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1ビョークがVRを再発明する

音楽の発明家、Björkインタビュー:「VRはライブすら超えるかもしれない」

ARTS & SCIENCE
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エディターMakoto Saito
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これがVRの新しい世界。

2015年1月、4年ぶりにリリースされたBjörkの8作目のアルバム『ヴァルニキュラ』。Björk自身が"ハートブレイク・アルバム"と語ったように、きわめてストレートかつエモーショナルに、個人的な体験について書かれたアルバムでした。

その特異性を際だたせるかのように、エレクトロニクスを取り去ってストリングスのみで構成されたバージョン『ヴァルニキュラ―ストリングス』が、その1年後にリリースされました。彼女はこの『ヴァルニキュラ』という作品を有機的に表現し、クラシックなやり方へ回帰したのだろうと受け取った方も多いでしょう。

しかし驚くべきことに、彼女がアルバムのリリース後に取り組み始めたのは、最新のテクノロジーVRを使ったミュージックビデオの制作でした。

VRと聞いて私たちギズモードがイメージするのは、Oculus RiftやPlayStation VR、MicrosoftのHoloLensなどでしょう。そして話題の中心になるのはいつも、ハードウェアがどんな感じかとか、スペック値段といったプロダクトのこと。おおよそ、アコースティックとかエモーショナル(ハートブレイク!)といった表現とはかけ離れて見えました。

『Mouth Mantra』 director: Jesse Kanda

現在、彼女はAndrew Thomas HuangJesse Kandaを始めとするさまざまな気鋭の映像クリエイターと組んで、"ハートブレイク・アルバム"『ヴァルニキュラ』の収録曲のためのVRミュージックビデオを制作し、これらを「Björk Digital」として世界で展示しています。

身体の外に向かって拡張しつづけるVRテクノロジーと、Björkが表現したかった人間の内側に宿る「エモーション」。一見、対極に存在している2つは、いったいどう共鳴したのでしょうか? そして、自らのビジョンを世界に生み出すために、常に新しい表現技法を探し求め、貪欲に発明してきた真の"アーティスト"Björkが次に作り出そうとしている宇宙はいったいどんなものになるのか。

6月29日から日本科学未来館にて「Björk Digital ― 音楽のVR・18日間の実験」をさせたBjörkにインタビューしました。

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――前作の『バイオフィリア』に続き、『ヴァルニキュラ』でも新しいテクノロジーを取り入れて作品を制作されましたよね。これまで発表してきた作品の中で、このアルバムはどういう位置づけだったのでしょうか。

Björk: 『ヴァルニキュラ』は、ある意味で前作の『バイオフィリア』とはまったく逆のアルバムだと思う。

私は以前からタッチスクリーンの技術に興味を持っていて、2007年に始まった『ヴォルタ』ツアーのときに実際に使ってみたの。そのときに、これを使ってステージ上で音楽をただ操作するだけじゃなくて、タッチスクリーンのために音楽を作ったらおもしろいんじゃないかと浮かんできた。そうすることで、メロディーや歌詞、ビートを3Dの音楽として構築できるはずだと。

Voltaツアーで使われた「Reactable

Björk: 『バイオフィリア』でこれに挑戦した。2年かけてテクノロジーを開発して、さあアルバムを出すぞってなったところにiPadが登場したのよ。これを予想していたわけではなくて、タッチスクリーンの技術で自分の曲作りが豊かになるんじゃないかと思って始めたんだけど。「じゃあiPad用のアプリを開発しよう」となって、さらに1年かけてやっとアルバムが完成したの。

iPad用のBioophiliaアプリ。教育用に北欧で配布された

Björk: 『バイオフィリア』がものすごく細かく作りこんで発表する作品だったとしたら、『ヴァルニキュラ』はその場に起きたことに対応して波に乗るというものだった。「自分のなかに生まれた"音楽"を早く出さなきゃ!」という思いで短期間で作品を仕上げたし、リリース前に音源がリークしてしまったから、作品を出す時期も早めたの。リークの24時間後には、Appleに頼んですぐに配信するということもしたわ。だから私自身も『ヴァルニキュラ』には、即興性を感じていた。

――「ヴァルニキュラ」ツアーを収録したアルバム『ヴァルニキュラ:ライヴ』が、7月(日本発売:7月13日)にリリースされます。いつもステージ演出や衣装などビジュアル面にも注力しているあなたが、映像ではなく、CDの作品にしたのは何か考えがあったのでしょうか?

