ハードディスクドライブを捨てたことがあるだろうか? だったらあなたも、知らないところでこのアートに加担したかもしれない。

アフリカ大陸の西部、ガーナの首都アクラのAgbogbloshie(アグボグブロシー)は、世界最大のゴミ捨てビジネスの場と化している。取引されるのは家電や電子機器など、簡単にリサイクルできないため非正規ルートで捨ててしまったほうが安い「E-waste」(電子ゴミ)だ。
E-wasteが簡単にリサイクルできないのは、その内部に有毒な物質が含まれているからだ。つまり、このゴミ捨て場で働く労働者はその有毒物質(鉛や水銀など)にさらされることになる。ガーディアンによれば、彼らの多くは20代にしてがんで亡くなっているという。
9月8日から12日までオーストリアのリンツで開催された「Ars Electronica Festival 2016」(アルス・エレクトロニカ・フェスティバル)で展示を行なった「BEHIND THE SMART WORLD RESEARCH LAB」(スマートな世界の裏側研究所)プロジェクトは、この問題を起点に始まった。

このプロジェクトに参加したアーティスト、リンダ・クロンマン(Linda Kronman)と研究者のアンドレアス・ツィンゲルレ(Andreas Zingerle)は、アグボグブロシーのゴミの山から22のハードディスクをオーストリアへ持ち帰った。
彼らはそのうちのいくつかのハードディスクのデータを復元。『FORENSIC FANTASIES』(犯罪捜査ファンタジー)と題して、3つのアート作品を生み出した。
Found footage stalkers:ファウンド・フッテージ・ストーカー
Found footage(ファウンド・フッテージ)とは、フェイクドキュメンタリーの手法のひとつ。「秘密裏に入手した映像」とか「極秘ビデオが流出」などといった演出でおなじみだ。
彼らは復元したハードディスクに入っていた写真を現像し、アルバムにまとめた。こうすることで、これらの写真はハードディスクの持ち主の人生を想像させる「ファウンド・フッテージ」的な存在になる。
「まるでオンラインで知らない人をストーカーしているような気分」だと彼らは語っている。
Identity theft:アイデンティティ泥棒
恋愛詐欺をテーマにした映画とともに展示されたのは、18の出会い系サイトのサクラアカウント。
復元したハードディスク内の写真のラインナップから、それが出会い系サイトのサクラアカウントを作るために集められたものだと推測した彼らは、そこにあった写真と同じものをプロフィールに使っている18のアカウントを展示した。
Not a Blackmail:ノット・ア・ブラックメール
『Not a Blackmail』は小包の形をとった作品だ。
復元されたハードディスクのひとつに同梱されたのは、ハードディスクの持ち主にあてた手紙。
Tobias Hendersonさま
私たちは「KairUs」というアーティスト集団です。
2014年の8月にガーナへ行き、「Agbogbloshie」と呼ばれる世界有数の巨大E-waste不法投棄場を訪れました。そこで22個のハードディスクドライブを購入しましたが、そのうち6個のデータを復元できました。そして、このドライブのデータを調べてみたところ、あなたにたどり着きました。さらにソーシャルメディアを使って、私たちはあなたの住所や職場などの個人情報を知ることもできたんです。
そこであなたをアートプロジェクトの一部に取り込むことにしました。
私たちは初め、リサイクルに出したコンピューターや電子機器類からデータを流出させることが可能かどうかを知りたかったのです。
だから心配しないでください。これを使ってあなたを脅迫したり、データを悪用したりはしません。ただ、あなたの話を聞いてみたいと思っています。
目的と価値消失
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