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1Sonar Festival

【Sonar 2016】「遊びとは何か?」ブライアン・イーノ、文化の社会的な役割について語る

IDEAS LAB
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エディター高橋ミレイ
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6月16日から18日にかけて、音楽とアート、テクノロジーの祭典「Sonar 2016」がバルセロナで開かれた。20年以上続くこのイベントでは、連日複数のステージでライブが行われ、多くの来場者で賑わう。同時に開催される関連イベント「Sonar+D」では、音楽やアート、テクノロジーが交差するビジネスカンファレンスやショーケースが行われ、世界各国からアーティストや学識者、企業関係者などが集まる。

今年のSonar+Dの初日6月16日、U2やコールドプレイ、デヴィッド・ボウイに楽曲を提供してきたプロデューサー、ブライアン・イーノの特別講演が行なわれた。冒頭でSonar+DのキュレーターであるJose Luis de Vicenteはイーノを次のように紹介した。

これから2日間、私たちは『Sonar 2016』という場を通して、他にはない特別なコミュニティーを作るつもりです。ここに集まった私たちは、科学やテクノロジーという共通の関心事に引き寄せられた教師や研究者、学者、起業家、プロデューサーです。そして、未来のカルチャーとアートに興味を持っています。

テクノロジーとアートを使って、どのように次世代の人々をインスパイアし、世界にインパクトを与えるのか。私たちは、世界の変化に貢献する何かをしたいと思ってここに集まっているはずです。

これから登場するブライアン・イーノは、無数のコミュニティーで中心的な存在を担っています。彼の音楽は、フェスに来た15万人の来場者、ライブ会場にいるすべての人を魅了しました。そして、過去40年のキャリアの中で、現代音楽史における最も重要な記録の一角に関わっています。数々の実験的な試みを通して、デジタル音楽をCDからアプリといった新しいフォームに転換することを可能にした人物の一人だからです。

一番大切なことは、彼は自分の思っていることを口に出すのを恐れなかったこと。私たちも見習うべきことでしょう。

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命の価値が経済的な価値によって決められてしまう

ブライアン・イーノ:おもしろい話を思い出したんです。数年前、『Prospects』という英国の知的な雑誌が、「知識人とは誰か?」というアンケートを読者にとり、50名の名前が挙がりました。その一覧自体は面白くなかったのですが、挙がった50人中17人が経済学者だったんです。私はそのことに驚きつつも、ああそうか、私たちが今いるのは、経済が私たちの価値を記述する時代なんだなと腑に落ちたんです。

そんなところから、私の話は始まります。この35年かそこらの間、私たちは経済的なイデオロギーにとらわれています。新自由主義とも言われますが、リバテアリアニズムとも言われますし、客観主義と言われることもあります。

イデオロギーが自由を2つのタイプに分けたのです。経済的自由と個人の自由に分けるということですよね。それが、変にこじつけたような考え方をさせてしまうんです。

たとえば、クリントン米大統領時代の財務長官だったローレンス・サマーズは、毒物(汚染物)を投棄する場所をどこにすればよいかという議題があったとき、発展途上国に投棄するのがベストな答えだと言いました。理由は、そこにいる人々は、経済的に自分たちよりも価値がないからだと言うんです。

つまり、何の関係もない発展途上国の人たちが悲惨な目に遭うほうが、ここら辺のビーチに汚染された毒物を投棄して、自分たちが毒におかされるよりもマシだと思っているのです。おかしな話ですよね。人の命の価値を数字で決めようとするなんて。

アメリカの刑務所は、より多くの囚人を必要としている

もう1つの例は、経済が政策を決定する1つの物差しとなったときです。そう、アメリカの刑務所の民営化についてです。アメリカにある刑務所の多くは、民間企業によって運営されています。これらの企業は、自分たちの収益のために、より多くの囚人が必要です。ですから、企業は政府と政治家にものすごい圧力をかけています。定期的に囚人を供給してもらえるようにね。

どういうことかと言えば、もっと多くの犯罪を懲役刑の対象にしてくれっていう話なんです。今の時点では3ストライクルール(「重罪の前科が2回以上ある者が3度目の有罪判決を受けた場合、どのような罪であれ終身刑となる」というアメリカの法律)がアメリカで施行されていますが、ささいなことでも有罪判決がでたら、もう刑務所行きです。時々、ものすごく長い刑になりますしね。