Björk: このアルバムに関しては公演があまりできなかった(編集部注:ヴァルニキュラ・ツアーは途中でキャンセルされた)から、カーネギーホールでのライブをリリースできると聞いてうれしかったわ。どうやってものごとを記録するのかっていうのは難しい問題だと思う。でもわたしは「ヴァルニキュラ:ライヴ」にはビジュアルがないほうがいいなと思ったの。ただ音楽そのものに語らせること、それが必要だと思った。

ライブをやってみて初めて、『ヴァルニキュラ』にどれだけ多くの人が共感してくれたのかということがわかった。涙を流している人もいたし、20分間も拍手が鳴りやまなかったのよ。こんなことは、どのアルバムでもツアーでも手にしたことのない経験だった。そのときに「ああ、この作品はもしかしたら"ギリシャ悲劇"のようなものなのかもしれない」って考えたの。

―― ギリシャ悲劇ですか?

Björk: そう、時系列に自分の中の感情を並べていく、オペラのような作品だと思った。ナラティブで、不変的なところもね。

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―― そのオペラ的作品のミュージックビデオに、VR映像を採用しました。VRは、あなたと「ヴァルニキュラ」にとってどのような意味を持つものだったのでしょうか?

Björk: みんながVRに夢中になるのは、それがまだいろいろな可能性を秘めているからだと思うわ。まだそれがいったいなんなのか、私たちはわかっていないの。一緒に見つけようとしている。

VRが『ヴァルニキュラ』にぴったりだったのは、VRがこの作品にとって新しいステージのようなものだったからだと思う。今までのようなステージがあって観客がいて...というより、聞く人ひとりひとりが持つ「パーソナルシアター」みたいなものね。VRはライブよりもいいんじゃないかと思うことすらある。ライブよりも自分に近いところで、そこにいるような体験ができるからとても親密に感じるの。

『Stonemilker』は誕生日に生まれた

「Stonemilker」 director: Andrew Thomas Huang

――「Björk Digital」で展示される予定の、『ヴァルニキュラ』の1曲目『Stonemilker』のビデオは360°カメラで撮影されたVR映像ですよね。これはどのようなきっかけで生まれたのでしょうか?

Björk: ニューヨークのMoMAで大きな回顧展をやることになったときに、『Black Lake』のビデオをMoMAとコラボレーションとして作ったの。10分以上の大掛かりな作品で、MoMAの展示として見せるために、大きな部屋にたくさんの人が出入りする状況を想定してループさせる部分もよく考えながら作った。

「Black Lake」 director: Andrew Thomas Huang

Björk: そのときにUFOみたいな形の360°カメラをもらったので、それをアイスランドに持ち帰ったの。そしたらディレクターのAndrew Thomas Huangが「明日ビーチに行って、『Stonemilker』のビデオを撮っちゃおうか」って言い出して、「いいわね! やろう」って。『Black Lake』とは反対だったわ。5時間で準備して、1日で撮影して、撮影が終わったあとは酔っ払って盛り上がった(笑)。その日は私の誕生日だったから(笑)。それくらいすぐに完成したの。『Black Lake』で出会ったテクノロジーやチームのおかげで生まれたビデオなんだけど、真逆の性格を持っているのが『Stonemilker』だと思う。

昔はバンドやクルーとツアーを回っていたけれど、今はテクノロジー会社やエンジニアと回っているような感じ

――あなた自身がVRにかなり積極的に関わっているのですね。

Björk: 私のようなミュージシャンはシアター(VR)のすべてをコントロールすることはできないけれど、ステージの形を想像したり、ダンサーのことを考えたりするのはとても楽しいし、好奇心を駆り立てられる。だからVRクリエイターを始めとするたくさんの人たちと、いろいろなことをやってみた。(ミュージックビデオを)試行錯誤して作っていったの。

