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鋭敏なアート感覚の先に何を見る?映画『オラファー・エリアソン 視覚と知覚』が伝えたい芸術への責任

ARTS & SCIENCE
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現代アートシーンの第一線に立ち、ヨーロッパを中心に日本でも金沢21世紀美術館で個展を行なっているオラファー・エリアソンOlafur Eliasson)。そんな彼を追ったドキュメンタリー映画『オラファー・エリアソン 視覚と知覚』が、8月5日から渋谷アップリンクほか全国で上映される。

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『オラファー・エリアソン 視覚と知覚』は、2008年にアメリカ合衆国ニューヨークで行なわれたインスタレーション『The New York City Waterfalls』を主題にした映画である。『The New York City Waterfalls』は、ニューヨークに流れるイースト川に人工滝を4つ設置したオラファーの作品だ。ロケーションハンティングに始まり、途中難航しながらもインスタレーションが発表されるまでの過程がドキュメンタリーとなっている。

映画には他作品の展示や家族とのやりとり、ベルリンのスタジオでの様子なども随所にちりばめられている。彼が息子とニューヨークに来たとき子どもがなかなかインスタレーションに興味を示さなかったり、会見前に1セントのコインが落ちているのを発見して喜んだりと、オラファー自身の人間的な部分が垣間見える。

Video: Studio Olafur Eliasson/YouTube
『The New York City Waterfalls, 2008』

巨大な滝が無機質な鉄筋の建造物から落ちるさまは、思わず見入ってしまうほど壮観だ。上の動画では、日常の生活の場に突然姿を見せたオラファーの作品によって、川沿いが見物客の憩いの場となっている様子がうかがえる。

映画では、彼が作品や自身について語るなかで印象的な言葉が2つあった。それは「対話」「責任」だ。77分のドキュメンタリーには、この2つのメッセージが深く刻まれている。オラファーによれば、これらは私たちが『The New York City Waterfalls』をはじめ、今回の映画、さらには世界を見つめるために重要なものであるようだ。

鋭敏なアート感覚の先に何を見る?映画『オラファー・エリアソン 視覚と知覚』が伝えたい芸術への責任

Image: Jacob Jorgensen, JJFilm, Denmark

対話とは、全身の五感を使って「知覚」することだ

映画の前半、オラファーは故郷アイスランドにある底なしの氷の穴「ムーラン」に近づき、その深さや危険さと必死に対峙する。氷河の底なし穴の、落ちるぎりぎりのところで車を停め、はしごをかけて真上から覗く様子は、アーティストというよりも冒険家のようだ。その様子は一見すると、本題の『The New York City Waterfalls』とは関連がない。だが、このオラファーと自然とのやりとりこそ、彼の示す「対話」のヒントになっている。

オラファーが映画で語った「対話」とは単純な会話に限らず、自然や芸術を全身の五感を使って「知覚」することを意味している。

「これがアイスランドにある底なしの氷の穴です」と説明を受けながら写真を見るのと、実際に現地で氷河の気温や周りの音、風や氷の感触を感じながら「ムーラン」を覗くのとでは知覚の実感がまったく違う。オラファーのいう「対話」とは後者を指しているのだ。

また、『オラファー・エリアソン 視覚と知覚』は、全編がすべてオラファーを追いかけるメタ視点のドキュメンタリーというわけではない。時折、オラファー本人が直接鑑賞者に語りかけてくるシーンがあるのだ。これらの場面にも彼の「対話」への思いが隠れている。

私たち観客は、映画から飛びだしたかのような仕掛けを楽しみながら彼のメッセージの意味を理解することになる。

責任ある受容は世界を読解するためのリテラシーとなる

映画の終盤、印象的なセリフがある。

鑑賞者に健全な批評の精神を持ちつつ、生きる時代とどう関わるかを考えてほしいと思っている。責任を伴う批評の精神を持ってほしい

オラファーが私たちに向けたこのメッセージは、『The New York City Waterfalls』へと繋がっている。

ニューヨークに設置された人工滝は大きくて目立つから、かなりの注目を浴びる。オラファーを知らない人やアートに興味がない人でも彼の作品が目に入るのだ。滝を観て「雄大だなあ」と思うことは誰にでもできる。だが、オラファーはその気持ちをさらに突き詰めていてほしいと感じているのだ。そのために必要なのが「自分が滝を眺めていること」に気づく責任だ。これは自覚とも言い換えられるだろう。

「責任」のある受容は、オラファーの作品に限らずすべてのアート作品、そしてニュースやテクノロジーなどをふくめた社会にも反映できるのではないだろうか。昨今のフェイクニュースや加速する技術革新への過剰な不安感などは、私たちの受動的な知覚によって生まれる現象だ。リツイートやシェアはとても簡単だが、数に煽られたその行動は受動的になってはいないだろうか? フェイクニュースやテクノフォビアなどといった現象そのものを、私たちは完全に消し去ることはできない。だが、これからもインターネットを含めた私たちの現実にはさまざまな出来事が起こるだろう。それは必ずしもよいことや真実ばかりではない。私たちがあらゆる現象を能動的に体感し、自覚を持って取捨選択しながら受容していく行為は、世界を読解するために必要なリテラシーとなるのだ。

彼は映画で「現実は観客の主観次第」と話していた。自分自身が「対話」することによって得られる「責任ある受容」の内容は、人によって異なるということだ。ひとりひとりが能動的に現実を知覚し、体感することで見える世界もそれぞれ変わってくる。映画にも登場する彼の作品『I only see things when they move』はそんな世界を表現しているのかもしれない。

Video: Studio Olafur Eliasson/YouTube
『I only see things when they move, 2004』

「対話」と「責任」を胸に『The New York City Waterfalls』が出来上がっていく様子を観てみよう。この滝はただ雄大なのではなく、私たちの主観によってさまざまなイマジネーションが生まれる源泉だ。『オラファー・エリアソン 視覚と知覚』を観てあなたが感じる気持ちは、あなたに「しか」感じることができない。かけがえのないものなのである。

***

『オラファー・エリアソン 視覚と知覚』
期間:8月5日(土)〜
場所:UPLINK渋谷、横浜シネマ・ジャック&ベティーほか全国でロードショー
詳細:当日一般1,800円のところ特別鑑賞券は1,500円
URL:オラファー・エリアソン 視覚と知覚

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