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18 #海外ドラマは嘘をつかない

もう誰も見過ごせない! FUZEが選ぶ「進化し続ける2010年代の必須ドラマ:ベスト20」10-1位

DIGITAL CULTURE
Written ByFUZE編集部
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NetflixやAmazonプライムビデオなどの映像配信サービスの隆盛によって、2010年代半ば以降、海外ドラマは大きな飛躍を遂げている。今観ておきたい作品は山のようにあり、現在もなお生まれ続けている状況だ。だが、海外ドラマに明るくない人たちにとっては、「何から観始めていいかわからない」というのが正直なところだろう。

そこでFUZEでは、このエキサイティングな時代を思いきり楽しみ尽くすためのガイドとして、「2010年代の必須ドラマ ベスト20」を選出した。

選出方法は、15名のライター/編集者による投票制。投票に参加していただいた方は以下の通りとなっている。

投票者一覧(50音順)

渥美志保
磯部涼
宇野維正
木津毅
小林雅明
ジェイ・コウガミ
辰巳JUNK
田中宗一郎
豊田圭美(FUZE編集部)
ハイロック
萩原麻理
長谷川町蔵
丸屋九兵衛
渡辺志保
in-d(THE OTOGIBANASHI'S)

20位から11位までは以下の記事へと飛んでもらいたい。

20位〜11位はこちら

残すはいよいよトップ10。では、早速ご覧いただこう。


10.ウエスト・ワールド

原題:Westworld(2016年)HBO/Hulu

Video: HBO/YouTube

シンギュラリティの脅威とは何?それを議論したいなら、『ウェストワールド』を見ればいい。HBOが配信したマイケル・クライトン原作のSFスリラーは、2010年代を代表するSF作品として圧倒的な賞賛を集めた。だが、その本質は複雑でわかりづらい。本作は、生と死、仮想と現実、正義と悪の真理に目覚めるバーチャル世界『ウェストワールド』で働くロボット奴隷の主人公と、哲学的な創造者や暴力的な訪問者である人間が繰り広げる世界観を描いたSFスリラー+ウェスタン仕立てのストーリーは、楽観的なテクノロジー進化論とイノベーション至上主義、人間の二元論の暗い未来を見事に描いている。

この作品を見ることは、テクノロジーの背後に漂うコンテクストを知ることを意味する。それは「常識」が徐々に崩れていく現実社会であり、テクノロジーによって可視化されてきた人間の潜在意識でもあることを、この作品は我々に問いかけている。テクノロジー大国のアメリカが送り出した今世紀最大のテクノロジーのアンチテーゼだ。

(ジェイ・コウガミ)

こんな人がおすすめしています:ジェイ・コウガミ/萩原麻理/長谷川町蔵

9. スタートレック:ディスカバリー

原題:Star Trek: Discovery(2017年9月)CBS/Netflix

Video: Netflix/YouTube

50年の歴史と三世代にわたる熱狂的なファンベースを世界中に持つシリーズ作品が、新規ファンの獲得を目指しながら、世界中の熱狂的なファン=「トレッキー」全員を納得させるという到底実現可能な荒技に挑んだドラマ最新シリーズ。いや、そりゃあ、さすがに無理だろ。J・J・エイブラムスも大失敗したわけだし。だが、この「誰もが絶体絶命と信じて疑わない窮地に挑み、荒唐無稽な奇跡を観客に見せる」という「コバヤシマル・テスト的な態度」こそがまさに『スタートレック』シリーズの基本精神であるがゆえに、この作品のシリーズ1を「失敗作」と呼ぶことには躊躇がある。

主人公は黒人女性。異人種に両親を殺害され、また別の異人種を育ての父に、白人女性を育ての母に持つという「引き裂かれたアイデンティティ」を持つ彼女が、自らの正義を貫こうとするがあまり第三の母親と呼ぶべき恩人を裏切り、しかもその罪滅ぼしとして取った行動がその恩人を死に至らしめ、言わんや異人種間の大規模戦争と隣国の内戦を引き起こす火種となり、彼女自身は罪人としてすべての社会的地位を剥奪される、という場所から物語は駆動し出す。つまり、すべての立場の人々が彼女のことを憎み、その誰よりも彼女自身が自分を許せない、という地獄以外の何者でもない設定なのだ。しかも、それに輪をかけるように、そんな彼女のことを唯一気にかけてくれる数少ない二名のキャラクターの正体が……という容赦ない煉獄設定。普通、完全に正気をなくすでしょ。

