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現実世界のすき間からカオスを目撃する。玉石混淆なんでもありの「インターネットヤミ市」

DIGITAL CULTURE
フリーライター武者良太
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"インターネットっぽいものを現実世界で自由に売り買いすることができるフリーマーケット"。それがインターネットヤミ市だ。2012年にはじめて開催され、2014年からは世界展開も行っている、ネットのカオスがリアルに集結する場だ。

人によって"インターネットっぽいもの"がまちまちであることに驚き、喜び、楽しみながら会場を歩いてみた。

「サインウェーブコーヒー」

20hzの非可聴音域のサイン波で音響焙煎したサインウェーブコーヒー

コーヒーの焙煎方法はさまざまだが、音響焙煎は世界初ではないだろうか。これはサードウェーブ...ではない。20Hzの音を使ったサインウェーブコーヒー。ビブラートを効かせるウーファーの振動によって、豆が混ぜられていく。作物に聴かせるとおいしくなるクラシック曲というのがあるそうだが、超低域のサイン波によってコーヒーの味は変わるのだろうか。変わったとしたら、他の周波数ではどうだろうか。サインウェーブコーヒーから新たなドンシャリブームが始まるのかもと思うと、感動が止まらない。

「iPhoneのホルマリンづけ」「iPhoneのはく製」「液晶の死体」

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iPhone 3Gという、日本スマートフォン史における偉大なる父の死。その姿を剥製にしていつまでも残そう、悼もうというのだろうか。

「告白」「友達」

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LINEで友達になれる権利、ハイテンションな告白をしてもらえる権利、ともに100円。インターネットヤミ市で売買するのは、主にネタだということがよく見えてくる。

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基板を樹脂でコーティングしたアクセサリー。近年の基板は集積化が進み、パーツ1つ1つがコンパクトに収まっていることもあり、見ていて美しい。

「バーチャルろくろ(VR)システム」

ジェスチャーデバイス、Leap Motionを使ったバーチャルろくろ(VR)システム。何もない空間に指を這わすと、その形のとおりに皿・壺をモデリング。別途費用はかかるが、後日3Dプリントしたものか、焼き物(3Dデータを入稿できる窯があるとは!)が届けられる。実際に試してみると、指先に重みある触感を覚えたほど脳がだまされた。VRイコールHMDで見るコンテンツ、というわけではないのだなと、改めて実感。

「バーチャル手づくりお弁当」

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"食の情報化"がうたわれて久しいが、画面内にしか存在できない手作りの3Dデータおかずで人はどこまで満腹感を得られるのだろう。おかずという概念をエロティカルな方面にまで拡大して考えたくなる、哲学的一品も。

「人工知能ポルノ全巻」「喘ぎ声データセット」「セクハラインターフェース卒業論文」

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エロティカルといえば、人工知能が記したAVの解説文も興味深い。イカニモなワードの羅列ではあったがセンテンスの作り込みが及第点で、人間が記したといっても不思議ではなかった。辞書の中のセクシーワードばかりをディープラーニングさせられるAIの未来に、涙

「はしおき」

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USBメモリ箸置き。8GBで1000円。解釈次第で価値は変えられる。そして「トランセンドのものだから永久保証なんですよ」。

「生後3週間のお絵描きロボット」

生後3週間のお絵かきロボットによる似顔絵や。PS3のジョイパッドで動くミニプロッターで、ミキサーのムービングフェーダーを用いたとのことだ。8方向に動いてペンを紙につけ、描いていく。

「あんよがじょーず、あんよがじょーず」と応援したくなる健気なペンタッチがこちら。

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いかがだろうか。個人的には今回のインターネットヤミ市で、最もお気に入り。

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新語・流行語大賞のトップテンに"インターネット"が選出された1995年以来、僕らは自分と家族と友人のほかにも世界があると知った。良いと悪いの物差しが十人十色どころか千差万別であることを知った。

インターネットヤミ市にあったアイテムとネタの数々は、あの頃の世界が拡張した瞬間を思い出させてくれた。自分が楽しくて、そしてわずかな誰かを笑わせられればいいんだという小さな、だからこそ光っている感情の坩堝。不要品を売りに出す通常のフリーマーケットとは違う。自分の作った作品をより多く販売することが目的の即売会とも違う。作り手も買い手も無駄をいとわない、ハートフルな空間がそこにはあった。

ただし、ヤミ市といえど違法なものは扱わないのがインターネットヤミ市の趣旨だ。

展示販売されていたアイテムの中には、どうみても商用利用を許可していない画像などを使った品もあった。人によって"インターネットっぽいもの"がまちまちであるとともに、どこまで踏み込んでいいのかの解釈もまちまちであることは気になった。