AIが脚本を書く時代、「クリエイティビティ」はいつまで人間の特権か
IDEAS LAB今まで、「クリエイティビティ」は人間だけに備わっているものだと考えられてきた。しかしディープラーニングの発達により、その前提は揺らぎ始めている。
すでに音楽の分野では人工知能が作曲した曲が一般披露され、今年の3月にはSF小説賞「星新一賞」で人工知能を使って書いた小説が一次選考を通過した。
そして、今年6月にロンドンで開催された「SFL 48-Hour Film Challenge」コンテストで、人工知能(AI)が脚本を書いたSF映画が公開された。
video via Ars Technica『Sunspring』 失業者が増え、若者は生きるために血を売るディストピア世界が舞台。「H」、「H2」、「C」という3人の男女が登場し、前半は彼らの三角関係が描かれる。後半はうって変わって、Hが宇宙空間に立ったり、ショットガンを解体して口に入れたりと不条理な展開が続く。約8分の短編。
『Sunspring(サンスプリング)』と題されたこの映画は、ベンジャミンという名前のLSTM・AIによって書かれたものだ。LSTMとは、「long short-term memory」の頭文字で、「過去の単語列を元に、次にくるべき単語を予測する」システム。いわばスマートフォンの予測変換機能をさらに発展させたものだ。
ベンジャミンは『Sunspring』の監督であるオスカー・シャープ氏の学友でAI研究者のロス・グッドウィン氏が作り上げた。ガーディアンによれば、彼はベンジャミンに、『ゴースト・バスターズ』や『フィフス・エレメント』、『2001年宇宙の旅』といったSF映画の脚本を読ませ続け、それらをもとに『Sunspring』の脚本を書かせたという。結果的に『Sunspring』は、「SFL 48-Hour Film Challenge」コンテストで、100以上の応募作品の中でトップ10に入る高評価を得た。

"We're going to see the money."(「お金に会いに行くの」)といったように、ベンジャミンが書いた会話はシュールで支離滅裂な部分もあり、またストーリー全体としての一貫性はまったくないと言える。しかし、冒頭の星新一賞の選考を通過した作品では、まずベースとなる文章を人間が書いた。こういった人が多く介在する従来のAIクリエイティブとは異なり、『Sunspring』は設定もふくめた脚本のすべてをベンジャミンが手がけている。AIに与えられた裁量が非常に大きい作品なのだ。また劇中歌も、3万曲以上のポップソングを取り込み、そこからベンジャミンが独自に作曲したものを使用している。
現段階では既存の脚本を学習させ、その組み合わせで脚本を書く、という段階に留まってはいるが、今後の研究が進むにつれ、クオリティは向上していくだろう。すでにクラウドファンディングサイトKickstarterでは、AIによる長編映画製作に向けたプロジェクトが登場している。
『Sunspring』は、不条理劇としては面白い作品だ。整合性がないために、文字どおり、次の台詞がまったく予測できず、逆説的にそれが魅力となっている面がある。しかし、現状のところはそうした楽しみ方に留まっている
「不条理劇としては面白い作品」。ここからいかにして次のステップに移行するかが、今後のAIクリエイティブの鍵を握っている。もっと多くの作品を餌にすることでAIがより整合性の取れたストーリーを書けるようになれば、人間とAIが共同で脚本を書くといったようにクリエイティブの在り方はどんどん変わっていくだろう。
この変化は、映画だけにとどまらない。AIが過去の経験をもとにして人間と有機的なやり取りができるようになれば、OSを愛してしまった男の悲恋を描いた『her/世界でひとつの彼女』のような世界すら可能になる。すなわち、AIがクリエイティビティを獲得することで変わるのは人類そのものでもあるのだ。
目的と価値消失
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