つまり、この主人公は多くのマイノリティが共感しやすい部分的なポイントをいくつも持ちながら、本当の意味では世界中の誰も彼女の苦しみを理解することは出来ない「究極のマイノリティ」。これはさすがに設定を積み込みすぎでは?(僕自身はガチ自己同一化しましたが)。ドラマ全体としても、ジェンダー問題、環境問題、動物愛護、文化の違いと衝突、同じコミュニティ内での分断や内戦状態といった現代的イシューを「これでもか!」とばかりとにかく詰め込みまくる。究極の全方位外交なのだ。

66年に始まった『スタートレック』は、数年にわたり同じ役柄を演じ続けることで役者としてのイメージが固定化することに思い悩んだ助演女優ニシェル・ニコルスに対し、当時の公民権指導者キング牧師が「あなたは多くの黒人女性のためのロールモデルにならなくてはならない」と勇気づけたという逸話でも語り継がれているように、間違いなく黒人女性の社会的地位向上に一役買った先駆け的な作品。だが悲しいかな、いまだかなわない「多様性の担保」というイシューを抱える2018年において、この『ディスカバリー』はあらゆるマイノリティを平等に尊重しようとするあまり、「すべての立場を認めることと、すべての立場に橋をかけることーーその二つを両立することの困難さ」を図らずも証明してみせた。という意味ではどんな作品よりも現代的と言っていいだろう。

実際、Netflixから毎週月曜日に『ディスカバリー』の新エピソードが配信されるのを待つこと以上の至福の楽しみはなかった。それは間違いない。ただ、キャラクターとしてはキャプテン・ロルカが一番魅力的だったのに、あの設定はない。すべてが台無しだ。だが、人は必ず失敗する。間違いを犯す。罪を犯す。完全無欠の英雄などいない。と同時に、何度でもまたやり直すことが出来る。つまり、この失敗作によって、またしても『スタートレック』は我々にとても大切なことを教えてくれた。と言えなくもない。『スタートレック』よ、永遠に。長寿と繁栄を。

(田中宗一郎)

こんな人がおすすめしています:田中宗一郎/丸屋九兵衛

8. 13の理由

原題:13 Reasons Why(2017年3月)Netflix

Video: Netflix/YouTube

『13の理由』が「2010年代を象徴する作品」と喧伝するのは簡単だ。ツイッターで最も話題にされたドラマ。新たなビンジウォッチ戦略。さらに、現代ティーンの暗い現実を描いている。

本作は、自殺した高校生が遺したテープから始まる学園ミステリー。教育機関が「自殺美化」だと警告するほど「自殺者のパーソナルな視点」を描き、多くのティーンの支持を獲得した。親にとってはホラーかもしれない。ただし、保護者に該当しない成人の間でも意見はわかれている。大きな理由は、自殺した女子高生が「わかりやすい被害者」ではないこと。彼女は「男子からの性的視線の暴力性」も自死の一因だと主張する。作中、ある男子は彼女がなぜ傷つくのか理解できない。彼と同じ感想を抱いた視聴者もいるだろうし、視聴するうちにその印象を変えていった者もいるだろう。

賛否両論な作品だが、#Metoo運動で社会が動くなか、若者に届くかたちで問題提議した功績は大きいはずだ。最後に、信頼できぬ情報に包囲され「自分は特別」だと感じにくいSNS世代ティーンを表すような、自殺した高校生の遺言を載せる。

「これはよくある“大勢の中ひとりぼっち”って話じゃない。それはみんな感じてる」

(辰巳JUNK)

こんな人がおすすめしています:磯部涼/宇野維正/木津毅/辰巳JUNK

7.ブラック・ミラー

原題:Black Mirror(2011年12月)Netflix

Video: Netflix/YouTube

「ディストピア」という言葉がこれほどふさわしいSFドラマはない。英TV局Channel 4で生まれたこのドラマは現在Netflixが独占で製作・配信し、シーズン4まで拡大してきた。同作品は、急激に進化したテクノロジーがもたらす「イノベーション」の未来を描いた短編ドラマ。社会的に意義あるとされるテクノロジーやイノベーション信望者たちとは違った逆説としてのテクノロジー中心社会を描き、はるか遠くのテクノ・ディストピアへ見る者を導くことに成功、多くのメディアが称賛してきた。なぜこの作品が高く評価されるか? その理由はテクノロジーで拡張される人間模様の複雑さにあるのではないか。AIやブロックチェーン、ロボットに湧く社会の中、人間の孤独や疎外感への視点が変わるはずだ。AIがコントロールする男女交際、”共感”至上主義に苛まれた女子。監視カメラに追いかけられる少年、VRに溺れるダメ男。歩行者を轢く自動運転ピザ配達バス…。これは今世紀最大のサイバーパンク・ドラマだ。

