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13#海外ドラマは嘘をつかない

テレビはネットを超えるべきか? “テレビ離れ”しない放送文化の作り方

DIGITAL CULTURE
ライターabcxyz
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いまテレビの話題が絶えない。

動画ストリーミングサービスと比較されるテレビ。欧米で騒がれる「コードカッター」(Cord Cutters)や「コードネバー」(Cord Nevers)に世界が向い始める進化のなかで、日本は業界の収益構造の弱点ばかりが露呈し、映像コンテンツプラットフォームの議論の場にも立てていないのが現状だ。

このように「動画コンテンツ消費の未来」の議論が世界で拡がるなか、北欧のフィンランド人たちが、小さなストリーミング改革を起こしている。そこには、日本が探しているストリーミングとテレビが統合する民主的な未来を垣間見ることができる。

人口わずか550万人のフィンランド。もちろんこの地でも動画ストリーミングサービスは人気だ。Statistaによれば、フィンランドでサブスクリプション型の動画ストリーミングの収益は年々あがってきているし、Netflixも好調。昨年HBO Nordicで『ツイン・ピークス The Return』が公開されれば、首都ヘルシンキの地下鉄駅には巨大なビルボード広告がデカデカと張り出され、ラジオやYouTubeでも広告が頻繁に打たれていた。そう聞けば、定額制動画配信市場が定着しきれていない現在の日本にとって、いかにフィンランドで動画文化が支持され、意識されているかが見えてくるはずだ。

テレビ局のオンライン化、すなわちテレビ番組のオンライン配信の点で、フィンランドは日本のはるか先をいっている。フィンランドでは、10年以上前となる2000年代後半からテレビ放送とインターネットとの融解が始まり、一般人の間に馴染んでいるのだ。この融合を大きく主導したのは、なんといってもフィンランド国営放送YLEだろう。放送局としてのYLEは、テレビだけでなくラジオにも複数のチャンネルを持ち、文字主体のオンラインニュースメディアも運営している。

国営放送によるオンライン配信

YLEがウェブサイト「Yle Areena」でテレビとラジオのネット放送を開始したのは2007年のこと。現在放送中の番組をテレビと同時に生でストリーミング配信するサービスは2013年から始まった。今ではモバイルアプリからの閲覧も可能で、パソコンからスマホ、タブレットを通じて国営放送が放送されている。放送後もニュースはもちろんのこと、国内外のテレビドラマ、映画、音楽番組などを見返すことが出来るアーカイブ機能がある。放送時間に間に合わなかった番組は、YLE Areenaで番組の頭から観ることも出来る。

ではYLEはどうやって運営されているのか? 実はYLEは無料ではなく受信料を徴収してきた。しかし、徴収する仕組みは日本とはまったく違う。

国営放送であるYLEの受信料は公共放送税として所得税に含まれている。料金は現在、163ユーロを上限として年間所得の2.5%となっている。以前は日本のNHKのようにテレビの有無で支払う仕組みであったが、2013年からこのように税金に含まれるものとなっている。国営とはいえNHKと同じように「政府から独立した公共放送事業体」、つまり政府とは独立した機関であり、現政権から圧力を受けて予算を減らされたりすることができないよう、法律によって守られている(とはいえ昨年は現首相の「シピラゲート」事件に関連し、首相の意向に沿う形で方針を変えた当時のYLE編集局長などによる決断をしたことなどがあり、世界報道自由ランキング5年連続1位の座から転落している)。

YLE Areenaは、納税者が料金を支払っているネット配信サービスだと考えることもできるだろう。だが、視聴料を支払っているにもかかわらず、番組ごとや、定額見放題サービスに支払わないとその多くは楽しめないNHKとは違い、YLE Areenaの番組や機能はすべて無料だ。そしてYLE Areenaを利用して番組が見たい人はサイトに登録する必要すらない。

面白いことに、YLE Areenaで公開されている番組は、一部海外からも視聴できる。フィンランドに税金を納めていない人でもYle Areenaにアクセスするだけで視聴可能なのだ。NHK受信料を払っている身からしてみれば、税金を払っていない人も無料で視聴できるというのは、不公平に思えるかもしれない。だがYLEの場合はフィンランドに納税している者であれば払わないという選択肢はないので国内の不公平感はまずない(下記編集注)。

