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「The Glass Room」私たちは皆、ガラスの部屋の中で生きている

DIGITAL CULTURE
ライター高橋ミレイ
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ニューヨークのマンハッタン・ソーホー地区に現れたポップアップショップ「The Glass Room」は、近未来の病院を思わせる無機質で真っ白な内装だ。最先端のファッションが集まる場所にオープンしたショップではあるが、そこでは何も売っていない。

その代わり、「The Glass Room」の前を足早に通りすぎるだけで、すべてのデバイスの位置情報やMacアドレスといったスマートフォンのデータがトラッキングされる。エドワード・スノーデンの証言や、携帯電話の中継塔になりすまし、個人の通話記録やテキストメッセージ、位置情報を傍受していたFBIの装置スティングレイ、さらには近未来にテクノロジーに心身を支配された人々の生活をアイロニカルに描いたNetflixのディストピア系ドラマ『ブラック・ミラー』を想起させる空間だ。

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なぜこんな不愉快な場所が生まれたのか? それは、現代社会に生きる私たちが直面している現実だというメッセージをアートを通して伝えたいからに他ならない。

人々のオンライン上の行動はブラウザやアプリといった無料で使えるツールによって集められ、個人というものは、感情を持ち独自の人生や価値観を持つ人間としてではなく、あたかも砂時計の中の砂粒のように、ビッグデータの一部の中から識別された個人データとして扱われていることを表している。まさに私たちはガラスの部屋の中で生きているのだ。

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展示品のひとつ、フィットネストラッカーをつけたメトロノーム「Unfitbit」について、解説員はForbesの記者に、次のように問いかけた。「もし、あなたの所属する会社が、健康管理をしている社員を報酬面で優遇したとしたらいかがでしょう?」。記者は答える、「いいアイデアだと思いますよ」と。それを聞いた解説員、「本当に? なら、決められた歩数を達成できなかった場合は、減給になるとしたら?

つまり「Unfitbit」は歩数をごまかし、ペナルティを避けるための装置という訳だ。データは必ずしも真実を告げるわけではない。

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他にも、ポストプライバシー時代における企業による個人情報収集や、政府による監視、セキュリティ上の脅威がテーマとなっている作品が54作展示された。「Forget Your Password?」は、2012年に起きたハッキング事件で盗まれた上に今年になってダークウェブ上に公開されたLinkedInのパスワード460人分がアルファベット順に掲載された本だ。

Random Darknet Shopper」は、ダークネット上で売られる闇商品を、ビットコインで買い続けるボットだ。

「The Zuckerberg House」は、Googleマップからの画像を使用して作られたマーク・ザッカーバーグの家のレイアウトと、彼が購入した自邸の四方に位置する家のジオラマだ。ザッカーバーグは、2010年に「プライバシーの時代は終わった」と主張していたが、2015年には彼と家族のプライバシー保護のため、1000万ドルの自邸の四方にある家を買うために3000万ドルを支払った。それらの家は後に解体される運命にある。

「The Glass Room」展覧会を共催しているのは、「Firefox」ブラウザで知られる団体Mozillaと、テクノロジーが人々の生活にどのように影響を与えるかについて啓蒙活動を行うドイツの非営利団体Tactical Technology Collectiveだ。さらにマーケティングエージェンシーのMKGとAllison + Partnersが制作に協力している。

会場は5つのエリア、Something to Hide、Normal is Boring、Big Mamma、Open the Box、そして最後にあるThe Data Detox Barに分かれている。The Data Detox Barは、生活の中であらゆる個人情報が抜き取られ、活用され、時には監視されるこの社会で生き延びるための戦略を提案している。ここで配布されている「データ・デトックス・キット」には、デジタルライフの操縦桿を自分の手に取り戻すための8つのステップが書かれている。

Time to detox #datadetox #glassroom #nyc #exhibition

janelwswさん(@janelwsw)が投稿した写真 -

訪れた人々のソーシャル上の反応はTwitterのハッシュタグ「#glassroom」で見ることができる。なおMozillaとTactical Technology Collectiveは、インターネットが引き起こす健康問題について啓蒙活動を行っており、「The Glass Room」では活動を支援するための募金も募っているところも、実にインターネット的だ。

ニューヨークでの会期は2016年12月18日までだったが、今後も欧米で同じテーマでの展示を企画しているとのこと。東京でも開催してくれないだろうか。