(ジェイ・コウガミ)

こんな人がおすすめしています:小林雅明/ジェイ・コウガミ

6. インセキュア

原題:Insecure(2016年10月)HBO/Hulu

Video: HBO/YouTube

もともとYoutubeで公開していた動画シリーズが発案元となってヒットした、限りなくリアリティ・ショウに近いドラマ。主人公であり原作者、監督でもあるイッサ・レイのインセキュア(不安定)な気持ちをそのままスクリーンに映しだしている。

仕事へのやりがい、女友達への信頼や虚勢、恋人と元カレ、セフレの境界線、そして自分の将来…。ストーリーの中心となるのは黒人女性だが、そこには少なからず全宇宙共通の女性の悩みが見つかるはずだ。

(渡辺志保)

こんな人がおすすめしています:豊田圭美(FUZE編集部)/萩原麻理/渡辺志保

5. ベター・コール・ソウル

原題:Better Call Saul(2015年2月)AMC/Netflix

Video: Netflix/YouTube

ブレイキング・バッドのスピンオフである本作の面白さは、なんといってもブレイキング・バッド6シーズンの情報量を背景に持っているところにある。

ダメダメ弁護士ソウル・グッドマンの人格はどのようにして形成されていったのか?など非常に興味深く、味わい深く見ることができる。

ストーリー以外でも映像に映るすべての世界観がかっこいい。そして脚本、音楽、カメラの構図に至るまで、ヴィンス・ギリガンの天才っぷりがビリビリと電気のように伝わってくる。ベター・コール・ソウルを見てからまたブレイキング・バッドを見る。そんなのも本編とスピンオフの両作の魅力を引き上げてさらに深く味わう楽しみのひとつだ。

(ハイロック)

こんな人がおすすめしています:渥美志保/宇野維正/ハイロック

4. ストレンジャー・シングス

原題:Stranger Things(2016年7月)Netflix

Video: Netflix/YouTube

過去に長編作品はホラー映画一本のみという、ほとんど無名だった兄弟監督マット・ダファー&ロス・ダファーが20近くのテレビ局や製作会社に企画を持ち込み、最終的にNetflixで監督/プロデューサーのショーン・レヴィとともに実現させた『ストレンジャー・シングス』は、世界中の視聴者数においてもその影響力の大きさにおいても、これまでのドラマの常識を覆す作品となった。

大人向けの良質で硬質なドラマを量産することで価値をあげてきたドラマ界において、『ストレンジャー・シングス』は子どもたちを主要キャラクターに据え、そのいっぽうでは、残酷なホラー描写をはじめとする映像表現ではネットTVならではの自由さを最大限活用。舞台となる80年代のカルチャー全般からのおびただしい引用も大きな話題となって、その時代に少年少女だった大人世代から、80年代カルチャーに関心の強いティーン層、さらにはファッション業界や音楽業界を巻き込んで一大ムーブメントを巻き起こしている。

シリーズ化によって、「子役の成長を見守る」というリアリティ・ショー的興味がファンを引きつけている点も極めて現代的。スティーブン・キングやスティーブン・スピルバーグをはじめとする「引用元」からも絶賛されている同作は、現在シーズン3の製作中だ。

(宇野維正)

こんな人がおすすめしています:磯部涼/宇野維正/木津毅/辰巳JUNK/豊田圭美(FUZE編集部)/長谷川町蔵/in-d(THE OTOGIBANASHI'S)

3. マスター・オブ・ゼロ

原題:Master of None(2015年11月)Netflix

Video: Netflix/YouTube

マイノリティを描くこと自体が社会的・政治的なステートメントに「なってしまう」現代に、しかしこんなやり方もある。移民2世というマイノリティの主人公の日々を、ミレニアル世代に共通する感覚とともにポップに描く本作。気の置けない友人たちとドラマを観ながらダラダラ過ごす夜、イマイチ盛りあがらないデート、嫌いではないが情熱を注げるわけでもない仕事……あなたにも思い当たるところがあるだろう。

これはデリケートなモチーフを都会的なウィットで語るコメディであり、スタンダップ・コメディアンがいまこそ輝く時代であることの証明だ。何てことのない日常と、時折訪れる多幸感や切なさ。マイノリティもあなたと同じように、人生を楽しんでいる。