それから、VRをどのようにたくさんの人たちと共有することができるかについても考えた。だって多くの人はVR用のヘッドマウントディスプレイを持っていないから。それで「展示すればいいわ」って思いついて、150万人が参加するオーストラリアのフェスティバル「Vivid Sydney」で大きな展示をやったの。

@carriageworksが投稿した写真 -

Björk: 規模をもっと小さいバージョンに変えて、違ったアプローチがしたいと思ったの。それが今回の日本科学未来館での展示。VRと私のDJで「ヴァルニキュラ」の世界を体感してほしいと思ってる。『バイオフィリア』をタッチスクリーンで体験することもできるわ。

昔はバンドやクルーとツアーを回っていたけれど、今はテクノロジー会社やエンジニアと回っているような感じなの(笑)。VR自体が新しくて開発段階のメディアだから、うまくいくこともあればうまくいかないこともある。でもうまくいったときは本当に楽しいし、アメージング!という気分になる。

実は、『Notget』のビデオはまだ完成していないけど見せようと決めたの。アップデートされていく過程をシェアすることは、VRの可能性をみんなで探っていくというコンセプトに沿っているから。最後の9月にあるロンドンでの展示会では完成作品を披露できると思うわ。

――これからの音楽作りもVRに関係したプロジェクトになりそうですか?

Björk: あなた、超能力者なんじゃないの!?(笑)。まさにそうしたいと思っていたの。制作中の次のアルバムは、確実にVRからインスピレーションを得ているわね。でもまだ話すには早過ぎると思うわ。曲はできてるけど、アレンジがまだなの。秋からアイスランドでやる予定。蓋を開けてみるまでどんなものになるかはわからないけど、360°サウンドの可能性なんかを考えると、今からとてもわくわくしてる。

アーティストにとって大事なことは、テクノロジーに生命を吹き込むこと

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――テクノロジーの進化が、人間らしい感情や人間のクリエイティビティを損なわせると考えたことはありますか?

Björk: テクノロジーはただのツールだと思うわ。テクノがギリシャ語の「クラフト」から来ているようにね。軍隊や政府の人たちが使うのと同じように、(アーティストも)時代に合わせてツールを使うのは当然のこと。でも、アーティストにとって大事なことは、テクノロジーに魂や感情を吹き込むことだと思う。

洞穴に籠もって木と石で音楽を作ることも魅力的かもしれない。でも、それにテクノロジーを使うということは、もっと勇敢なことだと思うわ。Facebookを何時間も見て過ごしたりして受動的になることは簡単だけど、同じものをアクティブに使うこともできる。

もっとも、こんなふうにテクノロジーって批判されがちだけど、昔から朝食を取りながら無言で新聞を読んでたカップルだっていたわけだし、私はあまり心配していないんだけどね(笑)

「Skypeで人と話していると、顔を見られて楽しいんだけど目の前に壁があると感じるときがある」と例をあげて、テクノロジーと物理的な身体感覚のバランスの大切さについて語ったBjörk。「でもVRは違って、壁がないの。身体が本当にそこにあるように感じる...これがいいことなのか、悪いことなのか、私にはまだわからない」

VRは彼女にとっていまだ「未知のツール」であり、好奇心を持ってその可能性を探っていることを興奮ぎみに話してくれました。

iPadよりも前にタッチスクリーンの楽器を作ったり、ヘッドマウントディスプレイが普及する前にミュージックビデオをVRで撮ったりと、手に入るものだけに留まらず、自分の音楽を生むためにテクノロジーまでも作り出しているBjörkは、まさに「音楽の発明家」と呼べる数少ない存在であることを改めて感じました。

『ヴァルニキュラ:ライヴ』 / Björk


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発売日:2016年7月13日(日本先行発売)

価格:2,400円(税抜)

ストア:AmazoniTunesApple Music

ソニー・ミュージックレーベルズ/ソニー・ミュージックジャパンインターナショナル


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