最近読んだ記事によれば、ある男性は、交通違反で18年もの間、刑務所にいたそうです。私には、そんなことが正当だと判断されることも、民営化された刑務所を運営する企業が圧力をかけて、彼らの都合に合わせた法律が通るなんてことも、あってはならないことだと思います。

まぁこれらは、価値の指標を経済に偏重させることが私たちを困難な立場に置くという2つの例です。たとえば、公共のビーチの価値なんてどうやって決めます? 誰もそれ自体からお金を稼いでいるわけではありません。人々はそこに行くのが好きで、日向ぼっこしながらビールを飲んじゃっているだけなんです。

そこに行く人の群れを見た不動産開発業社が、大きなホテルを建てたらいいんじゃないかと思うんですよ。もし経済が数値だけに頼るものだったら、どうやったらそんな開発を止められますか? 「シングルナンバリズム」と私が呼ぶような場面で、すべての価値はシンプルな経済説によって決められるわけです。

教育者が重視するのは、アイデアの創造よりも他人の考えの暗記

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同じことが教育でも起きています。今イギリスでは、試験で良い結果を出すことが教育で重視されるべきと考えられています。これって、何かを学ぶことと関係ないんですよね。そのような教育システムでは、どうやったら試験に合格できるかってことしか学べません。

知人の息子はとても賢い子で、18歳のときに試験対策として哲学を勉強することを決めました。彼は生まれつき哲学の素養がありますし、論文も2本書きました。しかし、それを見た教師は「これじゃだめだね。カリキュラムで求められているタイプの論文じゃないからね。自分のアイデアを書くのではなく、他の人が言ったコメントをまとめるべきなんだよ」ですって。

ということは、イギリスで哲学を勉強するということは、ごく一部の哲学者のみにフォーカスして、「彼はこの本で、こんなことを言いました」という知識を学ぶことなんです。ですから、皆さん自身がどんな哲学を持っていようと、関係ありません。

我々の手元にある教育システムは、試験の結果を出せる人間を輩出するためのものなのです。すごく良い結果で試験に合格できても、深い洞察力や独自の考察があるかと言えば、何もわからないんですよ。

「社会というものはありません。あるのは個人と家庭だけ」

これが、新自由主義ですね。結果主義であり、得られるものは経済的自由と、個人の自由です。考え方は個人主義に偏っていて、社会の中で他者と共存する思想ではありません。

イギリスの元首相のマーガレット・サッチャーは、「社会というものはありません。あるのは個人と家庭だけです」と言いました。多くの自由主義者をインスパイアした作家アイン・ランドは、利他主義は邪悪だと明言しました。これらの哲学は、アンチ共産主義であり、経済至上主義にもとづいた全体主義でまとめようとしています。

また、恐れの感情から生まれた哲学です。彼らが恐れていることの一部に、共産主義の成功もあったでしょう。社会主義と共産主義は、不平等や貧富の差といった、資本主義者にとって都合の良くない疑問を抱いていたからです。サッチャーとアインの思想は、現在もイギリス政府に影響を与え続け、他の国会議員も同じ思想を持っています。そしてイギリス政府の唯一の目的は、コストをかけることなく、個人の自由を最大化することなのです。

文化の多様性が差異とつながりを同時に生む

そこで、考えてみたんです。「個人」って何だろうって。大丈夫、あとで音楽とアートの話はするから!(笑) 今は、多くの人が知らないことについて話したいんです。

過去2万年を経て、人間の脳は小さくなりました。2万年前と比べて、15%小さいんです。これって、皆さんが想像していたことの反対じゃないですか? 将来、脳はどんどん大きくなると思っていましたよね。でも、実際には反対のことが起きている。

2万年前のことを考えてみて。きっと一人ひとりが生存する方法について考えていましたよ。食べ物を集めるとか、その準備とか、動物を追いかけるとか、何かを感じるとか。生きるために必要な情報は全部記憶しなくちゃいけなかった。でもその点でいえば今の私たちは、完全に役立たずです。みんな他の人の情報にアクセスして、"のぞき見"しながら生きていますからね。

次に奇跡について話しましょう。私がバルセロナに来たのも奇跡です。エアバスA380に乗って来ました。飛行機には400万ものパーツがありますが、誰かが作っているんですよね。1,500の企業が関係していて、彼らが他の20万くらいの企業からパーツを持ってきた。ということは、おそらくトータルすれば50万人くらいが、その奇跡的なことに関わっているということなんですよ。航空会社だけでなく、空港、他の交通手段、クレジットカード会社、銀行そして何千もの企業や個人がね。