(木津毅)

こんな人がおすすめしています:宇野維正/木津毅/辰巳JUNK/田中宗一郎/豊田圭美(FUZE編集部)/長谷川町蔵/in-d(THE OTOGIBANASHI'S)

2. ゲーム・オブ・スローンズ

原題:Game of Thrones(2011年4月)HBO/Hulu、Amazon ビデオ

Video: GameofThrones/YouTube

世界的な社会現象と化し、「流行っていないのは日本と北朝鮮だけ」ともいわれた本作。中世的な世界を舞台にしたファンタジー風味の薄いファンタジー、「性と暴力のワンダーランド」のごとき擬似歴史ドラマ、というべきか。

物語には三つの軸がある。
①ブリテン島そっくり(ただし南米サイズ)の大陸ウェスタロスで王家と諸侯が争う陰謀絵巻。
②そのウェスタロスの北限にある「壁」の北側でうごめく魔物たち、逃げる人々、壁の守備隊の葛藤。
③東の大陸エッソスで亡命生活をおくっていたウェスタロス前王朝の王女デナーリス・ターガリエンが、参謀と軍隊とドラゴンを手に入れ、勢力を拡大していく様子。

シーズンによって増減するが、主役にあたるメインキャストが20人ほどもいるので大変だ。だが、その主役たちのなかでもトップ3が、貴族の私生児で正義感が強いジョン・スノウ、やはり貴族だが小人症ゆえに疎んじられてきた知性溢れるティリオン・ラニスター、支持者の援助にすがる小娘からたくましい女王に変貌するデナーリス、という3人に絞られてきた感があり。暴力的で差別と偏見に満ちた社会で生きる彼ら弱者を際立たせることで、逆説的に、人間の尊厳を描くことに成功している。アメリカでは「共和党支持者は見ない」といわれるのも頷ける。

要するに、(歴史ファンタジー風なのに)どんな作品よりも現代的であり、今だからこそみるべきドラマだということ。

(丸屋九兵衛)

こんな人がおすすめしています:渥美志保/ジェイ・コウガミ/田中宗一郎/ハイロック/萩原麻理/丸屋九兵衛

1. アトランタ

原題:Atlanta(2016年9月〜)FX/Hulu

Video: Consequence of Sound/YouTube

「黒人の目を通して見た黒人の姿を白人に見てほしい」。主演に加え、脚本や、エピソードによっては監督も務めるドナルド・グローヴァー(AKAチャイルディッシュ・ガンビーノ)によれば、それがこのコメディの製作意図の一つだったという。生まれこそ西海岸だが、彼は大学入学まではアトランタ郊外のストーンマウンテンで育っている。

アトランタで撮影された本作の主役は、ミックステープ収録曲が地元で人気上昇中のラッパー=ペーパーボーイ、彼の右腕であるダリウス(『ゲットアウト』のラキース・スタンフィールド)、そしてカレッジドロップアウトで慢性的に金欠状態なため、従弟にあたるペーパーボーイのマネージメントとなり現状打破を考えているアーン(D・グローヴァー)の三人組。

とはいえ、ここでは音楽業界の裏側を描くことは本筋ではなく、それらも、夢の実現を目指す彼らのごくごく当たり前な日常に含まれているだけ。そんな日常に転がっている、あまりに些細で、普通のドラマでは相手にされないような事象を見逃さず、丁寧に掬い上げているのだ。そこから生まれた描写が(爆笑することが憚れるほど)シュールリアルに見えてしまうのは、現実があまりに不条理だからだろう。

この作品のそうした魅力が最高に振り切れた形で表れているのは、「ケイトリン・ジェンナーとはヤりたくねえな」とツイートしたペーパーボーイが、トランス問題の専門家と意見を交わすTVのトーク番組を丸ごとエピソードにした第7話だ。

番組には、自分は35歳の白人男性だと主張して譲らない「トランスレイシャル」な黒人青年(!)も加わる。こういった場合、ラッパーがトランスジェンダーフォビア、ホモフォビアとしてやり玉に挙げられるのがお約束だが、ここでは3人が最初から本心しか話さないため、差別の紋切り型が突き崩されてしまう…この第7話が、グローヴァーに、黒人として初のエミー賞コメディシリーズエピソード監督賞をもたらし、アトランタ市民にも支持されることに。

(小林雅明)

こんな人がおすすめしています:磯部涼/宇野維正/木津毅/小林雅明/田中宗一郎/萩原麻理/長谷川町蔵/渡辺志保


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Image: FUZE編集部
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