それに、自分たちの税金で作られているものを海外の人が無料で視聴できるとはいっても、そもそも海外から視聴できる番組はそう多くない。それらの番組に用いられる言語は国語であるフィンランド語が主だからだ(もうひとつの母国語であるスウェーデン語のものも少しはあるが)。

フィンランド国民が550万人であるのに対し、フィンランド語話者は世界に600万人程度しかいない。その多くは海外に住むフィンランド人やその家族、そして海外でフィンランド語を勉強する人たちだ。そのため、海外の視聴者はそもそもフィンランド語という世界的に比較的希な言語を解さない限り、番組内容の理解も難しい(なお日本語話者は世界に10億8900万人程といわれる)。独自の言語、文化を持つ小国からしてみれば、海外に住む自他国民に言語と文化に興味を持ってもらえることはとても嬉しいことで、この点でも不公平感は低いようである。手間やコストをかけて受信料を支払っているかどうか判別してまで視聴の可否を出すことに意味を見いだせるほどの人口がないのもひとつかもしれないが。

編集注:厳密に言えば自治領オーランド諸島の住民である場合や、年収が1万4000ユーロ以下である場合は公共放送税は免除される

民放のオンライン配信

まあ、広告収入など気にしなくてもいい国営放送だからそんなこともできるのだろう、なんて思われるかもしれないが、フィンランドではネット放送を行なうテレビ局は国営放送YLEだけではない

民間放送局であるMTV3が運営するのは、同系列局の番組をテレビと同時にネット配信/アーカイブ配信する「MTV Katsomo」。アカウントを作る必要こそあるものの、無料で視聴が可能だ。そしてYouTubeやSpotifyなどのネットサービスを無料で楽しむことができるのと同じように、視聴にともないネット動画広告が流れる(これにくわえてテレビ放送と同じCMも流れるが)。MTV3はこの無料の動画配信サービスのほかにも、海外の映画やテレビシリーズ、F1やMoto GP、アイスホッケー、スキーなど、フィンランドで人気のあるスポーツなどを放送する「C More」という有料の配信サービスも行なっている。

同じく民放のNelonen系列のチャンネルも「Ruutu]というネット配信/アーカイブ配信サービスを提供している。こちらでは無料番組はアカウントを作らずとも視聴できる。無料番組はMTV Katsomoと同じように視聴時に動画広告が流される。有料番組の視聴にはサブスクリプションが必要だ。

視聴者にもたらされた自由

日本の状況をみれば、デジタルテレビ放送をスマホで受信しテレビを観るために、アンテナが必要なワンセグ/フルセグ対応スマホといったガラパゴス的進化が行なわれていたこともまだ記憶に新しい。

しかし、テレビ番組がネットで配信されれば、無駄に特殊な機能がついたデバイスは必要ではなくなる。テレビ放送を見るという単一の目的のためについたアンテナがどれだけデバイスとその利用者の自由を奪っていることか。自由の制限が機能すれば、利用者の囲い込みができるので、売り手には諸刃の剣である。うまく囲い込みができれば、その囲みを大きくすることも可能になり、より利用者に自由が与えられることになるのだが(VHS/ベータマックス、Blu-Ray/HD DVDなどのフォーマット戦争はこのいい例だろう)。

話が逸れたが、映像を映しだす機械としての「テレビ」は、「テレビ放送」がなくとも映像を映しだすディスプレイとしてすでに長年存在している(たとえばレーザーディスクの再生専用にテレビディスプレイを用いるなど)。それに、映像を映しだす機械としてはテレビ以外にもパソコン、スマホやタブレットなど、ディスプレイ一体型デバイスが普及しており、その多くはインターネットに接続されている。ある意味インターネットに繋がったディスプレイというものは今やユビキタスな存在なのだ。