バルセロナに来るという個人の事情だけでも、私の脳は何もしていないのに、知らないうちにいろいろな人が関わっているんです。私たちは、永久的に、この大きくて複雑な、人々の知識の渦の中で生活していくので、個人で脳を使う必要なんてありません。必要なものはそこにあり、他の人のおかげでつながっていますからね。

しかし、ここでパラドクスがあることに気がつきます。私は小さな脳を持った人間です。ですが、人類は歴史を通して多様化し、大きく異なるバックグラウンドを持つようになりました。私が理解できない生き方をしている人がいますし、私の生き方を理解できない人もいます。私がわからない言語を話したり、関わることのなかった文化を持っていたり。そういうこともふくめて2万年前とは違うんです。2万年前だったら、人類は今と比べれば、ほぼ同じような興味と技術を持っていたはずです。

私が今手にしている1本のミネラルウォーターを作るにも何千もの人が関わっています。私たちには人をつなぐ何かが必要なのです。だって私たちの違いはどんどん広がるし、自立も加速しているからです。差異がつながりを生むというのは、一見逆説的な仕組みなので、うまくいかないだろうと思われるかもしれませんが、今はそれで成り立っています。

科学とアートが人の文化をつないできた

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人間の文化をつなぐものは2つあると思います。ひとつは科学でもうひとつはアートです。科学は、それ自体が共通言語になります。現実が何かというコンセンサスを、経験によって共有できます。

科学は生活に必要なことではありますが、人やモノの価値観に影響することはありません。たとえば、レズビアンが良いか悪いかなんて、科学が決めるべきではありません。何人レズビアンがいるかとか、彼女たちの脳の仕組みは説明できますが、どんな気持ちかを証明するなんて不可能です。どう感じるべきか、どこにどうやって同意するか、あるいは好きか嫌いかを決めるのが、アートとカルチャーなのです。

今日は、このSonarに集まった皆さんがしていることが、一番大切だということを理解してもらいたいです。ニック・モーガンというのがいましてね、最近「子どもたちはSTEM科目(科学,技術,工学,数学)を勉強するべきだ」って言ったんですよ。科学技術エンジニアリングと数学のことですね。そういう勉強のほうが、良い仕事につけるからと言うんです。

しかし、アートについては、何のためにやるのか誰もわかっていません。ですが飛行機を飛ばすにも、電車を走らせるのにも、アートが必要です。食後のアイスみたいなものですよ。具体的にどのような実用性があるのかという問題じゃないということをお伝えしたいんです。カルチャーとアートを融合させながら物づくりをすることが、もっともっと重要になってきます。

何年か前に、アメリカの歴史家ウィリアム・マクニールの本を読みました。1940年代に、彼が軍のアリゾナ基地に駐屯してきたとき、ヨーロッパに派遣されるのを待っていたんです。でも終戦間際だったので派遣されることはなかった。ずっと行進だけをしていたそうです。でもそれが人生の中でとても幸せな時間だったと書いています。彼は人間が同調して動く時間がコミュニティー誕生の原動力だと語っています。ダンスが人のコラボレーションの始まりなのです。

バーバラ・エーレンライクの本も良かったです。カーニバルで人々が集まると、もう興奮してしょうがないんだとか。安全な集まりにするためにグループを作ったり、口説きあったり、セクシーにアピールすることが、団結力のもとになるそうです。

両方とも、人々がお互いに会話をしながら作ったカルチャーのイメージです。1年くらい前に、ロンドンでバスに乗っていたら、後ろに座っていた女性たちが前の晩に見たメロドラマについて話していたんです。どうやらキャラの1人がレズビアンだと告白したみたいで、それについて話していました。2人は、自分だったらどうするか話していました。存在しない女性について、思ったことをなんでも言う。でも誰も傷つかない。

これって、アートでもよくある話だよなと思いました。アートを見て、どう思ったかお互いに言い合うアレです。作家チャールズ・ディケンズは、ロンドンの労働階級について本を書きました。19世紀後半のことです。その本によって、イギリス人の労働階級に属する人たちに対する考え方が変わりました。スラムに住んでいる人たちも自分たちと同じように感じているんだと思っていたのに、実はそうではなかった。お金を持っている人たちが、貧困層のことを理解するのがどれだけ大変かということを痛感したんです。

似た例は、『アンクル・トムの小屋』を書いたハリエット・ビーチャー・ストウです。彼女がこの小説を書いたのは19世紀後半、つまり黒人が奴隷だった時代です。それでも、彼女は黒人たちを奴隷扱いしてはいけないと言いました。この作品はアメリカでの奴隷制度廃止に一役買ったと思いますよ。

