマの作品に対し、壁をなくしていく視聴スタイルを作りたいなと思っています。そのスタイルというのは「みんなでワイワイ見る」ことです。コメントももっと盛りあがるといいですね。作品そのものを楽しむだけではなく、視聴スタイルを楽しむ。今後はそういったことを海外ドラマでチャレンジしてみたいですね。さらにそういった視聴スタイルにマッチする作品を積極的に取り扱っていきたと考えています。
──AbemaTVにとって、海外ドラマにどんな可能性を感じますか?
藤井:編成として海外ドラマ枠を作って、そのなかで新しい視聴スタイルにチャレンジしたいと考えています。理想としては、毎週、新作ドラマの一挙配信ができたらいいなと。毎週決まった時間に新作を一気見できたら、視聴者もファンになって定着してもらえるのではないかと思っています。「土曜っていつも新作を一気見できるから、昼からAbemaTV見るんだよね」というような視聴習慣にできたらいいですよね。今すぐそれを実現するのは難しいですが、そこまでできたらベストです。キラーコンテンツを編成して、毎週定時にみんなが集まってきて、コメントも盛りあがって、SNSで拡散もされるプラットフォーム。これが次のフェーズかなと思います。
取材後、藤井がこぼしたこんな言葉がとても印象的だった。
“いま『ブレイキング・バッド』を見直しているんですが、めちゃくちゃ面白いんですよね。でも、この作品はNetflixでしか見ることができないんです。有料会員制のサービスが作品を独占していると、日本のユーザーの一定層にしか広まってはいかないですし、知られる機会も少なくなる。当然、魅力的なコンテンツを独占配信することはビジネスにおいては重要な戦略なんですけどね”
つまり、日本において海外ドラマが浸透しづらい理由のひとつには、海外ドラマを配信するプラットフォーム自体が閉鎖的であることが考えられるのだ。インターネットさえあれば誰もが無料でコンテンツを視聴することができるAbemaTVは、日本の視聴者にとってあらゆる海外ドラマの入り口になる以上の可能性を秘めている。それは、日本人のコンテンツ受容やリテラシーの指針となっていくかもしれない、ということだ。
だが、その可能性を切り開くには、さらに多くのユーザーが定着する必要がある。そのためにもこのプラットフォームは真価を保ち続けなければならない。そして私たちユーザーが「視聴」にコミットできるか。それが入り口の扉を開ける原動力なのだ。
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