フィンランドではテレビを持たずしてノートパソコンやスマホで、YouTubeではなくニュース番組を見るという若者が私の身近に数多く存在する。友達におすすめの番組のリンクを送ったり、「あのドキュメンタリーよかったよ、ネットで観てみたら」なんて会話も、YouTubeだけのものではない。YLEで放送されるテレビ番組や、YLE Areenaで公開されている番組アーカイブのリンクを友達間で送りあうことも、私の身の回りでは一般的だ。ネット配信が普及していない環境だったら「あの番組良かったよ。誰か録画してるか、ソフト化されるか、近いうちに再放送があるといいね」となるわけだが、そんな時代はもう過去のもの。「テレビ放送」、「テレビ番組」といった枠組みは徐々に崩れ去り、それが「動画配信サービス」、「番組」に置き換わってきているのだ。

フィンランド人の妻の祖母(80歳)の家のテレビもいわゆる「スマートテレビ」になっており、YLE Areenaからの放送を見ることができるようになっている。彼女によれば、「放送される時間に見逃すことを恐れずに、自分の自由な時間に番組を見ることができて便利」とのことだ。海外のテレビシリーズなどだと、配信期間は1週間程度と短いが、大抵国内番組の配信期間は長めで、ものによっては11ヶ月以上というものもある。それだけの時間的余裕があれば、放送される番組にあわせて自分の予定を立てることも、面倒な録画の準備をすることもない。

フィンランドの独立記念日12月6日にはフィンランド大統領官邸に著名人達を集めた祝賀会が行なわれる。またクリスマスには古都トゥルクにてサンタクロースが平和宣言(クリスマス中には犯罪を犯さない、小さなことで怒らないというようなことを宣言する)をする。このような国民的催しをYLEが報じ、国内ではもちろんのこと、海外滞在のフィンランド人たちもその様子をスマホやパソコンでみながら祝うのだ。

海外に旅行や留学、移住してなお、自国の伝統行事をネット配信で生でみることができる環境に育った若い世代のフィンランド人たち。その真逆が日本の放送環境だ。

日本在住の者たちからは時折、ネットで番組の配信を行なう日本のテレビ局のほとんどが海外からはアクセスができないことへの不満を聞く。特に年末年始にフィンランドに帰省して居るときに「なぜNHK視聴料を払っているのに『紅白歌合戦』をネットで視聴できないのか!」といった具合だ。もちろん音楽などは国により配信権などもややこしいので難しいだろうが、そういった人たちが視聴の自由を求め、著作権的にグレーなサービスを使おうとするのを止めるのもまた難しいことだろう。

テレビ放送は生き残るか

世界ではテレビの生死が議論されている。従来のテレビ局が今後も存続していくことを望むのであれば、ネット放送に力を入れるのは必然的進化だろう。日本でも時折「ネット放送にテレビ放送は勝てるのか」などの記事が目につくが、そもそもテレビ放送もネット放送も「映像を視聴者に提供する」という点では同じものだ。

違うのは、視聴者の自由度の高さがネット放送にはあり、テレビ放送にはないということ。放送されるコンテンツがどれだけ面白くとも、時間や場所、視聴デバイスが制限され、他者とのコンテンツ共有が難しい現在の「テレビ放送」というプラットフォームは、今後廃れていく。(ただ、完全になくなりはせずに、黎明期の動画配信サービスのようなニッチさを持った存在として続いていくのではないだろうかとも思うが)

従来のテレビ放送局にとって、この競争が行き着く未来は、突き詰めればテレビチャンネル数の増加にほかならない。インターネットディスプレイのユビキタス化に伴う映像コンテンツのプラットフォーマー増加から絶滅を逃れることができるのは、視聴者に自由を与える新しい選択肢で、面白い番組を作ること/作らせることができる会社、うまく放送の権利を獲得できる会社、スポンサーを得ることのできる会社が集まる新しい放送のモデルだろう。だが、放送の権利とスポンサーをつけることにおいては従来のテレビ局に地の利があるという意識が根強いここ日本は、はたして今の速度で世界標準の進化の波を乗り切れるかどうか。

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Image: Mikael Broms/Shutterstock.com
Source: Statista, 日本人, Yle Areena, Vero Skatt, NHK, 空耳フィンランド語!(1, 2), C More

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