今回、FUZEの特集企画で取り上げるアメリカの合法大麻事情は日本に伝わってくる様子よりも違っていた。
2017年の大晦日、CNNはニューヨークの喧騒極まるカウントダウンイベントの最中、看板キャスターのアンダーソン・クーパーとジャーナリストのランディ・ケイはコロラド州デンバーを中継で結び、笑い声と興奮に満ちたマリファナ・パーティーからの生放送を全米に流した。
2018年1月、娯楽用マリファナが合法化したカリフォルニア州で毎年開催する音楽フェスティバル「コーチェラ・フェスティバル」のオーガナイザーたちは、会場でのマリファナのいかなる使用を禁止するといち早く表明を示した。
昨今、アメリカの「マリファナ・バブル」の狂騒が、日本でも徐々に伝えられ始めてきたが、「大麻」の犯罪報道が常である国内だと、未だに触れること自体がタブーであると感じる人は多いはずだ。そして、こうした見方はさほど目新しい話でもない。
FUZEでマリファナの特集企画を始める時から、日本にも伝わっているマリファナ業界の「バブル」は、テック業界やスタートアップ・コミュニティの「バブル」とは全く違うものだが、なぜだか似たもののように語られる事に違和感を感じてきた。もちろんマリファナ業界にも、モバイルアプリやスマート・ヴェポライザーなどを作るテクノロジードリブンな起業家たちが生まれてきたが、彼らはほんの一握りの先駆者でしかないし、そもそもの業界全体がスマートフォンやソーシャルネットワーク、自動運転、スマートシティといった技術革新によって牽引されてもいない。そして社会の変革を目指すテック業界のようにエスタブリッシュされた産業に見られる特権階級のヒエラルキーが露骨に持ち込まれているわけでもなさそうだからだ。
そんなことよりも、CNNやコーチェラというメディアやフェスといった日本人に馴染みのある領域にさえその影響が届いているという現実にワクワクした。アングラでストリートで違法だったマリファナの「メインストリームカルチャー化」が想像以上の速度で進行していることに面白みを常に感じてしまった。
つまり、マリファナの無いアメリカにもはや戻ることはない。新世界の社会基準が根を張り始めているのだ。
大麻のパラダイムと合法化の関係
マリファナで語れるテーマは多様化している。音楽や映画など、新たなカルチャーや表現の台頭から、産業の創出、メディアやジャーナリズムの役割、都市や自治体の参加、法規制、政治、税政策といった可能性や難題に直面させられる。そして、それらをどう取り扱うか、どう解釈するかについては、コロラドやワシントン、オレゴン、カリフォルニアは議論を繰り返して、今に至っている。
トランプ政権下のアメリカで、お互いの価値観やコミュニケーションを過激なまでに拒絶する人の発言力が高まる中、ミレニアル世代を象徴する音楽やファッションのアイコンたちがステレオタイプを超越するほどの洞察力でドラッグをモチーフにした表現を風刺に使ったり、住民投票やジャーナリズムというグラスルーツ的なアプローチが果たす役割が改めて重要視されたりする動きは、多くの若者にインスピレーションを与え、黙っている人を勇気付けてくれる。
今やアメリカや世界は、これまで社会の不道徳とされてきた「問題」を、都市の一部やカルチャーの一部として受け入れること、過去の認識や知識を180度転向することに挑んでいる。これが実現できるなら、それこそが現代最大のイノベーションだ。けれども、今回のテーマ「マリファナ」を別の問題に置き換えてみるとすればどうだろうか。あらゆるレイヤーの人や社会が抱える問題の解決や、まだ実現していない可能性に向けて、あらゆる角度からあらゆる人がアプローチできるはずだといえないだろうか。
CNNとコーチェラ・フェスティバルのマリファナ話には後日談がある。
トランプ寄りなメディアのフォックス・ニュースで番組を持つ保守派で有名な名物司会者のショーン・ハニティ(Sean Hannity)は、「マリファナ中継」が視聴率目当てのためで、CNNは「Cannabis News Networkだ」と番組で非難している。
そしてコーチェラ・フェスティバルの決断は、マリファナ推進派のフェスの常連客たちがカリフォルニア州の裁判所に不服を申し立てた結果、「会場のポロ競技場はコミュニティスペースであり、地方自治体のルールが適応される」ため、マリファナ規制を禁止するという裁判官の見解によって覆されたのだった。
こうした対立や是非を問う議論は、合法化が相次ぐアメリカでも続いている。だが、現代のマリファナ業界は、政治的価値観を押し付けたり、世代別対立を煽ったり、保守派を否定する感情的なプロテストへの参加も強制しない。マリファナがカウンターカルチャーを象徴した時代はもう前世代のファンタジーなのだ。
目的と価値消失
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