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攻殻機動隊からセサミストリートまで、海外エンタメのキーワード「レプリゼンテーション(representation)」とは何か(前編)

IDEAS LAB
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ライター塚本 紺
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『攻殻機動隊』のハリウッド版リメイク『ゴースト・イン・ザ・シェル』が公開された。その主人公・草薙素子がアジア人でなく白人であるスカーレット・ヨハンソンであることがアメリカで議論を呼んでいる。

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配給のパラマウントも、CBC Newsの取材の中で「キャスティング(にまつわる批判的な批評)が映画の興行成績に悪影響を与えている」ことを認めた。

2016年に公開された映画『ドクター・ストレンジ』では、マーベルコミックスの原作ではアジア人男性であったキャラクター「エンシェント・ワン」に白人女優のティルダ・スウィントンが起用されたことが大きな批判を集めた(via Variety)。

『ゴースト・イン・ザ・シェル』トレイラー / video: Paramount Pictures

"行き過ぎたポリコレ議論"を紐解く「レプリゼント(represent)」

多くの日本人にとって、こういった主張自体は理解できても「そんな怒るほどの問題じゃなくない?」というのが正直な感想ではないだろうか。「なぜそこまでフィクションの物語に登場する人種にこだわるのか」「そんなに人種にこだわる方が人種差別をしているのではないか」と思ったことはないだろうか。

Netflixがつい先日公開したオリジナル・ドラマ『アイアン・フィスト』に至っては、マーベルコミックスの原作で白人として描かれていた主人公に、そのまま白人俳優を起用したところ「主人公はアジア人、という設定に変更するのに完璧な作品だったのに失望した(via Fusion)」という意見で批判を受けているのだ(違う角度からの批判も大きいが、それは別の機会に書きたい)。

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ここまで来るとただワガママを言っているだけのように聞こえるかもしれない。こういったひとつひとつの批判に絞って吟味すると、度の過ぎたポリティカリー・コレクト議論のように思えてしまう。しかし一連の騒動に底流する「怒り」に注目すると大きな流れが見えてくる。その怒りを理解する上でキーになるのは「レプリゼント(represent)」という言葉だ。日本語では「代表する/典型となる」と訳されるこの言葉が、現代の欧米エンタメから政治的なポピュリズム議論を内省する上で非常に重要なつながりを表している。

俳優リズ・アーメッド「政治家と役者の共通点」

リズ・アーメッド(Riz Ahmed)というパキスタン系イギリス人俳優をご存知だろうか。ジェイク・ジレンホール主演映画『ナイトクローラー』や『ジェイソン・ボーン』、去年はスター・ウォーズ最新作『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』の主要キャラの一人を演じている売れっ子の若手俳優だ(実はラッパーでもある)。その彼がイギリス議会で議員に向けて行なった「レプリゼンテーション(representation)」に関するスピーチがこちらだ。

彼のスピーチは、聴衆として座っている目の前の政治家たちと役者には大きな共通点があるという切り出しで始まる。

役者と政治家には共通する部分がある。我々は共に、文化の形成に大きな影響力を持っている。物語を伝えることで、文化の形成を担っている。皆さんご存知の通り、時に空想的な、現実の話ではないSF映画が大きな影響力を持つ。しかしそんな物語においても、物語の中に人々が求めているのは「自分たちがどこかに所属している」「社会の一部として受け入れられている」というメッセージだ。

ストーリーを通して、たとえ自分が人と違っていても、むしろ人と違っているからこそ、自分が社会の一部であって、自分の存在に対して社会が耳を傾け、目を向けて、価値を見出しているというメッセージを受け取りたいのだ。

物語の中で、人々は自分の存在が代わりに体現される(=レプリゼントされる)ことを求めている。

政治家は国民を代表して(=レプリゼントして)議会で発言している。だから彼らはレプリゼンタティブ(representative)と呼ばれるのだ。それと同じように、役者も画面を通してオーディエンスを体現、レプリゼントしているわけだ。その点で、役者と政治家は同じ仕事を担っている。その上で、アーメッドは次のように進める。

悲しいことに私たちは、その仕事に失敗している。(中略)

私たちが人々を体現(レプリゼント)することに失敗したとき、彼らはスイッチを変える。テレビのスイッチを変え、投票用紙に書く名前を変える。そして社会の主流から外れた場所で語られる、極端な物語や主張に耳を傾けるようになる。それは時に非常に危険だ。

彼は、政治家たちもテレビや映画に写る役者たちも、国民全体を体現することに失敗しているという。レプリゼントされていない人たちが存在しているというのだ。これは、マイノリティーと多数派の間の分断を深めつつあるような世界のポピュリズムの動きの中で特に深刻な問題だとアーメッドは指摘する。

イギリスでは多くの人の移民に対する反感が、EU脱退に票を投じた動機の一つと言われている(via The Independent)。そして結果ブレグジットが可決したことで、非白人やムスリム教徒、外国語なまりに対する差別やヘイトクライムを誘発しているとBBCは指摘している。また同様の現象はドナルド・トランプが大統領となったアメリカでも見られる。

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今、あらゆる場所で古い体制が炎上している。そして映画テレビであれ、広告であれ、投票所であれ、ポピュリズム(大衆迎合主義)が台頭している。

社会全体が一緒になって前進していけるのか、それとも後ろに取り残される人々を生み出していくのか、危機に直面している。もしも私達が意識を持って人々を体現(レプリゼント)しなければ、危機に直面することになる。

なぜエンターテイメントにおけるレプリゼンテーションが、社会の分断やポピュリズムと関係するのか、わかり辛く感じる人も多いだろう。ここで、一度彼のスピーチを離れ、『セサミストリート』に新しく登場した自閉症を持つマペットを例にレプリゼンテーションの影響について考えたい。

>> 後編へ続きます