これらの話は、アートが社会のコンセンサスを変えた良い例です。この事実は、すごく大切なことだと思います。何に同意しようとしているのか見つけることです。でも、だいたいこういうのは科学的ではないんですよね。気持ちっていう、時間とともに変化するものに影響されるんです。

子どもは遊ぶことで想像し、他の人の考えを理解しようとしている

今ここで、アートの意味を先にはっきりさせておきましょうか。アートとは、やらなくても、物事が止まることがないものです。たとえばファッションや、歌うことがそうです。

でもお気づきかと思いますが、スタイリッシュにやらなくちゃいけないことなのですよね。ヘアスタイルひとつ選ぶだけで、全体が変わっちゃうような選択をとても気にすると思います。なぜそれを選択するのか? それは、世界に対して自分がどんな人物であるかを表現できるからなんです。

自分がどうするのが良いと思ってるか、どんな風に見られたいかということが重要なんですよね。イメージを作ったら、それを中心にしたスタイルを考えていく。これはアートすべてに言えることだと思います。

じゃあ、ロックってどうでしょうか。友達のジェレミー・デラーが、「ロックは20世紀後半の宗教だ」と本で書きました。言われてみればそうだなって思いましたよ。カルチャーの中心ですからね。違う時代でもリーダーがいて、誰もが知ってる音楽があったりして。

じゃあ、クラシック音楽との違いってなんでしょうか? まず人の役割が違いますよね。クラシック音楽にはピラミッド構造があります。作曲家、指揮者、オーケストラのコンサートマスター、楽団員などです。でも、ジャズも4人くらいでそういうことをやっていますよね。ポップミュージックの場合は奇才がすべてです。社会的に立場が弱い有色人種からでも発信されます。それはクラシック音楽とは違いますね。

次はセックスに対する見方です。クラシック音楽は、セックスを汚いものとして扱っています。私もクラシックは好きですけど、身体のことを否定されちゃあちょっとねぇ? だってクラシックのコンサートに行ったら、咳もできないじゃないですか。俺は存在しない、空気になれってこと?みたいな(笑)

でもポップミュージックは違います。踊ったり歌ったりして、一緒に楽しめます。主体となるのがミュージシャンだけじゃない。それに音楽がスポンジのように他の要素を吸収しますよね。いろんなところから盗んで、違う表現にしちゃうんです。現実世界はそんな風に変化していないのですよ。でも進化を円滑にするのがカルチャーだと思います。

ポップミュージックで他に面白いのが、別に上手じゃなくてもいいっていうところです。たとえば、めちゃくちゃうまいギタリストじゃなくてもいいんですよ。速いギターテクが全然できなくても、人が動くほどの影響を与えられるのです。それはとてつもなく美しいことで、コミュニティーってそういうものかなって思います。

さっき言ったように、科学は宇宙がどうなってるかといった物事の仕組みを説明することができます。生活を便利にしてくれるテクノロジーとは、そういうものです。しかし、物事や人の価値観に触れることはありません。人が何を感じて、どう考えるか、それはアートが教えてくれます。一人ひとり違う私たちが、同調してコンセンサスに共感する、そのポイントを作るのがアートです。

アートは複雑なメッセージの塊なんです。触れることで良い時間を与えてもらったと思える、そんなものなんです。

子どもたちを見てください。ずっと遊んでいます。何をやってるか、分かりますか? 想像しているんです。自由に感じて、人の考えを理解しようとしています。

子どもは遊びから学びます。大人はアートを通じて遊び、学んでいきます。そういう意味で、遊び(Play)こそは、私たちがしているすべての中心なのです。それが、私たちができる一番重要なことじゃないかと、私は皆さんに伝えたかったのです。

最後に、私はこのSonar 2016に集まった皆さんはとても重要なことをしていると言いたいです。このことを、真剣に考えてもらいたい。そして、必死に守ってほしい。イギリスでは、遊びがどんどん重要じゃないことになってしまっています。私たちは、良いこと、価値のある何かをやっているんです。皆さんにはそれを続けてほしいですし、守ってほしいです。

ブライアン・イーノ 新譜『The Ship』

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ブライアン・イーノは、グラミー賞にもノミネートされた作品『LUX』(2012年)以来となるソロ・アルバム『The Ship』を今年4月27日にリリースした。
タイトル:『The Ship』(詳細)/レーベル:Warp Records / Beat Records/リリース日:2016年4月27日/URL:Beatink