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データセンター vs DJ:「騒音」を再利用してダンスミュージック化する現代のテクニック

DIGITAL CULTURE
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ライターabcxyz
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私たちのデジタルライフのバックボーンともいえるデータセンター。そこで耳にすることのできるのは、デジタル世界を形作る物理的な骨組みが動く音だ。これまでその音に注意を払い、耳を傾けてきた人はどれだけいただろうか?

イギリス人のDJ、Tim Exileがその人だ。IBMは新たなプロモーションとして、彼と共に現代テクノロジーの生み出す音から音楽をつくった。その音楽は、データセンターで録音した数々の音から作られている。まずはIBMのYouTubeチャンネルが掲載している動画を見てみるとしよう。

自らを「ミュージシャンでありテクノロジスト」であると語るExileは、フランス、アメリカ、中国のIBMデータセンターに赴き、データセンター内部で音源素材を拾い上げている。動画からは、パネルを開けるためのツマミを押したり、パネルをマレットでたたいたりした音を録音、ベースラインはファンの音からサンプリングしている。日常的にITの恩恵に預かる私たちには届かない、データセンター内で起こるただの雑音としか感じないこれらの音に、Exileは可能性を見出す。

多分私はほかのみんなと同じように音を聞いている。でも私にはそこに可能性も聞こえるんだ。

あらゆる情報が集約されるデータセンターを「何かとても大きなことが起きているような...人間活動のハブのよう」と形容するExileは、未だかつて誰にも録音されたことのないデータセンターの中の雑音一つ一つに耳を傾け、それらのみを素材として音楽を形作った。演奏には自作の「Flow Machine」なる楽器が使用されており、SoundCloudでは彼が生演奏して制作したというこの曲のフルバージョンを聞くことができる。

こちらは彼のFacebookページに掲載されているFlow Machineを使ってデータセンターの音でジャムる様子。

テクノロジーを音楽のアイデアに組み合わせるというIBMの取り組み「RemixIT」はここで終わることはなかった。ユーザー自らデータセンターの音を組み合わせると共に、IBMのコグニティブ・コンピューティング・システムである人工知能Watson(ワトソン)とコラボレーションして曲を作ることができるのだ。IBMのRemixIT Playerページでは、数種類用意されたBeatsとMelodiesを組み合わせることが可能となっている。例えばBeatsは「IT インフラストラクチャー」、「パワーシステム」、「ストレージ」といった具合にデータセンターからのサンプリング音が選択できるようになっており、Melodiesは「コグニティブ・ビジネスのためのデザイン」、「コラボレーティブ・イノベーションによる構築」、「クラウドプラットフォームによる」という「ITイノベーションからインスパイアされたメロディー」が用意されている。

組み合わせればあとはWatsonがユーザーのTwitterアカウントを分析してぴったりなサウンドにしてくれる。

最近ではホラー映画の予告編から学んだ知識を活用してSFスリラー映画の予告編を作ったりもしているWatsonだが、この音楽コラボでは自然言語処理能力を活用した、ツイートから性格診断をする機能「Personal Insights」のAPIが用いられている。

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話をWatsonからTim Exileに戻すと、IBMとのコラボではExileは他にもデンマーク最大の銀行Danske BankやマッチングサイトPlentyOfFishの「ITインフラストラクチャーの音」を作っている。Danske Bankは「IBM z Systems」、PlentyOfFishは「IBM FlashSystems」というIBMのサービスを使用しており、「オンライン取引の音」、「ベストマッチが見つかる音」など、それぞれの会社に合ったサウンドが制作されているが、どちらにもやはりIBMのデータセンターからサンプリングされた音素材が用いられている。(それらも先の動画「Man, Machine, and Sound feat. DJ Tim Exile」のプレイリストから視聴できる。)

我々の生きる現代は、コンピューターが見て、聞いて、考え、作ることができる非常にエキサイティングな時代だ。今はまだまだ非常に初歩的な段階で、潜在的な可能性のすべてを理解できる人は居ないと思う。

と語るExile。だが彼が何気ないデータセンターのノイズの中から音をすくいあげ、曲を形作ったように、我々がすでに知り尽くしていると思い込んでいる世界の中にもまだ誰も見出していない可能性は多く眠っていることだろう。